桜井誠を支持する都知事選18万票という衝撃 民主主義とは一体何か?

文=金村詩恩
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 一時帰国以来、半年ぶりの成田空港で、キャリーケースを引きながら、動く歩道を歩いていた。留学先の釜山では会話が濁流のように耳へ入ってくるのが当たり前だったから、空調の音しか聴こえない静けさがとても不気味だった。日常を取り戻すにつれ、1年前に旅立ったときとなにか変わったように感じた。日本の若者は参加意識が低く、デモも少ないと教わったが、テレビをつければ、学生が国会前で声をあげている光景が流れるし、SNSを開けば、ヘイト投稿が目につくようになった。キナ臭さを感じつつ、復学後は友人の出演した映画撮影の手伝い、発表の準備、卒論の発表に追われていた。

「法案に反対ですけど、デモはなんか違うんですよ。皆でおなじことばをいうのが嫌で。」
「すごく分かる。だけど、行かなきゃって感じがするし……。」
「行くべきみたいな圧力感じません?」

 西日が差し込む教室で、平和安全法制について議論していた。留学前に通いはじめたころからいろんな話が飛び交うゼミだった。知ってる顔ぶれはわずがだったが、スタイルは変わっていなかったようだ。壁にかけられた時計に目が入る。授業が終わるまで、わずかだった。

「白熱してるときにすみません。皆さんに伝えたい話があるんですけどいいですか?」

 最近入ってきた後輩が手を挙げた。

「なにか告知でもあるの?」

 先生が指す。

「きょうの夜、国会前で抗議があります。いろんな意見があるみたいですけど、実際に足を運んで、考えてもらえればって思います。何度か行ってるんで、参加したいひとは声をかけてください。」

 画面の向こうの出来事が近くにあった現実に気づかされた途端、チャイムが鳴った。

 教室を出た。なにが起きてるのか知りたくて、永田町にひとりで行った。

 暇なとき、よく散歩してたので、4、5キロほど歩くのは苦じゃなかった。進むにつれ、「参加される方へ」と書かれた看板やドラマで観た機動隊を乗せる青いバスが現れた。普段なら背広のひとたちばかりなのに、Tシャツに黒いスキニーの若者やのぼりを持った初老の女性が歩いていた。

「会場に向かう方は左、通行のみの方は右側をお通りください。」

 語りかける警官の後ろには、国会議事堂がそびえていた。いろんな場所が観たくて、右を歩いた。

 交差点近くにあげられた旗。

 公衆トイレの前に立てかけられた「NO WAR」と書かれたプラカード。

 ベンチに置かれたトラメガ。

 殺風景な街が時間経るごとに変わっていく。

 最初、通行人ばかりだったが、仕事着のひと、ドラムを持ったひと、髭面のいかついひと、中学か高校の制服を着たひとが狭い左側に列をなした。そのなかに、後輩によく似たひとが誰かといた。声を掛けようと思ったとき、「戦争法案絶対廃案」と聴こえはじめた。

 声の方向へ近づく。

「民主主義ってなんだ?」
「これだ!」

 リズミカルな掛けあいに、高揚感が高まる。

 なかに入ってみたいと思って、反対に移ろうとした。

「国民なめんな!」

 だれかの叫びが暗くなった空を突き抜けた。

“俺たちは韓国籍で選挙に行けないから”

 伯父が歳のわたしへなにか託すように語っていた正月を思い出した。

「国民じゃないひともいるんじゃないの?」

 勇気を出し、聴こえる大きさで口にしてみたが、すぐにはじまった学生のスピーチでかき消された。疲れが一気に襲ってきた。駅に向かって、歩きはじめた。

 向いのホームにたくさんのひとが降りる。これからまだ増えるのかと思ったら、電車が来た。いつもより空いてる車内で席を見つけるのは簡単だった。さっきとは違って、スマホを観たり、目をつぶったりするひとたちばかりで、とても静かだ。

「民主主義ってなんだろう。」

 ささやきは列車の走行音にかき消されてしまった。

「行った方はいますか?」

 翌週のゼミで、後輩がたずねた。

「行きましたよ。」と答えたら、「どうでした?」とすかさず、訊かれた。
「うーん。」

 2、3分、のあいだ、静けさが漂った。

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