アメリカ初の女性副大統領候補、カマラ・ハリス~シンプルな演説とメッセージ性

文=堂本かおる
【この記事のキーワード】

スーパースター、ミシェル・オバマの演説

 錚々たるスピーカー陣の中で最も注目を集めたのは、初日に登壇したミシェル・オバマだった。3日目にはオバマ前大統領が登場し、相変わらずの演説名手ぶりを発揮したが、メディアと聴衆の注目はミシェルに集まった。

 演説時にミシェルが着けていたネックレスはゴールドの小さなアルファベットで「V-O-T-E」(投票)と綴られたものだった。このネックレスがミシェルのメッセージの核だと言える。とにもかくにもジョー・バイデンに投票し、トランプを国政から追放しなければならない。その理由をミシェルは真摯に語ったのだった。ちなみにこのネックレスは早速ヒット商品となっている。

ミシェル・オバマ 民主党全国大会演説 映像と全文書き起し

女性初の副大統領なるか、カマラ・ハリス

 政界に限らず、仕事の場であれ、PTAや自治会など地域コミュニティの場であれ、アメリカでは演説は非常に重要だ。自身の主張を分かりやすく、はっきりと、しかし押し付けがましくなく語り、同時に話者の人間的な魅力も滲ませた演説は功を奏す。これを成すには相当の訓練と、他者のアドバイスが必要となる。

 大統領候補レベルになると専属のスピーチ・ライターを雇う。当人の政策や思想を聴衆に分かりやすく、かつ適正な言葉で届けるにはプロの腕が必要なのだ。オバマ前大統領は文筆家でもあり、議員時代は自分で原稿を書いていたと言うが、後にスピーチライターを使い始めた。スピーチライターは話者の政策を完全に理解し、そこにリサーチによるファクトや、話者が追い切れていない最新の政情なども加えなければならない。聴衆のタイプ(小規模な地域演説なのか、軍人協会など特定のグループ対象なのか、全米中継されるものなのかetc.)により、タッチを変える必要もあるだろう。

 舞台が大きくなるほど演説時の表情、声のトーン、ジェスチャー、服装、髪型、メイクにも気を配らなければならず、プロのアドヴァイザーを雇うこともある。

 これらを考え合わせると、今回のカマラ・ハリスの演説はよく練られたものだと言える。大統領選に立候補し、資金不足によって降板するまでにかなりの演説やディベートをこなしてきたものの、副大統領候補として改めての「挨拶」の意味合いがある演説だった。

 カマラは女性、黒人、ジャマイカ系、インド系、南アジア系、移民二世、人種ミックスなど多彩なバックグラウンドを持つため、トランプと支持者が「バーサーBirther」問題を持ち出していた。「インド生まれで副大統領の資格がないのではないか」という根拠のない噂を広めたのだ。バラク・オバマに対しておこなったことを繰り返したのである。

 そこでカマラは演説の冒頭、女性の参政権100周年への賛辞から、今は亡き母親の話へとつないだ。母はインドからの、父はジャマイカからの移民であり、自身は異なるカルチャーを併せ持って育ったこと。だが、出生地は「カリフォルニア州」であると明言した。続いて夫、子供を含めた家族と家庭の概要を述べた。

 次にキャリアについて語った。弁護士、地方検事、州司法長官、上院議員と確実にキャリアアップし、常に子供、性犯罪の被害者、国際ギャングなどと戦ってきたと言い、ゆえに「プレデター(弱者を食い物にする者)を見ればそうと分かるのです」と、トランプに宣戦布告。

 人種問題に移行し、コロナ禍では黒人、ラティーノ、ネイティヴ・アメリカンが最も苦しんでいること、ジョージ・フロイド事件/BLMを取り上げ、白人、アジア系も含めて「我々すべてを団結させる 」大統領支持を語った。

 その大統領とはジョー・バイデンであり、バイデンとは旧知であることからバイデンの個人的なエピソードにも触れた。

 以後、この演説を聞いている「あなた」と「私」と「ジョー」が共に歴史を変えていくのだと語り、最初に挙げた未来の子供たちへの言及で締めくくった。

カマラとミシェルの違い

 初日のミシェル・オバマの演説があまりにも素晴らしく、その時点で「カマラが霞む」という声が出た。事実、ミシェルの強い訴求力を持った演説に比べるとカマラのそれは地味にさえ感じられた。だが、2人は立ち位置が異なる。ミシェルはその存在がすでに全米はおろか世界中に知られ、自己紹介の必要はない。また、大きな影響力を持つが現役の政治家ではないことから、発言内容にある程度の自由を持てる。一方、カマラは副大統領候補として大統領候補バイデンを立てつつ、バイデンに足りない部分を補い、選挙に勝つという課題を課せられている。加えてバイデンは吃音症を持つこともあり、大会場での演説が得意ではない。ゆえにバイデンの演説を上回らない気配りも必要だったと思える。

 この役目をカマラはプロの法律家としての強さ、鋭さに持ち前の明るさを巧みに絡めつつ、うまくまとめた。これから11月まで続く選挙戦の中でカマラは何度も演説を続け、共和党の副大統領候補マイク・ペンスとのディベートも行う。今後に大いに期待である。
(堂本かおる)

■記事のご意見・ご感想はこちらまでお寄せください。

1 2

「アメリカ初の女性副大統領候補、カマラ・ハリス~シンプルな演説とメッセージ性」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。