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NPOほっとプラスの理事で、聖学院大学客員准教授の藤田孝典氏が「性風俗業界では性搾取が行われており、廃業するべき」といった主張のツイートを長期にわたり投稿している。筆者も含め多くの人がそうした主張を批判する一方、藤田氏に同調する人も少なくない。こうした事態を重くみた市民団体3団体は8月1日、藤田氏が代表を務める反貧困ネットワーク埼玉等に対し、共同で抗議書、嘆願書を提出した。
・反貧困ネット、社会福祉士会に、抗議書、嘆願書を3団体で提出しました
藤田氏が仕掛ける攻撃的なツイッター炎上商法によって、人々のあいだで感情的な対立や分断が深まり、理性が失われていっているように思う。最近風俗差別のヘイトスピーチも増えたように感じるので、性産業を違法にすると何が問題なのかを説明したい。
セックスワークの犯罪化は、危険な職場を作り出す
性産業を禁止することは、多くの場合、買春や風俗店営業(+それらを成立させる斡旋や勧誘、場所提供等)の犯罪化を意味する。そうなると、どうしても性産業でお金を稼ぎたい人は、様々なサバイブを強いられることになる。
働く場所が厳しく制限されている国や地域のセックスワーカーたちはどうしているのか。まず香港とイタリアの事例をみてほしい。
香港では、風俗店運営または2人以上のセックスワーカーが施設を共有することが違法とされている。そのため、一人一住居でのセックスワーク、「一樓一(または一樓一鳳、英語ではOne Woman One Brothel)と呼ばれるワークスタイルを余儀なくされている。つまり事実上、客をとる場所と自宅が一緒ということで、プライベート空間でのセックスに限りなく近い形での働き方を強いられているというわけだ。
実際に私も数年前に香港の「一樓一」に視察に行き、香港のセックスワーカーに、「客に自宅を知られていると、突然客が訪ねてきたりしない? 危なくない?」と尋ねたところ、やはり常にストーカーの被害や心配があるとのことだった。
2010年2月3日の蘋果(りんご)日報の記事でも、「香港の一樓一鳳、繰り返される強盗」というタイトルで紹介されている(サムネイル写真が一樓一)。記事では、「強盗や殺人の被害のリスクをなくすため、1つの住居でせめて2人が働けるように現行法を改正すべきだ」と訴える、香港のセックスワーカー支援団体・紫藤(Ziteng)のコメントが掲載されている。
イタリアの法による弊害はさらにひどい。同国は風俗店営業も住宅やホテルでのセックスワークも違法であるため、ナイジェリア人女性たちが摘発を逃れて、茂みの中にマットレスを敷いて客をとっている。私は2012年の国際エイズ会議(ワシントン)でこの報告を聞いた。そのとき資料として示された現場写真が以下である。茂みの中に置かれたベッドマットレスまわりに使用済みのコンドームのゴミが散らばり、当然シャワーもなく、守られた環境だとはとても言い難い。
こうした状況で誰も働くべきではないのは明らかだ。これらは彼女たち自身の願いが聞かれずに、セックスワークに関する法律が当事者以外の人々の声によって作られてきた結果だ。
日本のセックスワーカーが働く場所はどうだろう。警察庁では場所ごとに凶悪犯罪件数を出している。例えばラブホテル、ビジネスホテルを含む宿泊施設においては、(デリヘル合法化の)風営法改正前も改正後も、凶悪犯罪事件はあまり変化なく継続的に起きている。けれど、風俗店という場所では凶悪犯罪はほぼ起こっていない。そして、ホテルでの犯罪というのも、店を介さない個人間の売買やプライベートのケースで犯罪が起きやすいと思われる(※1)。
というのも、2005年以降年次報告書が出されている人身売買被害の内訳では、ツイッターやLINE、出会い系でお客さんを見つける個人売春や10代の援助交際・JKビジネス、外国人の働く裏風俗、ホストの飲み代のツケの支払い強要、スカウト絡みといったアンダーグラウンドで起こっていることがほとんどである。犯罪は不可視化されたところで起きるので、合法的な領域の“適正風俗”では人身売買は起こりにくい。さらに店舗型風俗店であればより安全ということが言える。しかし、日本においても、こうした現場のリアルな実態や当事者の意見をもとに法律が作られてこなかったため、2000年から事実上店舗型風俗店の新規出店は認められなくなり、派遣型の風俗店がメジャーな風俗の業種となってしまった。
犯罪撲滅や安全性の確保という視点で見るならば、どのような条件がそろえば犯罪が起きるのかを考えないといけないが、性産業撲滅を訴える人たちは、性産業は犯罪の温床だからなくさなければいけないという見方をする。こうした見方によって、もっとセックスワークを取り締まって、もっと危険な状況下にセックスワーカーを追いやるという最悪な対応策が、長年国内外で繰り返されてきている。