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アトピー性皮膚炎の薬物療法ではステロイド外用薬を使うことが多いですが、この「ステロイド」をなんとなく怖い薬だと思っている保護者の声は少なくありません。
そこで、子どものアトピー性皮膚炎について徹底的にわかりやすく・詳しく描いた一冊『マンガでわかる! 子どものアトピー性皮膚炎のケア』(内外出版社)から、ステロイド外用薬の正しい使い方についてご紹介します。
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子どものアトピー性皮膚炎、「ステロイド」の正しい使い方は?【マンガ】
アトピー性皮膚炎は慢性化する前の早めのケアが肝心ですが、その仕組みは難しく、またケアの方法や治療についてもデマが多く流れています。 そこで、子どものアトピ…
ステロイドって何?
子どものアトピー性皮膚炎に対する薬物療法では、主に「ステロイド外用薬」「タクロリムス軟膏」が使われています。今後、開発中の新しい外用薬も使えるようになる可能性はありますが、今のところ手数が少ないのです。
その中でもステロイド外用薬は、日本でも世界でも、アトピー性皮膚炎に対する治療において最初に使用される第一線級の薬です。
ひとくちにステロイドといっても、副腎皮質ホルモン(糖質コルチコイド、鉱質コルチコイド)、 性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン)があります。このうち、アトピー性 皮膚炎で使われるステロイドは糖質コルチコイドです。実は「ステロイド(糖質コルチコイド)」 は、もともと誰もが自分の体の「副腎」という臓器で毎日作り出しているホルモンの一種。副腎とは、体の老廃物をきれいにして尿を作っている「腎臓」の上にくっついている小さな臓器のこと。
そしてステロイドには、炎症を抑えたり、血圧を上げたりする作用があり、体内で作り出せない場合は定期的に補充しなければ生きていけないほど重要な物質です。ですから、「ステロイドが体内にずっと溜まって悪いことをする」ことはありません。
ちなみに筋肉がムキムキになる「蛋白同化コルチコイド」とごっちゃになっている方がいるかもしれませんが、これはまた別のステロイドです。
ステロイド外用薬の役目とは
アトピー性皮膚炎は、皮膚に炎症が起こる病気です。その炎症を抑える薬が、ステロイド外用薬です。炎症に関して、ちょっとおさらいをしましょう。
皮膚のバリアとして最も大きな役割を果たしているのが角層です。角層が傷んだところに刺激が繰り返されると、皮膚は情報伝達物質(サイトカイン)をばらまきます。そして情報伝達物 質はかゆみやアレルギー体質をひどくしていき、皮膚の毛細血管を膨らませます。だから、炎症は“赤く”見えるのでした。
そして、さらに血管の周囲に液が広がり、炎症を悪化させていくのでしたね。体を防御するための反応でもあるので重要なのですが、この反応が「いきすぎてしまう」のがアトピー性皮膚炎の炎症といえます。
この“いきすぎた炎”を消し止めるためにステロイド外用薬が使われるのです。ステロイド外用薬は、どんどん出てきている情報伝達物質の働きを弱め、広がった血管を細くして周りへ漏れていく液を減らします。まさに炎を消し止めるように炎症を鎮めていくのです。
外用薬にはランクがある
いきすぎた炎症の強さは様々です。炎に例えるなら、マッチの炎、たき火の炎家の火事、大きな山火事などがあるでしょう。山火事なら、ヘリコプターや消防車を呼びますね。でも、たき火に消防車を呼ぶ必要はないでしょう。 炎症を収める場合も同じで、その勢いや規模によって、ステロイドの強さを変えることになります。
先ほど、皮膚の炎症は毛細血管を膨らませるとお話ししました。そして、ステロイド外用薬の強さは「血管をどれくらい収縮させるか」で決められて いて、その収縮させる強さでI群〜V群の5ランクに分けられています。I 群がストロンゲス ト(最も強い)、II群がベリーストロング(とても強い)、III群がストロング(強い)、IV群がミディアム(普通)、V群がウィーク(弱い)になります。
日本のガイドラインでは前ページの表のようにまとめられ、この表を参考にしながらステロイド外用薬は処方されています。注意点としては、「真ん中クラス」であるIII群のステロイド外用薬に「ストロング(強い)」という名称がついていることです。処方された薬を調べて「強い」と書いてあると驚かれるかもしれませんが、ただの名称と捉えてくださいね。
このランク表は、検討した研究によって、同じステロイド外用薬でもIII群になったりIV群になったり、多少のずれが出てきます。そして、日本では5段階ですが、米国では7段階に分類されています。医師はこのような分類の中から、例えば同じIII群の中でも、強い弱いを考えながら処方しているのです。
吸収率や量も考えて処方
ステロイド外用薬の吸収率は、体の場所によって差があります。
例えば、前腕の内側の吸収率を1とすると、ほおは13倍、おでこは6倍、手のひらは0• 83倍、足の裏は0•14倍、陰嚢は42倍と報告されています(※1)。このように吸収率が大きく違うため、体の部位によって違う強さのステロイド外用薬を使う必要があるのです。
私は、体と手足はIII群(症状が軽ければIV群、重ければII群)、顔はIV群(症状が重ければ短期間のみIII群)から使い始めることが多いです。
なお、V群はきわめて弱く、現在はアトピー性皮膚炎に対してほとんど使われていません。例えば、IV群クラスと同程度の強さと考えられているタクロリムス(0•03%)軟膏と比較しても、V群ステロイド外用薬は効果が低いという報告もあります(※2)。ただし、陰部や目の周囲などはステロイドの吸収率が高く、V群でも有効なので活用される場合もあります。
一方で、I群(ストロンゲスト)は強すぎて問題を起こしやすいことが知られています。I群のステロイド外用薬 は、海外では市販薬にも含有されていて、不適切に長期使用される場合があるのです。おむつかぶれに長期に使用して、全身的な副作用を起こしたという報告もあります(※3)。I 群のステロイド外用薬は、専門医のもとで、より慎重に使う必要があるでしょう。
また、ステロイド外用薬は、塗る量も考える必要があります。アトピー性皮膚炎患者において通常処方されるステロイド外用薬は、体重10kgあたり1か月に15g未満と計算されています。そして、その範囲では全身的な副作用はありませんでした(※4)。ただし、重症のアトピー性皮膚炎では、最初の治療開始時はもっと多いステロイド外用薬を使用することになります。その場合は特に、保湿剤も併用して全身状態をみながら丁寧にステロイド外用薬の減量を目指します。例えば、中等症以上のアトピー性皮膚炎のある生後 1か月未満の乳児173人に対し、保湿剤を使用すると、保湿剤を使用しない子どもと比較してステロイド外用薬の使用量が42%も減ったという報告もあるのです(※5)。
徐々に減らしていくことが目標
このように、ステロイド外用薬は体の部位ごとに、症状ごとに適切な強度や量や使用間隔などのルールを守り、しかも副作用を考慮しながらの丁寧な処方を要する面倒な薬です。ですから、私もステロイド外用薬が好きなわけではありませんが、アトピー性皮膚炎の治療には大変有効です。
最もよくないのは、不適切なステロイド外用薬をだらだらと毎日塗ること。「ステロイド外用薬を毎日塗ると、だんだん効きが悪くなるのでは?」という質問を受けることがありますが、そうした場合は十分なランクの外用薬が適切な量で使用されていないケースがほとんどです。適切なランクのステロイド外用薬を適切な量で塗ると、多くは効果があるからです。
ただし、毎日使い続けると、ステロイド外用薬がくっついて効くカギ穴となっている「ステロイド受容体」が減ってくることで効果が低くなる可能性も報告されています(※6)。
そして、ステロイド外用薬は「徐々に」減らすことが大切です。皮膚の状態が改善したあと、すぐ中止すると再度悪化することはよくあります。これを「リバウンド」と呼ぶ患者さんが多いですが、再び十分なランクのステロイド外用薬を使用してゆっくり減らしていくと再度悪化することは少なく、リバウンドというより、治りきっていなかったことがわかります。
一方、長期間ステロイド外用薬で治療を続けている方が突然中止すると、急激に悪化するケースも稀にあります。この悪化の程度はきわめて激烈で、特に成人の顔面ではよくあり、正式な「ステロイドのリバウンド」といえます(※7)。
やはり、保湿剤を併用しながら「減らす、止める」を目標にする必要性があるでしょう。
参考文献
※1 J Invest Dermatol 1967; 48:181-3.[PMID:6020682]
※2 Mymensingh Med J 2015; 24: 457-63.[PMID: 26329939]
※3 Endocrine 2010; 38: 328-34.[PMID:20972726]
※4 Br J Dermatol 2003; 148:128-33.[PMID: 12534606]
※5 Dermatology 2007; 214:61-7.[PMID:17191050]
※6 J Allergy Clin Immunol 1995; 96:421-3.[PMID:7560645]
※7 NJDVL 2018; 16:12-6. [https : //doi.org/10.3126/njdvl.v16i1.19397]
※ステロイド外用薬のランクについては、日本皮膚科学会のガイドラインを参照

『マンガでわかる!子どものアトピー性皮膚炎のケア』(青鹿ユウ、堀向健太著/内外出版社)
エビデンスがあって正確で、しかもマンガでわかりやすく、子育てに忙しい読者にやさしい一冊です。アトピー性皮膚炎の基本から、スキンケア、薬物療法、悪化要因対策のことことまで、しっかり理解できます!

堀向健太(ほりむかい・けんた)
日本アレルギー学会専門医/指導医/代議員。小児科専門医/指導医。診療の傍ら様々な医学サイトで執筆しながら、SNSでも出典の明らかな情報を発信している。