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毎日、暑いですね。急に蒸し暑くなると熱中症が心配なので、予防のために水分補給をしっかりするよう呼びかけられています。スポーツ飲料、スポーツドリンク、イオン飲料と呼ばれるものをお子さんに与えたり、またはお子さんのほうから飲みたがったりするのも、日常的な光景になっているでしょう。
しかし、子どもに飲ませる際、注意が必要なのを知っていますか? こうしたドリンクは、汗をかくことで失われる水分と塩分をスムーズに補給できるとされていますが、スポーツのときだけに飲むのではないようので、ここではイオン飲料と呼ぶことにします。
イオン飲料は、体にいいというイメージはありませんか? 奥村彰久医師の調査(Pediatrics International 60巻10号 2018.10)によると、保護者たちの誤解として「イオン飲料は体によく、栄養素・ビタミンが豊富である」と思われているようです。ところが、成分表を見ると入っているものは水、糖類、電解質、クエン酸、香料であり、栄養が豊富でもビタミンは添加されてもいません。イオン飲料は分類上、清涼飲料水なので健康増進のために飲むものではないのです。
特に気をつけたいのが、乳幼児です。毎年、イオン飲料を飲みすぎてビタミンB1欠乏症、ウェルニッケ脳症、脚気になる子どもが出ています。
ある医学雑誌では、生後9カ月の男児に両親が1日3リットルの乳児イオン飲料を飲ませていたため、水中毒になりけいれんして救急搬送された例が報告されています。別の医学雑誌には1歳5カ月の女児がやはり1日に3~4リットルのイオン飲料を飲んでいて、脚気心、腎不全になった例もあります。
これはまず、量があまりに多すぎます。9カ月男児なら体重は7-10.5kgです。50kgの大人でいうなら、3リットルの5倍=15リットル飲むのはものすごい量ですよね。
こうした症例は医学雑誌や学会誌に載りますが、そこで報告されないまでも、不適切な飲み方で栄養障害はもっと多く起こっているでしょう。イオン飲料に入っている栄養素は糖とアミノ酸のごく一部だけなので、タンパク質も脂質も、ビタミンや食物繊維も不足します。特に水溶性ビタミンであるビタミンB1は体に蓄えておくことができません。
食事を食べずにイオン飲料ばかり飲んでいると数週間で欠乏症になり、元気がなくなって、むくみ、筋力低下といった症状が出ます。歯科医の間でイオン飲料は、「う歯」つまり虫歯の原因になることがよく知られています。哺乳瓶で飲ませるのはやめましょう。
通常、イオン飲料はおいしいので、飲みすぎることが心配です。お子さんがあまり水分を摂りたがらないので、脱水が心配だと外来でたまに相談されます。そこでイオン飲料の出番、となってしまうわけですね。
「ほかの子と比べるとあまり飲み物を飲まず、おしっこも間隔が開くんです。どうしたらいいですか?」といわれますが、飲みたがらない子に飲ませる必要はありません。でも手近に置いて、いつでも飲めるようにはしておきましょう。
脱水の治療のためにはイオン飲料よりも経口補水液が適しています。経口補水液も飲むほどよりよいわけではなく適量があり、1日あたりの摂取の目安量は、乳児は体重1kgあたり30-50ml、幼児が300-600ml、学童から成人で500-1000mlです。1-2歳の子どもの体重は9-12kgくらいなので、治療を目的としないイオン飲料は1日に500ml以下にしましょう。
食べ物にも水分は含まれています。大きい子どもや大人はミルクや母乳ばかりでなく食事もするので、イオン飲料ばかり飲んだりはしないと思いますね。ところが、イオン飲料を多量に飲んだあと、口渇感(口が渇く感じ)を生じ、そのために多飲してしまい、吐き気、倦怠感、意識消失等が起こる「ペットボトル症候群」というものになってしまうことがあります。
これは糖の摂り過ぎが原因です。清涼飲料水ケトーシス、ソフトドリンクケトーシスともいって、イオン飲料だけでなく糖のたくさん入った飲み物ならなんでも危険性があります。
市販の飲料は思いがけないくらいたくさんの砂糖が入っているという写真を見たことがありますか? 角砂糖(3g)に換算するとカルピスウォーター500ml中に18個、ジョージア香るカフェラテ370mlが9.5個、ポカリスエット500mlが10個、アクエリアス500mlが8個入っている計算になります。いまは夏なので、手に入りやすいペットボトルの飲み物は、飲みすぎないように気をつけましょう。
じゃあ、なにを飲んだら良いでしょうか。結局、お水かお茶がいいでしょう。お茶はカフェインの入っていない麦茶が夏の定番ですね。カロリーオフと書いてあるものは100mlあたり20kcal以下のもので、カロリーゼロは100mlあたり5kcal未満の場合にそう表示してよいと決まっています。香料や糖類でおいしい味付けがしてあるものは、ついつい飲みすぎてしまうことがあります。子どもも大人もカロリーと栄養は食べ物から摂り、水分は安全性の高いものから摂りましょう。