YOASOBI×橋爪駿輝「僕たちの音楽の答えは小説の中にある」

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(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

──昨年11月に公開されたデビュー曲「夜に駆ける」のMVが2700万回再生され、いま最も注目されている音楽ユニットYOASOBI。それぞれソロで活動していたコンポーザーのAyase、ボーカルのikuraの2人がタッグを組んだユニットの特徴は「小説を音楽にする」という、ありそうでなかった新しい取り組みだ。小説&イラストの投稿サイト、「monogatary.com」に投稿された小説作品を原作に2曲リリース。

 3作目として2020年5月にリリースされた最新作「ハルジオン」は小説家・橋爪駿輝による短編小説「それでも、ハッピーエンド」から生まれたそう。楽曲を届ける2人と、その原作を紡いだ小説家──平成生まれの3人の対話が実現した。

「それでも、ハッピーエンド」から「ハルジオン」へ

橋爪 Ayaseさんとは3月以来ですかね、お久しぶりです。「ハルジオン」を作られるにあたって、一度お会いしましたけど。アーティストの方に原作小説を提供するというのは僕自身初めてだったので、見合い結婚みたいな感じで結構緊張して。

Ayase 僕もめちゃくちゃ緊張してました。でも一回の話し合いから、あのクオリティの作品まで持って行っていただいて。

橋爪 いやいや、僕の方は書いたものをお渡ししただけで、それをAyaseさんが曲にしてikuraさんが歌を吹き込んでくださるわけで、リレーってバトンをもらう方が大変だろうなあと思うんです。制作期間も限られていたでしょうし、どうでした?

Ayase 実は「ハルジオン」は結構さくさくっとできました。

ikura YOASOBIとしては今回3作目になるんですけど、毎回原作者がいらして、Ayaseさんが作曲して、最後に私が歌を載せるので、その前者の方達の意図とか、主人公の気持ちをちゃんと汲んで歌えてるのかなってのは難しくて不安になったりもするんですよね……。

橋爪 今回結構すさんだ女の子が主人公になってしまったので(笑)。まだ19歳でikuraさんはお若いですけど、登場人物の気持ちは想像しながら歌われるんですか。

ikura そうですね、今回は恋愛小説でありつつも夢を追い続ける、みたいな気持ちが描かれていたと思うんですけど、私も小さい頃から歌手を目指していて挫折とかもあったりしたので、そういう共感できるところを見つけて、って感じですね。

橋爪 Ayaseさんがikuraさんにここはこう歌うんだよーって教えるみたいなやりとりをされているってYOASOBIさんのツイッターで見ました。

Ayase 曲を作る上での僕のイメージした歌い回しを伝えて、本人が原作を読んでイメージしてきた歌い方とすり合わせながら、ですね。でも僕が言えることはどっちかっていうと音楽的なことで、こういうリズムの方がここは合うかも、とか。表現についてはikuraに任せてます。

馴染みやすいのにハマる歌声

橋爪 そもそもお二人はそれぞれソロで活動されていたわけですけど、どういう経緯でYOASOBIは結成されたんですか。

Ayase 最初は僕のところにmonogatary.comのスタッフさんから連絡があったんです。小説を音楽にするっていう企画があるんですけど曲作りませんかって。そこからボーカリストを探して、ikuraをinstagramで見つけて。

橋爪 インスタで?

Ayase はい、あいみょんさんだったかな。カバーした動画が上がっているのを見て、オファーしました。

橋爪 それは、何が他の方と違ったんですか。

Ayase その質問を頂いたらよく「透明感」って答えてるんですけど、透明感も確かにそうなんですけど何て言ったらいいのかな。いい意味で「いそうでいなかった声」だなとすごく思っていて、聞き馴染みがあるんだけれど幾田りら(編注:ikuraさんのソロ活動時のアーティスト名)でしかない。スッと入りやすいけれど、ハマる声。

橋爪 その頃、ikuraさんは17歳、18歳ですか。

ikura 動画は18歳ぐらいですね、高校生でした。

Ayase そっかそっか、高校生と思うとヤバイね。考えたことなかった(笑)。

橋爪 すごいですよね。「ハルジオン」のMVの公開前のティザー動画でikuraさんが(原作を)音読してくださったじゃないですか。結構感動して。確かに、しっとりしているけど説得力がある声で「これや」となりました。

ikura 読み方とか解釈とかあってましたかね。

橋爪 もちろん、切なくてよかったです。

原作の言葉を歌詞にはしない理由

橋爪 ざっくりした質問になりますけど、YOASOBIにとって小説とは?

Ayase 小説とは……うーん、楽曲を作る人目線で言うと「解答」「答え」ですね。もちろん小説から入って楽曲を聴いてくれる人もいると思うんですけど、どちらかと言うと楽曲から入って小説に立ち返ってほしいって意図があって。この音楽を聴くことで見える景色だとか、明確な言葉としての答えが原作にある、という作り方をした方が両者を行き来しやすいだろうなって。小説を読んでわかった上でもう一度MVを見て、といった行き来が。

ikura 私の場合は自分がシンガーソングライターとして活動しているときは、自分がストーリーを作って自分で曲を書いて歌ってるんですけど、YOASOBIの時は原作者さんがいて曲を作るAyaseさんがいて、私がいる。イメージとしては小説が骨でAyaseさんがそれに肉付けをして、自分は皮膚、と思っています。最後のコーディネイトというか。

橋爪 なるほど〜。お二人とも、自分で曲も歌詞も作って、歌も、Ayaseさんの場合はボカロですけど、要は0から100まで作れる人じゃないですか。僕が逆の立場だったらちょっとめんどくせーなって思いそうで。原作のあることが「答え」とか「骨」と思えなくて「枷(かせ)」になってしまう部分もあるんじゃないかな。というか当然あると思うんですけど、どうですか。

Ayase おっしゃる通り、ゼロから作るより、使う言葉とかストーリー展開で制限される部分はあるんで、それはめっちゃ難しいんですけど、でもそれが楽しいと思ってやれてます。パズルをはめている感覚というか。「この歌詞ってこういう意味だったんだって小説読んでわかった」みたいな感想を聞くとしめしめって気持ちになります。自分だけで曲を作るより遊びの感覚が強いというか、面白いフォーマットで遊ばせてもらってる感じです。

橋爪 面白がれるの、かっこいい。

ikura 私、ソロでシンガーソングライターをやっている傍ら「ぷらそにか」というアコースティックセッショングループにも参加しているんですけど、YOASOBIの活動はセッションをやるときの感覚に似ています。いろんな人のいろんなエッセンスが入っていいものが出来上がったりする感じ。三者で作り上げることに、ソロとの違いがありますね。

橋爪 お二人とも前向きなんですね。

Ayase もちろん難しいんですけどね(笑)。気持ち的にはもう一回小説を作り上げる、みたいなテンションもあります。その小説にコミットした楽曲という大枠の中で、もう一回ストーリーを作るというのが楽しい。

橋爪 確かに、実はAyaseさん、原作どおりの歌詞って1文字もないんじゃないですか。

Ayase そうですね。

橋爪 めちゃめちゃ読み込んでご自分に落とし込んで新たに書いてらっしゃるんだろうなって。

Ayase はい、めちゃめちゃ読みました。Mac bookに常に「それでも、ハッピーエンド」が開いて固定である状態。

橋爪 嬉しいです。電子書籍のためにお二人が書いてくださったあとがきも素晴らしくて。お二人ともすごく文章力があるんだなあと驚きました。

Ayase いえいえ、ありがとうございます。ikuraちゃん、すげーかっこいいこと書いてたよね。詩的だった。

ikura (笑)。読んでくれた人の背中を押したいな、と思って。

二人の音楽の原点

橋爪 そもそもお二人はどうして音楽を始めたんですか。

Ayase 僕は小学校1年生ぐらいからずっとピアノをやっていて、コンクールとかも出て1日10時間練習するほどガチで。漠然と自分はピアニストになるんだろうなあと思ってたんですけど、大昔の人が作った名曲をその人の意図を汲み取ってどれだけカッコよく弾けるかってことを競うのが楽しくもあったんですけど、途中から自分は音楽を弾く側じゃなくて創り手になりたいんだな、かつ演者でもありたい、と思ってバンドを始めたのがきっかけです。

ikura 私は物心ついた時からずっと歌が好きで、父が弾き語りをしていたり、割と音楽に溢れた家庭で、将来は歌手になりたいと思ってました。小学校4〜5年生くらいの時に、父が母の日に自分で作詞作曲した歌を母にプレゼントしているのを見て、わっ、私も自分で作詞作曲する人になりたいと思って。で、中学2年生くらいからオーディションを受けて、3年生で本格的にライブ活動を始めました。

Ayase ikuraちゃんのエピソード、かっこいいよね。

橋爪 お二人とも、動機が綺麗ですね。モテたいとかじゃないんだ(笑)。僕は、小説を書いてるのってすごくかっこいいなって思って書き始めたけど、書いてみたら特にモテないことがわかりました……。

Ayase いや、かっこいいですよ小説家。小説でも絵でも何かを発信してる人ってかっこいいですよね。

ikura そうですね。でも音楽をやってる人同士でお付き合いするのは、どちらが先に売れるか、とか考えて大変そう。

Ayase うん、僕は絶対同業者と恋愛は無理(笑)。

橋爪 個人的な興味からお聞きするんですけど、お二人って休日とか何されてるんですか。ikuraさんは大学生ですよね。

ikura はい、今大学生です。休みの日は、お買い物に行ったり、YouTube見るのが好きです。ゲーム実況、とか。

Ayase 僕はひたすらお酒飲んでます。ビールばっかり。音楽を抜きにするとお酒飲む以外の楽しみ方、しばらくしてないですね。

橋爪 今度一緒に飲みに行きたいです。ikuraさんはまだお酒は?

ikura 3ヶ月後に二十歳になります!

橋爪 最初何飲みたいとかあります?

ikura 何がいいんでしょう?

Ayase 甘めのカクテルとか? 最初はビールとかきついよね。

橋爪 ikuraさんみたいに見た目可愛いのにビールとか焼酎とか飲める女の人、僕はかっこいいなって思います(笑)。

ikura 頑張ります……(笑)。

売れないバンドマンに共感

橋爪 お会いしてみると二人ともアーティストなのに、意外と質素な感じがします。

Ayase 僕は質素どころか、10年くらい極貧だったので。今日食う金もない、ガスも電気も止まってる、みたいなバンドマン生活で。

橋爪 へぇ。そんなイメージ全然ないです。下積みが結構長かったんですか。

Ayase わりと半年前くらいまで。中学卒業してからバンド始めて10年くらいそんな感じでした。

橋爪 26歳で10年も下積みが! 勝手にシャープな印象を抱いていたんですけど。

Ayase いえいえ、泥水を啜るような生活でした。お酒に強くなったのも、バンドマン同士の過酷な飲み会による怪我の功名みたいなところもありますし。橋爪さんの新作の「さよならですべて歌える」は、バンドマンの話じゃないですか。読んでリンクすることが多すぎて、当時の僕みたいな要素がたくさんあったんで……。

橋爪 読んでくださってありがとうございます。

Ayase 僕より彼の方がずっとマシですけど、共感するところがすごく多くて、かなりエモい気持ちになりました。

ikura 私も読ませていただいて、主人公の家庭環境とか、自分が体験してないことなのでリンクするとかはなかったんですけど、想像するとすごく感情移入できて辛すぎました。

Ayase 僕も後半は辛かった。バンドのことやスタジオのシーンがすごくリアルだったんですけど、あれは調べて書いてるんですか。橋爪さんもバンドやってたのかな、と思いました。

橋爪 いえいえ、スタジオの構造とかは聞いたり調べたりして書きました。そういう箱さえわかればあとは自分だったらどう思うかなあと想像して。自分自身、何を書いたらいいかわからなくなって、書いたら書いたでボツになるみたいなことが1年くらい続いた時期があったんです。そのとき、歌を作ることと小説を書くことって似てるのかなと思って、何で自分は小説書いてるんだっけって気持ちを歌をつくる人に置き換えて書いてみたいなと思って生まれた小説なんです。

Ayase なるほど。バンドメンバーとのやりとりとかもあまりにリアルだったんでめちゃくちゃ感情移入して読んじゃいました。東京には成功を目指しているバンドマンも成功できなかった元バンドマンもごまんといるんで、多分あれを読んで熱くなる人もいれば胸が痛くなる人もいるだろうし、夢を追いかけてる人達に読んでほしいですね。

橋爪 ありがたいです。またご一緒できたら嬉しいですね。今度は「さよならですべて歌える」も曲にしてほしいです。

Ayase 本当ですね。ぜひぜひ。

ikura 今日はありがとうございました。

ーー2020年6月、新潮社クラブにて

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Ayase
1994年生まれ、山口県出身。2018年12月にVOCALOID楽曲を投稿開始。切なさと哀愁を帯びたメロディ、 考察意欲を掻き立てる歌詞で人気を博し、2019年4月に発表した「ラストリゾート」はYouTube500万再生突破。2019年11月リリースの初EP「幽霊東京」は即売、通販共に即完。ボカロ楽曲を自身が歌唱するセルフカバーにも定評があり、「幽霊東京」は500万、「夜撫でるメノウ」も200万再生を突破。「まふまふ」「天月-あまつき-」「そらる」「キズナアイ」など、さまざまな著名人に楽曲カバーをされるなど、ボカロP、そしてその枠を超えて2020年最も注目されるアーティストの1人である。

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ikura
2000年生まれ、東京都出身。シンガーソングライター・幾田りらとして活動するかたわら、SSWによるアコースティック・セッション・ユニット“ぷらそにか”にも参加。2019年11月におこなわれた原宿ストロボカフェでの1stワンマンチケットは完売。同時に2nd mini album「Jukebox」をリリース。東京海上日動あんしん生命CMやカメラアプリSNOWのミュージックビデオでの歌唱など、一度聴いたら耳を離れないその歌声が注目を集めている。

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橋爪駿輝(はしづめ・しゅんき)
1991年、熊本県出身。作家。横浜国立大学卒。2017年『スクロール』でデビュー。2作目『楽しかったよね』は、収録された一編「ファン」が本田翼主演、松本花奈監督でショートムービーとして映像化されている。弊誌で連載した「さよならですべて歌える」を刊行準備中。また、デビュー作『スクロール』は映画化する予定である。

 

(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

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