新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ほとんどの大学が授業をオンライン形式に切り替えた。文部科学省の調査によると8割以上の大学及び高等専門学校がオンライン授業、もしくはオンラインと対面の併用による授業を行っているという。
学生生活が一変した大学生たちの、オンライン授業への評価は一様ではない。大学生でもある筆者の周りでも「家で受けられるのは気楽だ」「これでは通信教育と変わらない」など、反応は様々だ。
そこで、所属大学、専攻分野、性別、学年などがバラバラの大学生9人にオンライン授業についてのアンケートを行った。
オンライン授業への不満から見える、本来の大学の価値
オンライン授業に対する評価は、「各教授が最大限に工夫していて、オフライン以上に理解が深まった」などの肯定的な意見から、「板書がないため、要点を把握しにくい」「WI-FIの不良が起きると授業に参加できない」といった否定的な意見もあった。
特に「賃貸のWi-Fiが弱いためカフェで受講をしたが、発話できず意見を交えられなかった」「接続不良でタイムラグが発生し、減点されてしまった」など、通信環境を理由に、授業がまともに受けられないという切実な問題が発生した学生もいた。
さらに、「教授によっては、解説もせず数枚のパワポを配布して授業を終わらせる人もいる」など、本来の授業が成立していない事を感じさせる悲痛な体験談も寄せられている。
一方で、アンケート回答からは通常のオフライン授業の価値に気づかされるものもあった。私立大学の国文学科に通うAさんは「未知の学びと接触する機会がなくなって残念です」と語る。
「これまでは履修していない授業に気まぐれで潜り込めるような、大学ならではの余裕に魅力を感じていました。しかし、オンライン授業ではパスワードが配布された学生にしか授業が開かれていません。偶然新たな学問と出会う経験が出来ないのは残念に思います」
「また、私の学科では教授が個人的に所有している資料を教室で回すこともありました。しかし、そんな貴重な体験ももう出来ませんね」
確かに、履修していない授業に勝手に出る「モグリ」行為は大学空間ならではだ。このような大学の自由さ、おおらかさが学問との出会いを広げていた側面もあるだろう。学生のモグリ行為を歓迎する教授も少なくない。教授が個人的に所有する資料に触れられるのも、大学のおおらかさの中で出来る経験だ。
しかし、システムに統制されたオンライン授業ではそういった「隙」は排除され味気ないものになってしまう。オンライン授業の導入によって、大学という場のある種の「ゆるさ」が大学の多様な学びを作っていることが浮かび上がって来ている。
学生の不満は、授業よりも大学の対応に
オンライン授業への評価にはばらつきがある一方で、学生の不満の矛先はむしろ大学側に向けられているようだ。
「これまでの大学側の対応について良かったこと・悪かったことはあるか」「大学側のこれまでの対応で思うことや改善点はあるか」という設問では、大学に対して批判的な意見がほとんどだった。その多くは「変わらない学費」と「情報不足」に関するものだった。
前述したように、今のオンライン授業では充分な質の授業が行えない事も多く、学生の不満は大きい。にもかかわらず、学費が据え置きのままであることには多くの学生が問題視している。100以上の大学で学費減額を求める署名運動が起き、SNSを通じて集まった署名は大学に提出された。
署名運動が行われた大学に通うBさんは、大学の対応を見るうちに考えが変わったという。
「この状況下では大学側も大変だろうと思ったため、学費減額運動に当初は懐疑的でした。しかし、オンライン授業の開始の遅さや、WEB上の履修登録サービスのサーバー落ちなど大学側の落ち度が目立つにつれ考えが変わってきました。秋学期も劣悪な環境で授業を受け、大学の設備が利用できないならこの運動にも賛同せざるをえません」
私立大の理工学部に通うCさんは、オンライン授業自体についての設問には「アップロードされた講義は何度も見ることが出来るため、むしろ以前より授業の理解は深まった」と肯定的に回答していた。しかし、学費については不満があるという。
「理系は施設代・実験代が高い分、学費も他の学部に比べて高いのですが、オンライン授業では全くそれが活かせていません。高額な設備を使った実習は、実験の映像を眺めるだけのものに変わってしまいました。全然学費分の価値を享受できてないので、せめて文系学部くらいには下げて欲しいです」
ここ半世紀で学費は国立で約15倍、私立で約5倍に高騰。また、コロナ禍でアルバイト収入が断たれた学生も少なくない。経済的に厳しい立場に置かれている学生も多いだろう。その中で、学費分の学生生活を享受できないとなれば減額を求める声が出てくるのは当然にも思える。
また、大学の「情報不足」を批判する回答も多く寄せられた。
前述の理工学部に通うCさんの直面する情報不足は深刻だ。
「私の学部では例年この時期に各専攻の教授のガイダンスを受け、希望調査を元にしてそれぞれの専攻に進みます。しかし、一つの専攻でしかガイダンスが行われておらず、希望調査がいつかも専攻に分かれる時期も一切発表されません。今後の将来を決める重大な内容なので、早く情報を出して欲しいです」
自分の進路がどうなるかも分からない状況で、大きな不安を抱えてる学生もいる。大学からの情報不足は学生の人生を狂わせかねないほど重大だ。
また、都内の大学に通うEさんは秋学期の授業形態の情報不足に頭を悩ませる。
「私の通う大学は、秋学期はオンラインと対面授業を使い分けるそうです。しかし、様々な通学状況にいる学生への配慮はどうなるのでしょうか?
例えば、通学に時間をかける学生は、対面授業を受けてから帰りの電車でオンライン授業を受けることになるかもしれません。また、実家に帰っている地方出身者の学生は、対面授業が一つあれば東京に出てこなければならないのでしょうか?」
早稲田大学、慶應義塾大学など主要大学が次々と秋学期はオンラインと対面を使い分けると発表している。しかし、具体的にどの授業が対面になるのか、情報はない。すぐに方針を決められないのは仕方がないことなのしれないが、大学生は今後の見通しがないことに不安を感じている。
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