スティーヴン・スピルバーグが描けないもの~ロマンス映画の不遇

文=北村紗衣
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避けられる男性間ロマンス

 「苦手なら描かなければいいのに…」と思うような男女間恋愛や女性間恋愛をついつい映画に出して失敗してしまうスピルバーグですが、一方で男性同性愛についてはできるだけ描かないようにしているように見えます。たとえば『リンカーン』については、オープンリー・ゲイで男性同性愛に関する超大作戯曲である『エンジェルス・イン・アメリカ』の著者であるトニー・クシュナーが脚本を書いています。リンカーンの性的指向については諸説あり、クシュナー本人もリンカーンが男性に対して好意を抱いていた可能性を示唆していますが、一方で脚本にはほぼそうした要素を盛り込みませんでした『リンカーン』においては男性同士の好意などを描いたところはほぼありませんでした。おそらく、男性同士の恋愛については描けそうもないくらい苦手だという自覚があるのではと思います。

 スピルバーグのような能力のある監督でもよく恋愛、とくに同性愛を描こうとして失敗している背景には、恋愛というのは人間ドラマの基本要素なので誰でも撮れてしかるべきだ、というような固定観念があるからではないかと考えられます。しかしながら、おそらく恋愛映画というのは特殊な才能を必要とする分野で、ヘタに手を出さないほうがいいという考えを持つべきなのでしょう。どんな映画にも恋愛を入れていいというわけではなく、必要ない恋愛要素や、監督が描けそうにないと思うような恋愛要素はいっそなくしたほうがいいだろうと思います。誰でも恋愛を撮れるというような考えはむしろ映画における恋愛要素の軽視なのです。

参考文献

Raphael Boer and José Gatti, ‘Lesbian Images and the Color(ed) Love in The Color Purple’, Estudos Anglo Americanos, 44 (2015): 126–145.
Liz Millward, Janice G. Dodd, and Irene Fubara-Manuel, Killing Off the Lesbians: A Symbolic Annihilation on Film and Television, McFarland, 2017.
Alice Walker, The Color Purple, Tenth Anniversary Edition, Harcourt Brace, 1992.
Alice Walker, The Same River Twice: Honoring the Difficult, Women’s Press, 1996.
アリス・ウォーカー『カラーパープル』柳沢由実子訳、集英社、1994。
アーネスト・クライン『ゲームウォーズ』全2巻、池田真紀子訳、2018。
ふぢのやまい編『「百合映画」完全ガイド』星海社、2020。

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