不妊治療や予期せぬ妊娠、なぜ「女性への性教育」ばかり言うのか

文=中崎亜衣
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GettyImagesより

 自民党の杉田水脈衆議院議員が今月10日に投稿した不妊治療への支援拡充に関する報告ツイートに、多くの批判が寄せられている。まず当該ツイートを引用する。

<不妊治療への支援拡充を目指す議員連盟の第3回総会があり、「不妊治療の現状と保険適用・支援拡充について」と題して医学博士の杉山力一先生からお話を伺いました。
「35歳を超えると不妊治療の成功率は格段に落ちる。せっかく受精卵ができても流産してしまう。」
(続く)>
<(続き)「多くの女性達が『卵子が老化すること』『出産に適した年齢があること』を知らない。『生理があるうちは大丈夫でしょう』くらいの感覚。ここを変えなければいけない。」
それを学校教育では何故できないか?と改めて強く感じました。>

 なお、杉田議員が話を聞いたという杉山力一医師は、医療法人社団杉四会杉山産婦人科の理事長で、不妊治療に積極的に取り組んでいる。男女産み分けに関する著書も多い産婦人科医だ。

 だが、「35歳を超えると不妊治療の成功率は格段に落ちる」「せっかく受精卵ができても流産してしまう」「卵子が老化する」「出産に適した年齢がある」といった情報を、今も“多くの女性たち”は知らないのだろうか?

 今から8年前、2012年に放送されたNHKスペシャルで『産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~』は、当時大きな話題を呼んだ。30代後半~40代の女性たちが、健康であるにも関わらずなかなか妊娠せず、産婦人科を受診して初めて「卵子が老化しているため妊娠の可能性が低い」「35歳の女性が出産できる可能性は20代の半分」なのだと知り、愕然とする。女性たちが己の無知によって「産みたいのに産めない」状況に陥らないよう啓発を促すものだった。

 この特集は非常に大きな反響となり、特にキャリア女性にとっては他人事ではなかっただろう。その4年後、2016年2月にもNHKは『週刊ニュース深読み』にて「子どもは欲しいけれど…不妊治療 理想と現実」という特集を組んだ。この番組において、同局の小野文惠アナウンサーの「良い捨て石に」と発言したことも、大きく取り上げられた。

<私も40代なので、20歳くらいの時に高齢出産のニュースを見て『50歳くらいまでに産めばいいのかな』と思っているうちに手遅れになりました>
<20代30代の、今、もうちょっと仕事頑張らないとっていう時期、産めるような社会でもなかったですよね?>
<良い捨て石になるには、どうしたらいいと思われますか?>

 同番組の女性ディレクターも小野アナウンサーと同様に“気が付いたら(出産の)タイミングがとっくに過ぎていた”といい、小野アナウンサーに<私たちは、捨て石だと思うんですよ。でも小野さん、いい捨て石になりましょうよ。この無念を良いエネルギーにして、世の中に貢献できること探しましょうよ>と話したという。

 2016年5月放送の『あさイチ』(NHK)では、有働由美子アナウンサーが40歳の時に訪れた産婦人科で「このままのペースで働いていたら卵巣がだめになって出産できない」と告げられ、ショックを受けたという経験を話してくれた。

<とんでもない間違いをしたのではないか。産む可能性、機能があるのに、無駄にしたんじゃないかと。気が狂ったように泣いたりして病院通いした>

 こうした経験を経たキャリア女性たちが、テレビという大きな媒体を使い、社会に広く訴えかけてきたのだ。そして彼女たちの発言を起点に、「産みたいけど、保育園が足りない」「子どもを育てやすい社会にしなければ」「仕事と育児の両立にはどんな社会的サポートが必要か」「女性だけではなく男性も子育てを」「不妊治療が高額すぎる」等々、多方面に議論が進められている。

 冒頭に紹介した杉田議員のツイートは、こうした議論の進みを無にするようなものだ。もちろん妊娠・出産にはタイムリミットがあることも含め、性教育は重要だが、しかし女性に知識さえあれば十分だなどとは決して言えないだろう。

 同じことはピルの処方をめぐる議論でも言える。

 7月21日、新型コロナウイルスの影響で休校になったことなどが影響し「予期せぬ妊娠」が増加していることを受け、産婦人科医やNPO法人からなる団体「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」が、緊急避妊薬(アフターピル)を薬局でも購入できるよう求める要望書を厚生労働省に提出した。緊急避妊薬は性交から72時間以内に服用しなければならないが、現在は医師による処方が必要となっている。

 その模様を伝えた7月29日放送の『おはよう日本』(NHK)で、日本産婦人科医会・前田津紀夫副会長は、以下のように語った。

<日本では、若い女性に対する性教育というんでしょうか、特に避妊とか緊急避妊も含めて、ちゃんと教育してあげられる場があまりにも少ない>
<緊急避妊薬が容易に手に入り過ぎてしまうというのは、「じゃあ次も緊急避妊をすればいいや」という安易な考えに流れてしまわないか、ちょっと心配するわけですね>

 しかし予期せぬ妊娠には必ず「男性」が関わっている。性教育の場が必要なのは「若い女性」だけではない。予期せぬ妊娠の切実さを産婦人科医が理解せず「安易な緊急避妊」などと患者を断罪してしまうことも問題と言える。

 厚生労働省が発表した2019年の人口動態統計によると、2019年の合計特殊出生率は1.36で、4年連続で低下している。出生数は、86万5234人で過去最少。「若い女性への性教育」がこの事態を改善するとは到底考えられない。

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