安倍政権の「公文書管理問題」を振り返る 説明責任を軽視する日本の政治プロセスの現実

文=三木由希子
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GettyImagesより

 2012年12月から2020年の9月まで7年9カ月も続く長期政権となった安倍政権の後半は、行政文書の扱いがきわだって問題になった。

 自衛隊海外派遣日報問題、森友学園問題、加計学園問題、桜を見る会問題に加えて、統計不正や入管法改正時の調査データ不正などは、いずれも政策判断や決定に関する問題だ。しかし、これらが政治問題化したりその兆しが見えると、行政文書が廃棄、隠ぺい、改ざん、結論や結果に沿うようにデータが作られる(作られたように見える)ことが多数発生してきた。

 押さえておくべきことは、政策判断や決定という政治責任にかかわる問題によって、行政文書の扱いに影響が及んだということだ。いまあげた様々な問題は、本来政治の説明責任の問題であった。しかし、2017年以降の政府は、これらを説明責任を果たすという形ではなく、行政組織の実務レベルの公文書管理の運用やルールの見直しとして対応してきた。

 これらの問題には、安倍政権に限らず、日本の政治が説明責任を軽視してきたという背景がある。

政治的な働きかけの痕跡が消える「適切な文書管理」

 森友学園問題では、財務省で決裁文書の改ざん、交渉記録の問題化してからの廃棄が発生したわけだが、もとは公文書の扱いに問題があったわけではない。公文書の中に安倍総理の名前はないものの昭恵夫人が登場し、他にも複数の政治家が森友学園への国有地売却案件で問い合わせ等を行っていたことが記録され、保存・管理されていた。それらが政治問題化した結果、国会答弁と矛盾する状況が生まれて、改ざん・隠ぺいが行われたものだ。

 こうした問題を公文書管理の問題として再発防止を図るとどうなるか。決裁文書の改ざんは、電子決裁を原則として変更履歴が残るようにするとか、決裁の終了した文書を修正等する場合は、決裁をやり直すなどといったことになる。

 これ自体は常識的な対応ではある。しかし、それだけでは済まず、「余計なことを書いていたので改ざんが発生したのだから、改ざんしなくて済むような決裁文書にせよ」ということにもなりうるだろう。

 実際に、2018年4月27日に行われた公文書管理改革に関する与党ワーキングチームの中間報告では、「決裁文書は、意思決定の根拠を端的、明確に示すべきもの」「各府省において、決裁文書に記述する内容や編綴する資料のあり方について、考え方を明確化して徹底する」ことが、「政府への追加的措置の要請」として挙げられていた。要は、余計なことは書くなということだ。問題は、公文書管理の仕方だけでなく、「何を記録するか」にまで及ぶのだ。

 また、交渉記録の廃棄・隠ぺい問題だと次のようになる。

 行政文書の保存期間は1年未満から30年まで、業務類型ごとに設定されている。財務省と森友学園の交渉記録は、このうちの1年未満という短期保存の行政文書に該当するとされていた。これらは用済み後に廃棄するものであり、用済み後とは「契約締結後」だと財務省は説明してきた。

 森友学園問題では、財務省と学園側の交渉記録の存在が注目されていた。2017年2月の国会で、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は、これらの記録は廃棄済みと答弁したが、2018年5月になって財務省は交渉記録が存在することを認め、交渉記録を国会に提出したほか、ウェブサイトでも公開した。さらに国会での答弁にあわせて、2017年2月以降に保管されていた交渉記録の廃棄を進めたことを認めている。

 国有地の売買契約は2016年6月に締結されたため、政治問題化した2017年2月の段階で、「用済み」となったはずの交渉記録が残っていたことは、公文書管理制度的には「不適切な文書管理」だということに実はなる。

 一般的に「適切な文書管理」と聞けば、廃棄せずにしっかり保管するというイメージを持つ人が多い。しかし、公文書管理のルールは保存期間を定め、保存期間が満了した場合は速やかに廃棄か国立公文書館等に移管をすることを基本としている。公文書管理の徹底とは、用済み後の行政文書の廃棄を徹底せよという意味になる。

 通常、交渉記録より決裁文書の方が長期保存される文書になるのだが、交渉記録の廃棄を「適切な文書管理」のために廃棄を徹底し、決裁文書に詳しい経緯が残されないようにすれば、政治的な働きかけや口利きなどの痕跡が短期間で廃棄されることになるだろう。

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