性産業の禁止は、働く人にどんなリスクを生むか Save us from saviours!

文=要友紀子

社会 2020.08.28 15:30

買春者処罰化≒セックスワーカーの犯罪者化

 その最悪な対応策の典型が、「セックスワーカーを保護し、買春者を処罰する」という施策だ。 

 買春者処罰についてまず最初に懸念するのは、買春者処罰法がある国では、実際には買春者よりもセックスワーカーのほうが警察に捕まえられることが多いことだ。

 例えば韓国は、買春者処罰化と、(強要された)セックスワーカーの保護を目的とした性売買特別法を2004年から施行しているが、2007年から2009年に、2万5千人のセックスワーカーが検挙されている。そのうち、セックスワーカーに対する起訴率は26.3%で、買春者の起訴率10.2%を2倍以上高い。その間、セックスワーカーを被害者として認定した事件はたった一つもないということで、実際に性売買特別法が想定する、セックスワーカーを保護するという規定は死文化されている(※2)。

毎年、性売買特別法反対集会を行なう韓国のセックスワーカーたち(2015年9月23日、撮影筆者)

 同じくフランスでも2016年に買春禁止法ができて以降、自治体の条例や警察の職質によって、未だに客よりセックスワーカーの方が犯罪者扱いされることや逮捕されることが多いと報告されている(※3)。

 普通に考えても、(買春者という)犯罪者とされる人を仕事の相手にしなければ成立しないような労働状況に置かれる労働者が、法的/社会的に安定した立場になるとは考えにくい。もし日本でも買春者処罰法ができれば韓国やフランスと同じことが起きると予想される。

 現に日本では2004年頃から、無届けや営業禁止区域の風俗店で働いた風俗嬢に風営法違反幇助罪が適用されるようになっている。現行の売春防止法の理念に則れば、セックスワーカーは“保護更生”の対象で処罰の対象ではなく、風営法適用対象にも普通はならないという理解が一般的であるが、現実はそのようになっていない。このような現実をみれば、買春が犯罪行為となればセックスワーカーが違法行為の幇助者と見做される可能性は高いだろう。

 いずれにしても警察はとにかく買春の証拠を掴まなくてはいけないのだから、結局セックスワーカーのスマホの中を調べたり証言を得るために、様々な理由をつけてセックスワーカーを連行していくだろう。超法規的なやり方が常態化している現政権の法執行機関のありようを止められる人は誰もいないではないか。

コンドームを使っていると警察に逮捕される

 買春を取り締まるとは結局のところセックスワークを取り締まるということになり、セックスワーカーは自分の客も自分も捕まらないようにして働かなければいけなくなる。

 こうした法的状況では、セックスワークがビジネスの装いになってはならず、極力プライベートの関係の延長上である必要があり、表向きそのようなコミュニケーションが両者に課せられる(※4)。その結果、セックスワーカーは何か危険な目に遭っても当然警察には頼りづらくなり、結果、客の優位性が高くなり、暴力被害が増大し、不可視化する。スウェーデン、ノルウェー、フランス、アイルランドなどでは、買春処罰化またはセックスワークの犯罪化によって、セックスワーカーへの暴力が激増したことが調査結果でわかっている(※5)。

 また、警察によるセックスワークの取り締まりというのは、自分の命や健康を犠牲にするほどセックスワーカーを追い詰める。

 3年前、NYのクイーンズ区にあるマッサージパーラーで働いていた中国人セックスワーカーは、警察による摘発の最中、逃げようとして窓から転落死した。彼女の同僚も、隣のビルに逃げようと窓からジャンプし体が不自由になるくらいの大けがをした。ビルの隙間に隠れて朝まで震えて過ごした人もいるという(※6)。

 このほかにも、一般的に警察が風俗を取り締まる際、コンドームの存在を「逮捕の直接的な証拠」にすることが、セックスワークを不安全な労働にしているという問題が長年各国で指摘されている。警察がきたときに証拠を隠すため、「コンドームを食べた」というセックスワーカーもいるし、警察の職質での所持品検査を恐れてコンドームを所持できなかったために、「コンドームを使えず危険なセックスをしなければいけなかった」「コンドームの代わりに(破れる可能性が高い)ナイロン袋を使った」という人もいる。

コンドームが逮捕の証拠に使われる問題についてオープンソサエティ財団が制作した啓発動画「Condoms as Evidence」(2012年)

米国のセックスワーカー支援団体セントジェームスのサイトで紹介されているコンドームパッケージ。「このコンドームは合法。証拠に使うな。没収するな」と書かれている。

 日本でも、店舗側が売春防止法違反の疑いをかけられることを恐れて、非本番系風俗のデリヘルやヘルスでさえ、ゴムフェラのためのコンドーム携行を認めないところがある。これは日本のセックスワークが部分的に犯罪化されていることによる被害の一側面だ。

> 次ページ セックスワーカーは女性差別の犠牲者?

1 2 3

要友紀子

2020.8.28 15:30

セックスワーカーの健康と安全のために活動するグループSWASH代表

サイト:https://swashweb.net/

関連記事

INFORMATION
HOT WORD
RANKING

人気記事ランキングをもっと見る