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『タンポン・ラン』というゲームを知っていますか? タンポンを敵に投げつけるゲームです。このゲームは、ふたりの女子高生ソフィーとアンディによって発案・プログラミングされ、世界中で50万人以上にプレイされるようになりました。
『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』(ソフィーハウザー&アンドレア・ゴンザレス著 堀越英美訳/ele-king books)には、彼女たちが『タンポン・ラン』を作るまでの軌跡や、起業家やメンターに出会い成長していく姿が描かれています。
なぜソフィーとアンディは、「タンポンを投げつけるゲーム」を開発したのでしょうか?
生理を「恥ずかしいこと・隠すべきこと・下品なこと」にする文化的刷り込み
生理用品を購入すると、日本では、紙袋に包まれます。生理用品は「見られたら困るもの、恥ずかしいもの」だという認識が広まっているからです。同じく生理的現象である排泄にまつわる商品のトイレットペーパーは、むき出しのまま渡されるのにも関わらず、女性の月経に関しては、「隠さなければならない、恥ずかしいもの」といった文化的刷り込みが日本にはあります。
この文化的刷り込みは、日本だけではありません。『ガーディアン』によれば、インドに住む女子の23%が生理による処理が恥ずかしくてできないために、学校をやめるといいます。ネパールのいくつかの街では、未だに整理中の女性は汚れているから、と不衛生な小屋に隔離されます。
自然な身体機能を隠すように適応させられてきた女性たち
ニューヨークという大都会に住んでいるソフィーとアンディに関しても、生理タブーからは完全には自由ではありません。ソフィーは、自分が生理に長年感じてきた恥じらいは、不当な社会的圧力によるものだったと気がつき、「自分の体や人生のとても自然な部分であるものを隠すよう適応させられてきたこと」に怒りを感じるようになったといいます。ソフィーは怒りに任せ、ゲームの説明文を一気に書き上げます。
<多くの女性には、人生の大部分で月経がある。それはもちろん、正常なことだ。それでもほとんどの人たちは、女性も男性も等しく、月経に関することを話すのは不快だと感じる。月経をとりまくタブーは、正常で自然な身体機能を、女性たちに恥ずかしく下品なことだと刷り込む。私たちのゲームは、わかりやすい方法で月経タブーについて議論する一つの手段である。ゲームの主人公は銃を持つ代わりに、タンポンを持つ。敵を撃つ代わりに、敵にタンポンを投げつける。今ゲームのコンセプトは奇妙かもしれないが、より奇妙なのは、社会がゲームを通じて銃と暴力を普通のことだと受け入れているのに、いまだにタンポンと月経を口にのせるのもはばかられる話題だと見ていることだ。少なくとも月経が社会における銃や暴力と同じくらいに普通のことになることを望む。なんのためらいもなくゲームで扱うことができるくらい。>(P.89)
……かっこよすぎませんか? 私は世の中の不条理について愚痴ることが多い人間ですが、「とりあえず怒って終わり」なことがよくあります。怒りを表明することは大切だとも思います。しかし、彼女たちは、不条理に対する怒りを、ただの怒りで終わらせず、クリエイティブな発想とプログラミングの技術を駆使して、ユニークでウィットに富んだゲームとして現実化させ、実際に、生理タブーにまつわる議論を世界中で巻き起こすことに成功したのです! ソークール!
「あなたたち一人ひとりが未来のリーダーになり、世界に貢献する」というメッセージ
ソフィーとアンディは、世界に影響力を与えられる、世界を変えられる、という自信に溢れる女の子ですが、最初からそうだったわけではありません。ソフィーは極度のあがり症で、人前で自分の意見を表明するのが苦手で、アンディは教育熱心な親に育てられ、親が望む人生を歩まなければならないという強いプレッシャーを常に感じていました。そんなふたりが自分の殻を破ることができたのは、女子高生向けのプログラミング講座に通ったことがきっかけでした。
ふたりはそこで、プログラミングの難しさと楽しさを知ると同時に、メンターと呼べる人たちに出会います。その中のひとりで、慈善活動の全国的なリーダーであるローラ・アリラガ・アンドリーセンは、プログラミングという女性が極端に少ない分野で学ぼうとしている女の子たちにこう語りかけます。「あなたたち一人ひとりが未来のリーダーで、ここにいる皆さん全員が世界に貢献すると信じている、全員が行動を通して、自らの夢を現実のものにすることができる」と。
ソフィーは、ローラの「なれるわけがないと思っていたような人物になりなさい」という言葉に励まされ、「もしかしたら私は、世界に大きな影響をもたらす力を本当に持っているのかもしれない」と思うようになったのです。そして実際に、世界に大きなインパクトを与えることに成功します。
女の子たち、あなたは将来、リーダーになる存在だ
私が幼いころ「女の子たち、あなたたち一人ひとりが未来のリーダーになり、世界に貢献するんだよ」というメッセージを、誰かから受け取ったことがあるだろうか、と我が身を振り返りました。ほとんどありませんでした。
そして残念なことに真逆のメッセージ、つまり「女の子はリーダーをサポートする存在になって、世界に貢献するんだよ」というようなイメージは、たくさん受け取っていました。「少年よ、大志を抱け」という言葉は聞いたことがありましたが、少女には大志は求められていないように感じていました。
2020年5月、女子小学生をターゲットにした『おしゃカワ!ビューティー大じてん』(成美堂出版)という本にて、男子にモテるテクとして「さしすせそ」が推奨されていることが話題になりました。これは2018年に刊行されたものです。
さすがー、知らなかったー、すごい! センスいいねーそうなんだー……といった言葉を使って誰かを立てる人は、リーダーにはなり得ませんよね。フォロワー、サポーターならば、「さしすせそ」を使うケースはあるかもしれませんし、フォロワーやサポーターやアシスタントというポジションにも意義はあります。しかし、“男子にモテる女子”は、ものを知っていてはいけませんし、知っていても知らないふりをしなくてはならないと刷り込むのはいかがなものでしょうか。頭が弱いふりをしなければならず、自分の知性やパワーを自覚してしまったら、「モテない」のです。どうやら今の女子小学生も、「あなたはリーダーではない。サポーターだ」というメッセージを受け続けているようです。
じゃあ、私自身は「あなたたちは将来リーダーになり、世界に貢献する存在だ」というメッセージを、誰か、年下の女性、小さい女の子に対して、発したことはあるだろうか? と自問自答してみました。残念ながら、ほとんど思い当たりませんでした。
反省すると同時に、大人たちが子供に向けて「あなたは、将来リーダーになる」「社会にインパクトを与える存在になれる」というメッセージを伝えていく必要がある、と思いました。そのためのひとつの方法が、『ガール・コード プログラミングで世界を変えた女子高生二人のほんとうのお話』みたいな、ロールモデルになり得る書籍を女の子たちにプレゼントすることなのかも。
誰かの機嫌をうかがったり、好かれるための仕草なんか身につけなくていい、したいことがなんであっても、なりたいものが誰であっても、なんだってできる可能性があなたにはある、と女の子たちに伝えなければ。誰かを「すごーい!」と持ち上げるのではなく、誰かに、「すごい!」と言われるかっこいい女の子を増やすために。
(原宿なつき)