「そうではない男性」の生きづらさに気づく——“らしさ”に囚われた社会のレッテルから開放する運動が「フェミニズム」だと知って

文=みたらし加奈
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したたかに生きる

 SNSをやっている中で「みたらし加奈」という人物像を「実直」と捉えてくれる方は少なくない。しかし私には確かに「したたか」な一面があると思う。自分や大切な人、また私を頼ってくれる人たちが生きやすい社会にしていくためには、したたかに計画を練らなくてはいけないことだって多々あるのだ。私はその、自分のしたたかさが嫌いではない。誰かを陥れるためではなく、誰かを守るためのしたたかさは、私自身をも守ってくれるからである。

 しかし以前はそうではなかった。自分自身のしたたかさを「女らしさの賜物」として利用することだってあった。社会に疑問を持ちながらも、しんどい思いを抱えている自分や他人に目を向けず、ただ「強者」側に迎合するように生きていた。感じた「モヤモヤ」は、「私が悪かった」と自分に責任転嫁することで解消しようとしていた。「自分が出来損ないだから」「自衛できなかったから」「私が○○らしくないから」……呪いの言葉は至る所に転がっていた。

 きっとこれは女性に限らず、多くの人たちに言えることだと思う。そんな「呪いの言葉」を「呪い」だと自覚させてくれたのは間違いなくフェミニズムだった。

 そして私が知る限り、フェミニズムとは「男性嫌悪運動」ではなく「人権運動」であり、「らしさに囚われず、社会のレッテル貼りから解放されるための主張」である。現代の男性優位社会の中で取りこぼされている人たちをもすくい上げるものでもある。だからこそ「わかっている」とか「わかっていない」という認識だけで、誰かを排除してしまうようなことはしたくない。もちろん、フェミニストの中にはさまざまな人たちがいるので、すべての人がそう感じているわけではないと思うけれど。

コギャルブームと男子高校生

 先日、清田隆之さんが上梓した『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)を読了した。本の中では、清田さんが自身の「今までの価値観」ととことん向き合い、ここ数年のニュースや出来事に触れながら「男性」を冷静に分解しているのが印象的だった。その中で私がもっとも感銘も受けたのは、以下の文だった。

<90年代のコギャルブームの最中、男子高生だった私は世間からまったく興味を持たれていないことを痛感し、自分はあまり価値のない人間なんだろうという感覚を持った。世間とはメディアのことだけではない。広い意味では「他者」から関心を向けられている感覚を持てなかった。自分が何を考え、何を感じ、どんなことを思いながら生きているのか(=being)、誰も興味ないんだろうな…というのが当時のリアルな感覚だった>

<内面には興味を持たれなかった一方、結果や実績、役割や能力といったもの(=doing)で人間を計られている感覚が強くあった。自ずと会話は「何をやったか」や「何を持っているか」といったアピールが中心となり、(略)出てくるのはそのような話題ばかりだった>

<そして、この「doingにしか興味を持たれないし、自分も他者のdoingにしか興味を持てない」という傾向は、多くの男性たちに共通するものではないかと私は感じている。>

 コギャルブームによる“女子高生のモノ化”の背景には、「取り沙汰されないと価値はない」と冷酷に切り捨てる状況があったと思う。そして格差のある状態ではやはり「男性」とか「女性」というように括らなくてはならない現実が存在していて、そんな中で男性である清田さんが「さよなら、俺たち」という視点で、この本を執筆してくれたことに敬意を払わざるを得ない。

 当事者が主語を大きく語ることと非当事者が主語を大きく語ることは、どうしても受け取られ方が違う。だからこそ、女性が男性について論じるのではなく、「男性である僕には、こんな時期があったんですよ。でもそれはこうだったんですよ」と当事者目線で語ってくれる清田さんの言葉は、どこまでも優しく冷静である。こういった形で、男性が当事者意識を持って「フェミニズム」について向き合える場所が増えていけばいいのにな……と強く感じた。

 それは同時に、「強者男性が優位になる社会」をも見直すきっかけになるだろうし、どんな属性にあっても、それぞれを知り合う助けになるだろうと思う。

 私はこれからも「らしさに囚われず、社会のレッテル貼りから解放されるための主張」を続けていきながら、「フェミニズムによって救われるのは“女性”だけではない」ということも訴えていきたい。そしていつか、今のコミュニティから脱して、誰とでも性差別や偏見に触れることのない空間で誰とでも話ができる日を望んでいる。

▼イベントのお知らせ

7月31日(金)に、桃山商事代表・清田隆之氏とのW刊行記念イベントが決定!

『マインドトーク-あなたと私の心の話-』『さよなら、俺たち』W刊行記念
みたらし加奈×清田隆之
「恋バナしながら考えるジェンダーロール~男嫌い、女嫌いなわたしたち」

日時:7月31(金)20時〜
開催方法:オンライン(本屋B&B)

▽詳細はコチラ↓
http://bookandbeer.com/event/20200731_gr/

(記事編集:千吉良美樹)

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