BTSはなぜ日本語でも歌うのか? K-POPアイドルが「日本語バージョン」を出す理由

文=DJ泡沫
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「日本語バージョン」のビジネス的な歴史

 韓国のアーティストが最初から必ずしも日本語で歌っていたわけではない。東方神起や少女時代で知られるSMエンターテイメントは2000年代初頭までに何回か日本進出を試みていたが、韓国での人気グループをそのまま輸出しても当時はなかなかうまく行かないなかで考え出されたのが文化技術(CT=Culture Technology)理論と名づけられた「現地化戦略」であった。このCT理論とは3段階に分けられている。

第1段階:韓国の事務所が直接作って輸出する

第2段階:海外の現地企業との協力を通じて市場拡大を図る

第3段階:現地企業と合弁会社を立ち上げ、韓国のCT(文化技術)を伝授する

 この「現地化戦略」においてあえて「韓国のアーティスト」という売り方をしなかったBoAや東方神起が日本のアーティストとほぼ同等のブレイクをした結果、K-POPという言葉が使われるようになる前から韓国のアーティストというものがポップスやアイドルの分野でも一般的に認知されて受け入れられるようなベースが出来たという事だろう。これが後に日本での「第一次K-POPブーム」のきっかけへと繋がっていったが、現在までこの手法がK-POPアイドルの日本進出にあたっての基本手法になっており、BTSは完全にSMの手法をそのまま応用している。

ビジネス的な側面:韓国と日本のアルバムリリース手法の違い

 韓国ではアルバムリリースの資金はほぼ全て事務所が出すのが普通で、レコード会社は流通を担当するだけだが、日本ではレコード会社の出資割合も多いため、それなりにレコード会社がリターンを受けられるリリーススタイルが求められるのではないかと考えられる。出資するからにはレコード会社もプロモーションに資金と労力を使ってくれるという構図があるのではないか。

 そのためにはオリジナルシングル・アルバムのリリースが理想的であり、事務所的にも全ての資金とリスクを負う必要がないので、ある程度の利益が見込まれる規模のファンドムがある海外でのビジネスという事を考慮しても、悪くない条件が揃っているという事ではないだろうか。

 今回の『MAP OF THE SOUL 7:The JOURNEY』も初動で55万枚以上売れている。逆にレコード会社に所属していないと、特にメジャーなプロモーション的にはドームクラス以上のコンサートやTV出演などで制限が出てくる場合もあるだろう。

K-POPの大手会社、日本進出への野望とアメリカでのスタンスの違い

 上記の「CT理論」を実践していった結果、日本では既にK-POPはひとつの音楽ジャンルとして定着している。その結果、現在ではメジャー事務所の多くはもはや「K-POP」「外タレ」という枠を超えて、人気の邦楽アーティスト達と同じ土俵で並ぶ事を目標としていると思われる。

 BTSの所属事務所であるBigHitエンターテイメントも、「日本のトップ芸能事務所に食い込みたい」という趣旨の発言をしていた事がある。その為には「ファンダム」「K-POPファン」という枠を超えた一般層へのアプローチという点で、あえて日本語で歌う事を選択している部分もあるのではないだろうか。

 特にBTSは韓国でブレイクする前の2015年までは韓国よりも日本で人気があると本国でも言われていた。ファンドムはレイヤーになっており、特に人気がトップクラスのアイドルでは、コアなファンドムの意向はさておいても、「人気があるから好き」というような浮動票というべきファン層や「お茶の間」へのアピールポイントとしての日本語がある種の武器になる場合もあるのだろう。

 上記の部分も含めての戦略上、チャート上位に入る規模のファンドムは構築されているが「K-POP」「アイドルファンドム」というバイアスが強い、あるいはまだその入り口に立ったばかりのアメリカを含めてのその他の文化圏では、「あえて韓国語で歌う」事でK-POPのイメージにあるエキゾチズムや神秘性を利用して価値を高めようとしている部分もあるのではないかと思われる。

 韓国のウェブマガジン「PPSS」に載ったKPOPと韓国語の関係性についてのコラムではこういった記述があった。

「(K-POPが)海外のリスナーたちにアピールするためにはグローバルポップミュージックとは異なる「異国情緒」を必ず表現しなければならない。これは音楽的な様式ですでにグローバルな普遍性をある程度確保したために可能なことでもある。音楽は簡単に親しみを持たせる事ができるEDM(そして若干のヒップホップ的味付け)であっても、それでも「韓国語の歌詞」で異国的な味を発揮することだ」
(https://m.blog.naver.com/PostView.nhn?blogId=funky829&logNo=221146605278&proxyReferer=)

 そもそもBTSがアメリカで一般からも注目されるようになったきっかけは「楽曲そのもの」ではなく「(ウェブ・チャート上での)ファンドムの動き」である。故に華々しいチャート成績の陰には「自分たちのファンが頑張ってくれている」部分もある事を理解した上で「韓国語で歌っている韓国人のグループがアメリカで大きなファンドムを獲得している」という事そのものに価値があると理解しているのではないか。

 逆に言えばアメリカでネイティブではないアーティストが英語で活動する事の難しさがある一方、日本では日本語で歌うネイティブではないアーティストを受け入れる素地がある(KPOP以外でも演歌やロックバンドなど複数思い浮かぶ)と言うことでもあるだろう。アメリカと日本ではそれぞれ目指すものが違うために、活動のスタンスが異なるという事ではないだろうか。

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