誰が「さしすせそ」を使うのか。「男の機嫌をとる」サービス終了のお知らせ

文=原宿なつき
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GettyImagesより

 清田隆之さんの新刊『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)を拝読しました。恋愛相談に乗るユニット・桃山商事の活動で知られる清田さんは、女性の立場に寄り添った記事を書かれることも多く、リベラルなフェミニストというイメージがある方も多いと思います。

 しかし、そんな清田さんも、昔からそうだったわけではなく、中高一貫の男子校時代には、女子の写真を見て点数をつけるなど、女性をナチュラルにモノ扱いしたり、彼女に対して「お前」呼びをしたりしていた過去もあったとか。

 本書では、そんな清田さんが、桃山商事やライターの活動を通して、自分自身の男性性と向き合い、自身のジェンダー観をアップデイトしていく様が描かれていました。時代が変わり、女性たちも変わっている。俺たちはこのままでいいのか…そんな切実な思いが伝わってくる良書でした。

 ただ、「さしすせそ」問題については、「そうかな?」と思う点もありました。

女子小学生にモテ技指南。「さしすせそ」問題

 「さしすせそ」問題とは、『おしゃカワ!ビューティー大じてん』(2018年 成美堂出版)にて、女子小学生に「さしすせそ」を使うことを指南した記事が、ツイッターにて話題になった一件です。『おしゃカワ!ビューティー大じてん』では、「男子はほめられるのか好きだから、女子はさしすせそ(さすが!知らなかった!すごい!センスいい!そうなんだ)を使ったらモテるよ」と指南していました。

 清田さんはこの問題について、なぜ男性が「さしすせそ」で気持ちよくなってしまうのか、を軸に向き合っています。いわく、「その根底には、自分で自分のことがわからないために、自分ひとりでは自尊感情を満足させられず、他者からの承認や賞賛がなければすぐに足元がぐらついてしまうほどの不安がある」と。また、この傾向は、男性性の特徴のひとつでもある「優越志向」に基づいているものだとも指摘しています。

 たしかに男性の方が、「優越志向」つまり、誰かより自分の方が優れていると思うことに重きをおくように社会化されていることが多いため、この指摘はまっとうだと思います。

 しかし、「さしすせそ」の問題の本質は「男性がさしすせそで気持ちよくなってしまうこと」にはない、と私は思うのです。なぜなら、「さしすせそ」は、女性がされても嬉しいからです。

 褒められたら嬉しいのは、男女ともに変わりません。だからサービス業、接客業の人は、客の性別に関係なく、相手を持ち上げ、「さしすせそ」することが多いのでしょうし。

「女性は無償でサービスを提供し、男性は無料サービスを受ける」という構図

 「さしすせそ」は男女ともに心地よくさせる可能性が高いにも関わらず、男女関係においてそのサービスは男性にだけ無料で提供され、女性は無償でそのサービスを提供しなければならないとされています。

 私はこれまで「男性に無料でサービスせよ」というメッセージをたくさん浴びて育ってきました。たとえば、「男を立てた方がいい。男はプライドの高い生き物だから気をつかってあげないとだめ」など。手を変え品を変え、言い方を変え、媒体を変え、「男の機嫌をとれ」「男性の機嫌は、女性の機嫌より優先される」というメッセージを受け取ってきました。

 しかもそのメッセージは、いつも「男性のため」ではなく、「あなたたち女性のため」という甘い言葉でコーティングされていました。『おしゃカワ!ビューティー大じてん』もそうですよね。「あなたがモテるために」って。

 清田さんが指摘されているように、「さしすせそ」は感情労働とも言えるものです。たとえばキャバクラで「さしすせそ」をしたら、時給5千円くらいもらえるかもしれません。しかし、女性が、自分が得すると思って「さしすせそ」しても、時給は発生しません。無償で感情労働をすることになります。

 清田さんは、「男子は褒められないと機嫌を損ねることがある。そのため、面倒臭いけれど、さしすせそを使う構造が温存されているのでは」とも指摘しています。

 なぜ男子が「さしすせそ」されずにむくれてしまうのかというと、本来であれば無償で受けられるはずの「さしすせそ」サービスが、提供されないからでしょう。「え、今まで無料でサービスしてくれていたのに、なんでお前しないの? いきなりサービス中止なんておかしい!」って感じで。

無料サービスはもうすぐ終わる

 私も「さしすせそ」されたら気持ちよくなっていたかもしれませんが、「さしすせそ」されないからといって苛立つことはありません。なぜなら、最初から、無料サービスなんて提供されなかったから。

 「さしすせそ」されて気持ちよくなるのは、男女関わらずあることだと思います。ですから、「なぜ俺たちは、さしすせそサービスをされて気持ちよくなってしまうのか」と考えるよりも、「さしすせそサービスの無料提供はもう終わったのだ」としっかり受け入れる方が大切なのではないか、と思った次第です。

 今はもう女性たちも、「さしすせそ」は、「女性に利益をもたらさず、男性への無償のサービス提供にすぎなかった」と気づき始めています。そもそも、男性が無料で「さしすせそ」サービスを受けられていたのは、男性の方が圧倒的に社会的地位・経済力が高かったからなので、自活できる女性が増えてきた今、「なぜ、モテなければならないのか」「なぜ、無料でヨイショせねばならないのか」「なんのトクもない。むしろ損してたわ!」と思い、サービス停止を密かに決める女性が多いのは当然の帰結だと言えます。

 今まで通りのサービスの提供が受けられない、と騒ぐモンスターカスタマーになりたくないのなら、「無料のサービスが当然受けられるはずの俺たち」には、さよならする必要があるのでしょう。

(原宿なつき)

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