大手企業の正社員になった一般男性が、「劣等感を抱かなくて済むポジション」のためにしていること

文=清田隆之
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GettyImagesより

(※本稿の初出は『yomyom vol.62』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 一般男性という言葉がある。例えば有名人が結婚したときに「お相手は一般男性」などと使われるあれだ。ネットで調べれば「主に特に変わった、特別な部分の無い一般的な男性の事。また、マスメディアで活動しておらず、プライバシーに配慮して名指しを避けられる(具体的には、芸能人・アイドル・歌手・スポーツ選手などでは無い)男性という意味でも使われる」(ピクシブ百科事典)とも説明されている。

『男らしさの終焉』(グレイソン・ペリー 著/小磯洋光 訳/フィルムアート社)には、男性・白人・ミドルクラス・ヘテロセクシュアル(異性愛)といった属性を持つ“デフォルトマン”という概念が登場する。彼らは制度や環境設定における基準(デフォルト)となる存在で、本書が分析対象とするイギリス社会のマジョリティ(社会的多数派)となっている。ここで言う一般男性もこのイメージに近い。

 しかしその一方で、一般男性とは「一般」と言うわりに案外よくわからない存在でもある。私は恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきたが、女性たちの多くは「男が何を考えているのかわからない」と言う。確かに男性が相談に来ることは稀だし、仕事の話や趣味の話、あるいは自慢話や武勇伝のようなものではない、もっとプライベートな領域の、恥ずかしい部分や弱い部分を含めた「自分語り」を聞く機会は意外に少ない。

 この連載では、そんな一般男性にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく。ときに賛同できない意見や、たとえば倫理的に首をかしげたくなるような発言も出てくるかもしれないが、男性たちの正直な気持ちを知ることを目的とするため、ここでは個人的な価値判断を入れず、語りおろしという形でありのままを伝えられたらと考えている。

 いや、「ありのまま」ということについては、私はあらかじめ読者のご理解をどうしても得ておかなければならない。この企画に協力してくださった方々が率直に語れば語るほど、彼の社会的な地位や人間関係を損ないかねない事柄も含まれてくる可能性がある。そうした様々なしがらみが彼を何かに縛り付けているのだとしても、それを振り捨てれば現在の日常生活が損なわれかねないからこそ、彼は屈託を抱えたまましがらみの中にとどまってきたのだ。また、それこそが男性性の問題を考える上で重要な何かを示唆しているようにも思う。

 本稿では、彼のプライバシーを守るために、名前や経歴、あるいは語られた具体的なシチュエーションそのものにも筆者の責任で変更を加えて行く。「シチュエーションA」を「シチュエーションB」に移し替える際には、それが彼の「ありのまま」を正確に引き継ぐよう細心の注意を払うつもりだが、この行為自体が筆者の「個人的な価値判断」に、どこかで結びつくことは否めない。それでも、私は私自身に由来するバイアスを可能な限り排除すると約束する。

 今回は、インフラ事業に関わる大手企業(P社)から官公庁へ出向し、役所が主導するプロジェクトチームの一員として働く進藤涼一さん(仮名)にお話をうかがった。アラフォーのロスジェネ世代。フリーターから派遣社員となり、2度の引き抜きを経て国内有数の大手企業の正社員となった進藤さん。さわやかで親しみやすいキャラクターを武器に絵に描いたようなトントン拍子のサラリーマン人生を送る一方、出世するに連れて高まる仕事のプレッシャーや自分のメッキが剥がれることへの恐怖、いまだに癒えない10年前の失恋の傷などを抱え、キックボクシングやフットサル、自傷的な自慰行為など様々なものに依存してきたという進藤さんのお話。

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