履歴書の性別欄が削除されるまでの20年とこれから

文=遠藤まめた
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 10年近く前になるが、永田町の議員会館の一室でいくつかの女性団体と一緒に国に要望を行ったことがあった。

 性的少数者のグループである私たちは「必要のない性別欄をなくしてくれ」と要望し、女性団体のうち障害者の就労状況について指摘しているグループは「性別欄を作ってくれ」と要望していた。障害者の女性は、障害者の男性とはまた異なる状況にいるのであり、性別で分けて統計をとることが彼女たちの置かれた環境を正確に把握するためには必要だった。さまざまな施策は根拠となるデータがあって、はじめて作られる。彼女たちの主張は理解できるものだった。

 性別を問うことが差別につながることもあれば、差別の解消につながることもある。運用の仕方によってお互いに満足の行く答えが見つかる場合もある。履歴書の性別欄をめぐっては、そのあたりの議論が整理されてこなかった。

 先日、若者の労働問題に取り組むNPO法人POSSEが「JIS規格の履歴書にある性別欄をなくしてほしい」とオンライン署名サイトChange.org(チェンジ・ドット・オーグ)で集めた1万名の署名簿を経産省やJIS規格を管理している一般社団法人日本規格協会に提出した。経産省はすぐに協会に行政指導を行い、JIS規格にあった様式例はまるごと削除された。

 日本中の履歴書が、JIS規格の様式例を参考に作られていたといっても過言ではない中で、この動きはとても大きい。署名を提出したのが6月30日、日本規格協会が様式例を削除したのが7月9日。わずか9日間のスピーディーな変化だったが、歴史をひもとけば、私が把握できた範囲でも2003年から当事者団体はJIS規格の履歴書について改善要求を行っていた。履歴書の性別欄をめぐる運動の歴史は長い。

 長年、履歴書の性別欄をめぐる状況が変わらなかった理由のひとつは国の女性活躍施策だった。2017年に一般社団法人gid.jpが申し入れを行った際、経産省の担当者は「現在、政府が女性活躍社会やポジティブアクション等を行っていて経済界のニーズがある。それ故、一方の意見を聞いて決めることでなく、時代の要請を受け、慎重な議論が必要かと思われる」と回答している。

 女性活躍に取り組む優良企業に与えられる「えるぼしマーク」の認定を受けるには「男女別の採用における競争倍率が同程度であること」が必要条件とされ、そのためには企業は採用前にあらかじめ応募者の性別を把握しなくてはならない仕組みだった。この仕組みに「他の方法でも取り組みが測れるのでは」と疑問が付され「えるぼしマーク」の基準が変わったのが今年6月だ。署名が提出されたのは、その月末である。

 Yahoo!ニュースやツイッターを見ていると、変化を歓迎する人もいれば、「相手の性別もわからないようじゃ採用活動もできない」などのネガティブな反応をする人も見受けられた。

 採用時に応募者の性別によって判断を変えてはいけないと男女雇用機会均等法で定められたのは1985年。それから35年の年月が経っても「性別で判断したい」と考える人が多くいる。男女雇用機会均等法の趣旨を知らせるためには、履歴書のアップデートはいい機会になるかもしれない。数年前に、全国の大学の医学部で女子だけ大幅に減点が行われて不合格とされていた事件が発覚した。先日もツイッターで、男子のみに就職説明会の案内を送っている企業のことが話題になっていた。今回の変更が性差別解消のブレーキになるとは思わない。性別欄を無くしたり、書類審査のやり方を変えたりすることでむしろ女性差別も減らせる可能性がある。

 JIS規格の履歴書様式は削除され、今後は各文具メーカーなどがどのような履歴書様式を作っていくのか注目が高まる。年齢や顔写真を必要としない様式が販売されるかもしれないし、レイアウトも変わるかもしれない。男女雇用機会均等法では警備員など、一部の職種の場合には性別を限定した求人をしても問題ないとしている。世の中には性別欄のある履歴書は一部に残るだろう。そんな場合でも、名前の横にわざわざ設けるデザインでなくてもいいではないかと思う。

 長年、履歴書の性別欄削除を訴えてきたgid.jpも「下の方に小さく性別欄を作ってほしい。性別が必要な職種に応募する人は記載してください、などの注釈をつけてほしい」と要望していた。厚労省等が定めている高校統一応募用紙、ハローワーク求職票には今も性別欄がある。今後こちらの運用やデザインもぜひ見直されることを期待している。

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