なぜ、女性は職場でリーダーシップを取ると「お母さん」扱いされるのか

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 昔、田舎を探索する系のテレビ番組で、タレントが、はじめて会った老人に向かって、「お母さん」と呼びかけているのを見ました。私はそれが嫌でした。私がもし、「お母さん」と呼びかけられたら、「あなたのお母さんではない」と言うでしょう。

 いきなり距離を詰めてくる感じも嫌だし、もしかしたら、その老人たちは誰かの「親」じゃない可能性もありますよね。誰のお母さんでもない人を、「ある程度の年齢に達している」という理由で「お母さん」「お父さん」と呼ぶのがスタンダードになっていること、また特徴ある個人を自分の知っている属性に押し込めようとしている感じも、きつい。

 テレビ番組に限らず、自分の母親以外の女性のことを「母親扱い」するシーンは、そこかしこに見られます。ときには職場において、女性労働者が「母親扱い」されるケースもあります。

 野村浩子著『女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』(光文社新書)は、国内外の女性役員にインタビューした一冊ですが、ここでも「職場で母親扱いされた」事例が紹介されていました。

職場の女性を「お母さん」扱いする人の心理とは?

 大手化学会社に勤める女性が課長に昇進する際、上司から「みんなのお母さんになってほしい」と告げられた。ある取締役の女性は、ともに役員を務める男性から「あなたは女性だから、会議では是非、母性愛をもって発言してほしい」と言われて唖然とした。そんなエピソードが確かにあるわけです。

 また、“言い間違い”ではなく男子学生が女性教員を「お母さん」と呼ぶこともあるそう。昨年9月のビジネスインサイダーの記事によると、「指導する立場にいる」女性であっても、(だからこそ?)「母親」呼ばわりされることはあるようです。

 特に管理職や指導者である女性に対して、「お母さん役割・母性」が求められるのはなぜでしょうか? 

 その疑問を解決するヒントとなる調査が『女性リーダーが生まれるとき』に掲載されていました。その調査とは、25社2500人に「組織のリーダーに求められる特性」「男性に望ましい特性」「女性に望ましい特性」を調べたものです。(P.296)

▼組織リーダーに望まれる特性上位10

1 リーダーとしての能力を備えている

2 責任感が強い

3 行動力がある

4 説得力がある

5 目標へのコミットメントが強い

6 率先して行動する

7 プレッシャーに強い

8 ビジネスセンスがある

9 自立している

10 能力が高い

▼女性に望ましい特性上位10

1 礼儀正しい

2 周囲への気遣いがある

3 困っている人への思いやりがある

4 気遣いが上手である

5 友好的である

6 責任感が強い

7 優しい

8 手助けを惜しまない

9 助けになる

10 自立している

▼男性に望ましい特性上位10

1 自立している

2 責任感が強い

3 行動力がある

4 礼儀正しい

5 率先して行動する

6 困っている人への思いやりがある

7 チャレンジ精神が豊かである

8 周囲への気遣いがある

9 説得量がある

10 積極的である

 この調査から、男性にはリーダー役割、女性には、「優しさ、周囲への気遣い」といった、サポート・アシスタント・ケアの役割が求められていることがわかります。また、「組織リーダーとして望まれる特性」と「男性として望まれる特性」は5項目が同じであるけれど、「組織リーダーとして望まれる特性」と「男性として望まれる特性」の共通項はわずか2項目であることも見てとれます。

 つまり、男性は「男性はこうあるべき」という規範に従いふるまうことで、おのずとリーダーとしての素質があるとみなされるのに比べ、女性の場合は「女性はこうあるべき」という規範に乗っ取ってふるまうと、リーダーの資質がないとみなされてしまう、というわけです。

 米ラトガース大学のラドマン・L・A教授は、「女性はこうあるべき」というジェンダー・ステレオタイプから逸脱した際のバックラッシュは女性の方が強いため、女性はより規範に沿う考え方や振る舞いをするようになる、とも指摘しています。

 ジェンダー規範意識の強い日本においては、女性が女性らしさという規範を逸脱して、リーダーポジションにつくことは容易ではありません。

 そんな中においても、女性がリーダーになる、指導する立場になることは近年、増えてきています。しかし、女性が従来男性に求められてきたのと同じようなリーダーシップを発揮しようとする、「女らしさの規範」からは大幅に逸脱することになります。

 そういった逸脱を好まない人が、女らしさを損なわない形でのリーダーシップの示し方として求めるのが、「お母さんのような、包容力のあるリーダーシップ」なのです。

 つまり、働く女性へのお母さん扱いは、「女性には、職場であっても、さらに教員や管理職といった指導的立場であっても、女性らしくいてほしい」というジェンダー・バイアスから来ている、ということができるでしょう。

働く女性を「お母さん」扱いしてはいけない理由

 いくら女性には女性らしくいてほしい、という個人的信条があったとしても、女性を職場で「お母さん扱い」することは不適切です。

 働く女性を「お母さん」扱いしてはいけない理由は……とわざわざ書くまでもないことですが、実際にそういった扱いをする人がいるので、書きたいと思います。本来なら上司・教師・同僚・部下であるはずの女性労働者に対して、「お母さん」扱いすることは、その労働者の本来の労働とは別の労働(ケア、気遣い、包容力を発揮すること)を要請することと同義です。

 「みんなのお母さん」的ポジションを自ら進んで担いたがる女性もいますが、それは、その女性個人の資質に過ぎません。個人の資質とは関係のなく、「女性」という属性だけにそういった職場での母親役割(つまり、追加の無償労働)を求めることは、無自覚な差別だと言えるでしょう。

 ところで、水商売・飲み屋などの女性経営者に対しても「ママ」と呼んだりしますよね。ホステスは「ママ」呼びなのに、ホストは「幹部、支配人、取締役、主任」など、権力を示す呼び名を自称していて、決して「パパ」ではないところも、とても興味深いと思います。

 ほんと「お母さん」って人気ですよね。その人気の理由を考えるにつけ、産んだ覚えのない人の「お母さん役」、やりたくなさすぎる、と思うのでした。

(原宿なつき)

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