アメリカで再び急増するコロナ感染者とトランプの行方

文=堂本かおる
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写真:AP/アフロ

 7月11日、ニューヨーク市の新型コロナウイルスによる1日の死者数が、ついに「0」となった。長い道のりだった。3月半ばに初の死者が出てから、感染者、重症入院患者、死者の数が留まるところを知らずに増え続けた。

 3月22日に全市ロックダウン、4月前半にピークを迎え、1日に600人近い死者を出した日もあった。遺体収容所が足りず、病院に大型冷蔵/冷凍トラックが横付けにされ、遺体を収めた。

 やがてニューヨーカーはマスク着用と6フィート(1.8メートル)のソーシャル・ディスタンスを徹底するようになった。誰もかれもが感染に怯えたが、なかでも黒人とラティーノの感染率が高く、マイノリティ・コミュニティでは多くの人が身内や友人知人から感染者や死者を出している。命がけで働く医療従事者への感謝を表すために自宅の窓から拍手をする「7pm Clap」は、4月から延々6月まで続けられた。

 そのうちに市内の感染者数、死者数が減り始め、ついに死者「0」となったのだった。

 広大なニューヨーク州は10の地域に分けられ、ニューヨーク市はその一つだ。ロックダウン解除は4段階あり、地域ごとに感染者数などの目標数値に達したところからフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3……と段階的に解除されていく。フェーズごとに営業再開できる業種が定められている。ニューヨーク市は再開がもっとも遅れ、7月6日にようやくフェーズ3となった。ただし当初予定されていたレストランの店内飲食は今も禁じられている。

ロックダウン解除、感染者が急増

 ニューヨーク市が店内飲食を遅らせている理由は、再開を急いだ他州での感染者数の急増だ。

 7月13日現在、全米の感染者は330万人を超え、死者は13.5万人となっている。全米50州のうち、新たな感染者数が「減少」しているのはわずか2州のみ、「横ばい」が10州、残りは今も「増加中」だ。特にフロリダ州、テキサス州、アリゾナ州などの増加率が高い。

 7月12日、フロリダ州は1日の新規感染者数15,300人と全米最多記録を更新。その前日、同州にあるディズニーワールドが再開し、激しい批判を受けている最中のことだった。また、同州のディサンティス知事(共和党)は8月からの学校再開も発表。知事はこの件について批判されると「ウォルマート(全米最大の小売チェーン)が再開できるなら、学校ももちろんできる」と発言し、さらなるバッシングを受けている。

 6月末、アリゾナ州の小学校でリモート・ラーニング法を学んでいた3人の教師が感染し、一人が亡くなっている。3人はマスク、ゴム手袋、ハンドジェルを使っていたが、喘息、糖尿病などの持病があった63歳の女性教員が死亡。その教員の夫、子供たち(成人)、孫など親族の多くも感染しており、1人はICUに入院中だ。夫は8月からの学校再開に強い懸念を抱いていると語っている。同州の病院のICUはすでに9割が塞がっており、この件も含め、同州のデューシー知事(共和党)はコロナ対策を誤ったとして州民から批判されている。

 テキサス州は地域によってはかつてのニューヨーク市と同様に遺体安置所が不足しつつあり、冷蔵トラックの配備が始まっている。同州のアボット知事(共和党)は、感染者が殊更に急増しているダラスなどの再ロックダウンを否定し、州民にマスク着用を推奨している。

 カリフォルニア州も感染者が増えており、同州のニューサム知事(民主党)は7月13日、再開していたバーの閉鎖、レストランや博物館など室内での活動を禁じ、「ステイ・アット・ホーム」への逆戻りを発令した。ちなみにカリフォルニアは全米で最も早くロックダウンを開始した州だった。

マスク戦争〜政治のコマとなったコロナ対策

 トランプは、初期にはコロナの存在自体を拒否し、続いて「コロナなど大したことない」などと発言。自身には発令権のない各州のロックダウンに反対し、マスク着用も拒否した。経済を最優先させ、かつ11月の大統領選で再選を果たすためだ。

 トランプ支持者の多くがトランプの言動に追随し、スーパーマーケットなどでマスク着用を申し渡されると、いわゆる逆ギレを起こして「民主党め!」と叫ぶ者まで出た。反マスクが「トランプ支持」の表明となってしまったのだった。加えて反マスク派は「私にはマスクを着ける/着けないの選択をする権利がある」と、米国でよく見られる「権利」の主張を持ち出している。さらにはマスク着用をめぐる諍いが殺人事件となったケースもある。

 いずれにせよ4〜5月の段階で多くの州が次々とロックダウン解除に踏み切った。用心してマスク着用を続ける人がいる一方、マスクを着けず、ソーシャル・ディスタンスも無視して混んだバーで飲み、プール・パーティを開く人々が続出した。米国のバーはBGMや客の話し声が大きく、至近距離にいる同行者との会話も大声になる。そこから感染率が特に高いとされている。

 こうしたコロナ否定派、もしくは軽視派(コロナの存在を否定はしないが、大したことはないと主張)の共和党支持者の票を得るために、共和党員である知事たちはロックダウンを切り上げ、マスク着用を強制せず、多くの人が集まる教会を早々に開放した。キリスト教徒の多いアメリカでは、教会の扱いは有権者の支持に大きく作用する。なお、テキサス州知事は再度のロックダウンを避けるために7月に入ってマスク着用の法制化を行なったが、多数の郡が「着用免除」を勝ち取っている。

トランプ、初のマスク姿

 ロックダウン解除後の感染者の急増と、今も続くBlack Lives Matterデモ。大統領選が日に日に近くなか、トランプがこの2件を上手く捌けていないとして、支持率は急激に下がった。トランプもついに折れ、初のマスク姿公開となった。

 7月11日にウォルターリード米軍医療センターの視察に訪れたトランプは、アメリカ合衆国の国章を付けた黒いマスクを着用した。5月にフォードの工場を視察した際には事前の写真撮影時のみマスクを着け、実際の視察はマスク無しで行った。また、副大統領のペンスは同じく5月に病院視察を行った際、視察団の中で唯一、マスクを着けていなかった。

 科学を否定し、国民の命を危険に晒すトランプ。コロナ対策に関する世論調査で「トランプを信頼」は3割に留まり、「ファウチ博士を信頼」が7割を超えている。トランプはコロナ対策チームの中で「最も信頼できる人物」とされているファウチ博士と、すでに1カ月も対話していないと伝えられている。

 8月24〜27日にかけて、フロリダ州ジャクソンヴィルで共和党の全国大会が開催される。数千人が詰めかけ、党の大物が多数演説し、大統領と副大統領候補の正式な指名、当人による指名受諾演説が行われる。11月の本選に向けて気炎を上げる場でもある。当初はノースカロライナ州での開催予定であったがトランプがソーシャル・ディスタンス案を拒否したため、同州のクーパー知事(民主党)が開催を取り止め、フロリダ州に変更されたのだった(*)。

 民主党の全国大会(バイデン大統領候補)はコロナ禍によりヴァーチャル開催に変更されたが、共和党は予定通り、フロリダ州にある15,000人収容のアリーナ会場での開催としている。ところが今、欠席を表明する共和党議員が続出している。地元フロリダ州のルビオ上院議員は自州での感染拡大に業を煮やして「全員くそったれのマスクを着けろ」とすら発言しており、全国大会はもちろん欠席としている。

(*)後日、共和党は全国大会の屋外開催を検討していると報じられた

ニューヨークの課題〜「人命」と「経済」のバランス

 ニューヨーク市は文字どおりに地獄のようだったパンデミックを過ぎ、感染抑制に成功したと言えるだろう。ただし死者はゼロになっても20〜30代の若い感染者が増えており、市長は警告を発している。

 いずれにせよ、市民の経済活動を犠牲にしたからこその成果だ。膨大な解雇者が出て、多くの店舗やレストランが撤退した。ロックダウンが完全に解除されても戻る職場のない人が多い。

 ロックダウン初期、連邦が大人1,200ドル、子供500ドルの支援金を出したが、一度きりであり、物価の高いニューヨークでは1カ月分の家賃にもならない額だった。失業保険の支払期間は延長され、通常の額に週600ドルが加算されたが、失業保険のない人たちもいる。ニューヨーク市では学校閉鎖によって無料の給食がなくなったため、学齢期のすべての子ども(他国籍者、ビザなし移民を含む)に420ドルが支払われようとしている。ロックダウン開始と共に始まった市内全域での無料の食事配布は今も続いている。

 ニューヨーク市では8月までは家賃未払いによる追い立てが差し止められている。だが、その後はどうなるのか。そもそも低所得で貯蓄がなく、失業保険もなく、復職のメドも立たない人たちもいる。仮になんとか復職できても4月から支払えていない家賃をまとめて払えるはずはない。決して少なくない数の市民がそうした状況にある。9月、ニューヨークはホームレスとなった人たちで溢れてしまうのだろうか。ホームレス・シェルターもすでに満杯だ。

 アメリカの政治家と行政に今求められるのは、感染コントロール、つまり「人命」と、人が生きながらえるための「経済」のバランスをいかに保つか、なのである。
(堂本かおる)

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