「無能だけどコミュ力がある」から大企業でやっていけるだけ…虚しさ抱える一般男性の自傷行為

文=清田隆之
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「無能だけどコミュ力がある」から大企業でやっていけるだけ…虚しさ抱える一般男性の自傷行為/清田隆之の画像1

GettyImagesより

(※本稿の初出は『yomyom vol.62』(新潮社)です)

大手企業の正社員になった一般男性が、「劣等感を抱かなくて済むポジション」のためにしていること

(※本稿の初出は『yomyom vol.62』(新潮社)です)【一般男性と呼ばれた男】 一般男性という言葉がある。例えば有名人が結婚したときに「…

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「無能だけどコミュ力がある」から大企業でやっていけるだけ…虚しさ抱える一般男性の自傷行為の画像2 ウェジー 2020.07.24

【一般男性と呼ばれた男】

 前回に続き、インフラ事業に関わる大手企業(P社)から官公庁へ出向し、役所が主導するプロジェクトチームの一員として働く進藤涼一さん(仮名)にお話をうかがった。

 進藤さんはアラフォーのロスジェネ世代。フリーターから派遣社員となり、2度の引き抜きを経て国内有数の大手企業の正社員となった。さわやかで親しみやすいキャラクターを武器に絵に描いたようなトントン拍子のサラリーマン人生を送る一方、出世するに連れて高まる仕事のプレッシャーや自分のメッキが剥がれることへの恐怖、いまだに癒えない10年前の失恋の傷などを抱え、キックボクシングやフットサル、自傷的な自慰行為など様々なものに依存してきたという。

「とうとう無能がバレる!」という恐怖

 P社に入って4〜5年ほどは同じ部署にいまして、前の会社時代と同じインフラ事業の現場仕事に携わっていたのですが、そこから初めての異動を経験し、半年間ほど営業職を経験しました。お客さんと話すのも苦じゃなかったし、そこまで忙しい部署でもなかったので、ずっとここでのんびり働きつつトレーニングに精を出そうかと思っていた矢先、「新規に事業部が立ち上がるから異動しないか?」という話をもらいました。聞けば経営陣の一人が直轄する組織で、すごく大変な部署だと。で、募集の条件が「会話ができてタフなやつを一人用意してくれ」ということだったらしく、「お前しかいないから行って欲しい」ってなりまして。

 そこは有望なやつらを集め、ガッチガチに仕上げて経営層に上げていくみたいな組織で、社内で「トレセン(トレーニングセンター)」と呼ばれていることを知りました。以前にも同じような動きがあって、そのときに生き残ったメンバーはみな取締役とかそういうクラスになっているそうです。これはすごいところに呼ばれたなと思いました。しかしその一方で、「とうとうバレてしまうんじゃないか……」という不安も同時にわき起こってきました。

 僕はこれまで、確かに客観的に見たら絵に描いたようなステップアップをしてきたと思いますが、それは特筆すべき結果や業績を残したからとかではないんですよ。上司が誰かを選ぶときって、結局はそいつを知っているかどうか、顔と名前が一致しているかどうかってのが大事で。とりわけ大きな会社になると部下なんて星の数ほどいるわけで、誰かを選ぶ際に一人ひとりヒアリングして吟味するのは不可能だから、「自分が知っているやつの中でいい人材を」って話に当然なる。

 バイト時代に「社員にならないか」と誘ってもらえたのはおそらく一緒に働きやすい程度にコミュニケーション能力があったからだし、前の会社で正社員登用や昇進試験に推薦してもらえたのも、お偉いさんに「あいさつがいい」と気に入られたからでした。今の会社でも、キックボクシングをやっていることでタフなやつだと思われたり、「俺も格闘技を始めたいんだけど」と上層部の方から声をかけられ、社内人脈が広がったりしたことが大きなアドバンテージになっています。結局、偉い人も直接仕事の内容を見ているわけじゃないんですよね。

 自己分析をすると、僕は器用なタイプというか、どんなことでも平均以上にはこなせるんだと思います。ペーパーも得意で、どの試験でも効率よく勉強して一定以上の成績を残す自信はあります。評価とかも平均より下を取ったことはないんですが、何かに特化した知識や能力があるとか、自分にしかできない仕事があるとかでは全然なくて、言ってしまえば大失敗はせずに上司と仲良くやっているだけなんですね。「あいさつがいい」とか、業績と無関係じゃないですか。だからいつも、「これで大丈夫かな?」って思いながら仕事しているというのが正直なところです。会社のためって意識も薄く、得がないからという理由で後輩の指導とかには1ミリも興味が持てません。こんなんでよく出世できたなって(笑)。

 異動した事業部は会社の今後を決めるような戦略を練るところで、質の高いアウトプットが求められます。まわりも社内エリートばかりで、残業が多いとか上司に怒鳴られるとかではないんですが、とにかく一分一分のプレッシャーがすごくて……。例えば経営会議の資料を作ったりするんですが、自分の作った資料がこの大企業の何かを左右するのかと思うと、間違いやリサーチ不足があったらどうしようって。その重圧でリアルにゲロを吐いたこともあります。

 これまでもステップアップするたびにメッキが剥がれることへの恐怖を感じていたわけですが、いよいよヤバいというか、俺の無能さが白日の下に晒される……みたいな。「こいつダメじゃん!」って笑われる想像を毎回しちゃうんですよ。今までなんとかなってきたし、自分なりに頑張ってはきたんだけど、今回ばかりはちょっと無理かもなって。だって、そんな大勢の人が見る資料なんて作ったことないですもん。そのときは眠れなくなって心療内科で睡眠薬をもらったりしていました。キックボクシングのトレーニングも減りました。とはいえ、週7で走ったりジム行ったりしていたのが週3になったくらいで、やってたはやってたんですけど。とにかくキツい日々でしたね。

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