【追悼】三浦春馬は、舞台を愛し、舞台に愛された役者だった。

文=鈴木千春
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三浦春馬Instagramより

 俳優の三浦春馬さんが18日、東京港区の自宅で亡くなっていることがわかった。自宅のクローゼットで首をつった状態で見つかり、自殺とみられている。9月スタートのドラマ出演が控え、年末に主演する日英共同制作の新作ミュージカルの写真も撮り終えていた中での突然の訃報だった。

 舞台俳優としての三浦さんは、とても特別だった。映像作品と舞台では、主演を務められる俳優の“序列”に違いがある。どちらのジャンルでも主演できる若い世代の俳優といえば藤原竜也か小栗旬などと限られているが、三浦さんもその数少ないなかのひとりだった。しかし、ストレートプレーだけでなくミュージカル作品でも主演でき、かつ非常に高い評価を得ているというで、三浦さんは唯一無二の存在だった。

 子役としてキャリアをスタートし華々しく活躍しながらも、恵まれた容姿から「イケメン俳優」枠としてみられることも多かった三浦さんが、実は歌もダンスも非常に優れていると広く演劇界に認識されたのは、2012年の劇団☆新感線「ZIPANG PUNK〜五右衛門ロック III」だろう。ミュージカル作品ではなく新感線らしいはちゃめちゃ劇だが、劇中で三浦さんが披露した歌唱力は、音楽にこだわった生バンド演奏や本職のミュージカル俳優である浦井健治ら共演者らを圧倒するもので、キレキレなダンスも、この作品への出演以前からレッスンを積み重ねてきたものがあることを十分にうかがわせるものだった。

 その真骨頂は、2016年に日本初演されたブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」でダブル主演したドラァグクイーン・ローラ役だった。倒産しかけた靴工場の再建のため、男性の大柄な体格でも支えられるピンヒールの靴、というニッチ分野を開拓するという物語で、トニー賞6部門を受賞した。プロデューサーの中に日本人が含まれていたこともあり、日本でも大きく報道された作品で、大好評を博し、三浦さんら主要キャストを同じくして2年半で再演された。

 三浦さんは2013年、ブロードウェイでオリジナルキャストによる「キンキーブーツ」を観劇し、ローラ役を熱望したと明かしている。ドラァグ姿の美しさもさることながら、ローラは、保守的な工場の従業員たちと話をつけるためには、ボクシングでやり合い勝利もする男性。美しさと、華奢な女性モノのつくりではない靴を必要とするストーリー上の必然性に説得力を与える男性的な体形を持ち合わせた三浦さんは、完璧なローラだった。

 「キンキーブーツ」のショー場面は一部テレビの音楽番組でも放送されたので、目にした読者も多いかもしれない。楽曲の魅力は伝わったかもしれないが、実際に舞台で目にすると、12センチのピンヒールをはいて華麗に踊る姿は、オリジナルキャストのビリー・ポーターに遜色ないといえるとすら感じるほど、圧巻だった。だが、そうしたピックアップされた華やかな場面だけでなく、元ボクサーである父の希望で同じ道を歩みながらも、美しいものへの憧れがとめられず、父の希望どおりの息子になれなかったローラの葛藤を描いた曲での歌声の切なさも、非常に印象に残っている。

 優れた外見であるがゆえに、一時映像では「女性視聴者のための脱ぎ要員」などといわれたこともあった。なるほど、「キンキーブーツ」でのボクシング場面や、同作の前に出演した舞台「地獄のオルフェウス」、2019年に主演した「罪と罰」などでも、上半身裸を披露していた。もちろん思わず観客の目を奪う魅力があることは確かだが、メークをしておらず男性そのものの裸でもチャーミングなローラそのものであったし、「地獄のオルフェウス」での、主演の大竹しのぶ演じるレイディの心を解放させる裸は、安い肉感に収まらない神秘性にあふれていた。重厚なロシア文学作である「罪と罰」では、作品テーマに通じる禊(みそぎ)が感じられた。

 熱望して射止めたローラ役を、2年か3年に一度演じたいというほど大切にしていた三浦さんは、子役時代、現場で大人たちの顔色をうかがっていた経験から自分の気持ちが言えず我慢してしまうタイプだったという。自分にプライドをもって主張するブロードウェイの世界に憧れたのは、必然だったのだろう。

 所属事務所のアミューズは近年、舞台製作に力を入れており、昨年製作したミュージカル「ファクトリーガールズ」は、同じく舞台製作に熱心な他事務所の上層部が「こういう作品を作られると参っちゃうなぁ」とこぼしていたほどだった。素晴らしい舞台役者である三浦さんがいなくなってしまったことは、その事務所の方針にも影響を与えうるだろう。観客にとっては、愛すべき俳優がひとり失われたということ以上にその損失は、大きなものになってしまうかもしれない。

 「キンキーブーツ」の演出家は、日本版演出協力と上演台本は岸谷五朗だが、演出はブロードウェイで活躍するジェリー・ミッチェル。三浦さんは留学経験や同作の出演などで、海外志向があったと伝えられている。「地獄のオルフェウス」「罪と罰」の演出はイギリスの演出家フィリップ・ブリーンによるもので、年末のミュージカル「イリュージョニスト」は同じくイギリスのトム・サザーランド。舞台での活躍ぶりと輝きを思い出せば、それこそ本当に、世界の舞台で羽ばたける可能性もあったのではという思いを打ち消すことができない。いまだはただ、三浦さんの冥福を祈りたい。

(文=鈴木千春)

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