笠井信輔さんが痛感したSNSの光と影「今度は私の番ではないか」

文=笠井信輔
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(笠井信輔さん提供)

(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

 昨年秋、33年間勤めたフジテレビを退社しフリーアナウンサーになった途端に「悪性リンパ腫」という血液のがんになってしまった私。

 フリーになった1ヶ月後にInstagramを始めたのだが、何をどうやってもフォロワーは300人を超えなかった。

 ところが、悪性リンパ腫に罹患したことが報道され、フジテレビ「とくダネ!」において自ら生放送で告白をするとフォロワーは、5千、1万、2万、5万、8万と急激に増え現在30万人を超えている。入院後に始めたブログのフォロワーも17万人超になった。

 世の中の人は、重病になった人にこんなにも興味があるのだと知った。

 わずか3ヶ月でInstagramのフォロワーが1000倍増えた男が体験したのは、思いもよらないSNSの世界。それを一言で言うならば、《共感の世界》と《評価の世界》の断層と言ってもいい。

 同じネット上でも、自分がブログやInstagramで作り上げている世界《=内の世界》と自分が参加していないTwitterやYahoo!ニュースのコメント欄などで展開されている世界《=外の世界》では天と地ほどの差があるということを知ってしまったのだ。こんなにもやさしく、そして同時にこんなにも残酷だとは……。

 息子が食事中に「父さん評判悪いねえ」と言って、Twitterでつぶやかれている私の悪口を朗読して家族皆で笑う──、ちょっと変だがこれが我が家の団欒風景。56歳のおっさんアナにとってSNSは以前から警戒の対象であった。

 それが《がん》になった途端に私を取り巻くSNS環境は一変した。Instagramもブログも励ましや応援の言葉で満ちあふれたのだ。ブログにコメントを寄せてくれる人たちはがん患者やがん経験者、家族ががんであるという人たちが多く、貴重な経験談もたくさん寄せられた。コメントは多い日には1000を超え、病室でそれを読むのが私の楽しみとなった。これが《内の世界》。

 私は自分のブログやInstagram内で行われる計47万人のフォロワーとのやり取りを日々のエネルギーに変えていき、SNSはこんなに素晴らしいものなのかと入院して初めて認識したのだ。

 ただ見舞いに来る友人知人には、
「いくらたくさんのフォロワーがいても、政治や世の中の動きに対して論評するような事はしないつもり」と話していた。

 ところがである。私が入院中に世界中がコロナによって汚染され、世の中が一変してしまった。
 私は安易に外出する人たちに我慢がならなくなり、自粛生活や政治に対する自分の意見をブログに書き始めたのである。

 すると緊急事態宣言が全国に出された直後、息子から「いい加減、政治について書くのをやめたほうがいい」と強い忠告を受けてしまった。

 それでも私は書くのをやめなかった。
 今思えばSNSの魔力に搦(から)めとられてしまっていたのだろう。

 自分が書いたブログに称賛の声を寄せてくれるフォロワーの皆さんの存在。病室の中に数ヶ月も閉じ込められている自分が世の中とつながっているという確かな感覚。

 あの頃、《内の世界》のフォロワーの皆さんとの絆で私は確かに救われていたのだ。

 しかし、私は井の中の蛙でもあった。

 Twitterやその他の掲示板など自分のブログ以外の《外の世界》で、「病室の中にいて何がわかるのか?」という私に対する批判が出始めている事を私は知らなかった。

 いや、《外の世界》が怖くて知ろうとしなかったというのが正しい。

 そして評判の悪かったアベノマスクを揶揄するブログを軽い気持ちで書いたところ、ついに大炎上してしまったのである。

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