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「3歳〜10歳が実は大切!」と帯に書かれた、『おうち性教育始めます』(フクチマミ 村瀬幸浩 著・KADOKAWA)なる本を買ってみました。私には子どもはいませんが、姪(姉の子ども)がいます。あまり子ども好きではなく、むしろできるだけ関わりたくないと感じているのですが、姪に関してはけっこうかわいいな、と感じています。
そんな姪も先日3歳となりました。子どもの成長ってほんと早いですね。そこで、本書の出番です。3歳はまだちょっと早いかな、と読み進めてみたところ……「こ、これは……全ての親、いや、すべての人間に読んでほしい!」と思うに至りました。
「性教育=セックスを教えること」と思ってた私のバカ! 性教育のふたつのメリット
まず、性教育のこと、誤解していました。反省。「性教育=セックスのこと」と思っていましたが、本書によると、それは日本によくある誤解だということです。
日本は世界のポルノの約6割が作られている性産業先進国でありながら、性教育が学校で十分にされていないために、「性教育=ポルノ、セックス」という誤解が生まれやすいんだとか。セックスは性教育のたくさんあるテーマのうちひとつでしかないのですが、なぜかそこばかりピックアップされてしまって、それゆえ「性教育なんて必要ないんじゃないか・子どもに教えるは早すぎるのでは」といった意見が出やすいのです。
では、本当の性教育とはなんでしょうか?
本書では、長年性教育に携わってきた村瀬幸浩先生が、イラストレーターのフクチマミさんをはじめ3〜10歳の子どもを持つ保護者たちにわかりやすく性教育について解説(マンガなのでとても読み進めやすい!)。村瀬先生は、「性教育とポルノはまったく違うものと認識をアップデートしてほしい」と言います。性教育とは、「いのち・からだ・健康」の学問でだから。
性教育を学ぶことにはふたつのメリットがあります。ひとつは、性的なトラブルを避けられること。もうひとつのメリットは、自分の性や体に対して肯定的に捉えられるようになって自己肯定感の高い人間に育つこと、です。
3才〜10才の子どもにまず教えるべき「プライベートパーツ」
日本は性産業先進国ですが、性教育は後進国です。学校ではほとんど教えてくれません。そこで、自宅で子どもに教える必要がでてくるのですが、親もまず何を教えるべきかわかりません。子どもの頃に、教わっていませんしね。
本書では、「まずはプライベートパーツの話から伝えよう」と提言しています。
プライベートパーツとは、「他人が(親であっても)勝手に触ったり、触らせたり、見ようとしたり、見せたりしてはいけない場所」です。具体的には、「口、胸、性器、おしり」の4つがプライベートパーツに当たります。
まずお子さんには、「口、胸、性器、おしりは、プライベートパーツだから、勝手に触ったり、見ようとしてきた人には、嫌だ!と言って逃げて」と教えましょう。プライベートパーツについて理解できればスカートめくりやカンチョーもしなくなる(つまり、加害者になることを防げる)し、相手の変な言動を「友達だから、好きだから、からかっているのかな。好意だから断れない」と拒否できずに取り返しのつかない犯罪被害に巻き込まれることも予防できる、というわけです。
子どもに身の守り方を教えるときは、「NOの感覚を押さえ込まないこと」です。NOを伝え、受け入れられることで自分や相手を尊重することを学ぶのです。①はっきりと拒否して(NO)②逃げる(GO)③「秘密だよ」と言われたとしても信頼できる大人に話すこと(TELL)の、NO・GO・TELL(ノー・ゴー・テル)を繰り返し伝えておくことが大切だとか。
NO・GO・TELL…これ、大人でも苦手な人、いると思いませんか? 性的なことに限らず、子どものうちから、NO・GO・TELLの訓練をしていたら、嫌なことに対する感度が研ぎ澄まされ、「あのときは笑顔で対応したけど、よく考えたら、ありえない!」といった思い出しムカつき事案がかなり減るのではないでしょうか。
「性・性器=汚いもの・ダメなもの」と思い込まない 言葉遣いに気をつけよう
プライベートパーツのことやNO・GO・TELLだけでなく、『おうち性教育始めます』で解説される性教育にまつわる知識は、35歳の私が読んでも「勉強になるな」ということばかり。特に「大人も知っておくべき」だと感じたことが、二つありました。
ひとつは、性器や性を汚いものだという価値観を植え付けないほうがいい、ということ。
たとえば男の子の場合、射精を汚いものだと感じてしまったら、自分の体が汚れていると感じたり、女性は汚していい存在なんだ、と女性を蔑むようになってしまう可能性が出てきます。
また、女の子が自分の生理を汚いと感じたら、自分の体を肯定的に感じられなくなってしまう可能性もあります。そういったことを避けるために、性や性器に関する不潔視は避ける必要がある、というわけです。
たとえば、「おまた、おちんちんは触ると汚い」ではなく、「大切なところだから触るときは綺麗な手で」と教える。「汚物入れ」と言わず、「サニタリーボックス」と言うなど、言葉に気をつけることで、自己肯定感を傷つけずに性・生と向き合うことができます。
AVで描かれるのは「支配するための性行為」が圧倒的に多い
もうひとつは、性行為は大きくわけて3つある、ということです。ひとつは、子どもをつくるための性行為。ふたつ目は、相手とのコミュニケーションを通じて、体や心の気持ち良さを分かち合う性行為。そして最後に、支配するための性行為です。
支配するための性行為とは、相手を対等の存在と考えず、権力・腕力・経済力・愛という名目などで、自分のいいなりにさせようとする性行為のことです。支配するための性の根っこには、男は強引に仕掛けるべき、快楽は男のもの、といった性別役割の偏見があることが多く、AVやアダルトサイトの性情報には、この支配するための性行為を扱ったものが圧倒的に多いという特徴があります。
「セックスってそういうもの」と思い込んでいる大人たちに、この「性行為には3種類ある」って考え方を知ってほしいです。
今回のブックレビューは、単なる内容紹介に終始してしまいました。でも、是非『おうち性教育始めます』を読んでみてほしいのです。それくらい、ためになる話がたくさん詰め込まれている、と個人的には感じました。
本書の読者には、3才から10才の子どもを持つ親が想定されていますが、個人的には、親でなくても楽しめる&勉強になる一冊だと思います。この本を買った時は姉にあげるつもりでしたが、やっぱり自分の手元に置いておこうかな……と迷ってるくらいです。
(原宿なつき)
▼村瀬幸浩先生に性教育について聞いたインタビューはこちらでどうぞ
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