ワインカラーのパンツスーツと2連のパール・ネックレスをまとったカマラ・ハリスは、民主党全国大会での副大統領候補受諾演説にて、こう語った。
「これから何年も経った時、今あるこの時は過ぎ去っています。我々の子供たち、孫たちは私たちの目を見て問うでしょう、『あの大変だった時、どこにいたの?』 彼らは尋ねるでしょう、どんなふうであったかと。私たちは答えるでしょう。私たちがどんなふうに感じていたかだけでなく。私たちは答えるでしょう、私たちが何をしたかを」
2020年、アメリカは甚大なコロナ禍に見舞われ、現在も多くの感染者、死者を出し続けている。ロックダウンが経済の急激な凋落を招き、同時に警官による黒人男性ジョージ・フロイド殺害事件に端を発してBLMムーブメントが大きく再燃した。その全ての背後に大統領として全く機能しないばかりか、国民の命を危機に晒し続けるトランプがいる。
カマラ・ハリスは国民に向かって、ジョー・バイデンを米国第46代大統領に選び、あなたたちも一緒になってこの苦境に立ち向かい、将来、子供たちに誇りを持って「私たちが何をしたか」を語ろうと訴えたのだった。
アメリカ政治の祭典、政党の全国大会
民主党の全国大会は8月17~20日の4日間にわたって開催され、ジョー・バイデンが民主党の大統領候補、カマラ・ハリスが同副大統領候補として正式に発表された。8月24日からは共和党の全国大会があり、ドナルド・トランプが続投・次期大統領候補として正式に発表される。これで11月3日の大統領選に向けて、いよいよバイデンとトランプの一騎打ちの選挙戦となる。主だった立候補者たちが続々と出馬表明を行ったのは2019年の初頭であり、長い大統領選もようやくここまで漕ぎ着けた。
4年に1度、大統領選を控えた夏に開催される民主党と共和党の全国大会は、アメリカの政治を象徴する一大フェスティバルとも言える。
従来の党全国大会は大きなアリーナを会場とし、数千人の観衆を前に元大統領、党の大物政治家、次世代を担う若手の政治家、政治的発言や活動で知られる著名人、ミュージシャン、一般市民などが登場し、演説やパフォーマンスを行う。当時はイリノイ州の新米上院議員で全米的な知名度など無かった「変わった名前の痩せっぽちの少年(本人談)」ことバラク・オバマが一躍注目を集めたのも2004年の民主党全国大会での秀でた演説によった。
一般参加者は星条旗をモチーフにしたシャツを着たり、大統領候補者の名を書いたプラカードを手にしたりと、大いに盛り上がる。最終日に大統領候補者が受諾演説を行うと紙吹雪が舞い、大量の風船が飛び交い、4日間のイヴェントが幕を閉じる。いわば党支持者が一丸となり、11月の本選挙に向けて気炎を上げる大会なのである。
2020年、女性を大フィーチャー
コロナ禍にある今年は民主党全国大会をヴァーチャルで行い、毎夜午後9時~11時(東海岸時刻)に各局が放映した。以下の主だったスピーカー(演説者)はほとんどが自宅からの参加となった。
・ミシェル・オバマ(前ファーストレディ)
・バラク・オバマ(前大統領)
・ヒラリー・クリントン(元ファーストレディ、元大統領候補)
・ビル・クリントン(元大統領)
・ロザリン・カーター(元ファーストレディ)
・ジミー・カーター(元大統領)
・バーニー・サンダース(今回の大統領選立候補者)
・エリザベス・ウォーレン(今回の大統領選立候補者)
・アンドリュー・ヤン(今回の大統領選立候補者)
・ピート・ブートジェッジ(今回の大統領選立候補者)
・アレクサンドラ・オカシオ=コルテス(下院議員)
・キャロライン・ケネディ(JFK元大統領の長女、元駐日米国大使)
・ステイシー・エイブラムス(元副大統領候補)
・ジル・バイデン(ジョー・バイデンの妻、大学教授)
・アンドリュー・クオモ(ニューヨーク州知事)
・コリン・パウエル(共和党ブッシュ政権の国務長官)
今回、カマラ・ハリスが女性として初の副大統領候補となったこと、今年は米国で女性の参政権獲得100周年にあたることから女性が大きくフィーチャーされる大会となった。前回の大統領選でヒラリー・クリントンが初の女性大統領にギリギリで届かなかったことも理由だろう。
4日間、毎日異なる女性俳優が大会ホストを務めた。エヴァ・ロンゴリア、トレイシー・リー・ロス、ケリー・ワシントン、ジュリア・ルイス=ドレイファスと、それぞれに政治的、社会的意識や発言で知られる顔ぶれだ。ラティーノ、黒人、白人と人種民族のバランスも考慮されていた。
ホストにはアジア系が含まれていなかった。実は今回の大統領選立候補者として注目を集めたアンドリュー・ヤン(台湾系)も当初はスピーカーに含まれておらず、ヤン自身が声を上げて急遽参加となった経緯がある。ただしカマラ・ハリスと共に副大統領候補として名前が挙がっていたエイミー・ダックワース下院議員(タイ系)は当初からスピーカーに抜擢されていた。
今回、異例のスピーカーとして共和党ブッシュ政権時の国務長官コリン・パウエルが登場し、聴衆を驚かせた。対立政党の大物が参加し、自党の現役大統領を批判するなど前代未聞の出来事だ。トランプをめぐっての共和党内の亀裂の深さを物語っている。
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