炎上した花王ロリエの「生理は個性」プロジェクト、背景に何が? 担当者に聞いた

文=雪代すみれ
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“kosei-ful”プロジェクトのホームページより

 花王の生理用品ブランドである「ロリエ」の新プロジェクトに、ネット上で批判が集まっています。

 問題となっているのは、8月に同社ホームページで公開された「生理を“個性”ととらえれば私たちはもっと生きやすくなる」“kosei-ful”プロジェクト”。

 プロジェクトの趣旨は以下のとおりです。

<誰かが生理で休んだとき、 「お大事に」って口では言ったけれど、
心のどこかでは「生理で休むなんて…」と
思ってしまうことがあったり。
“生理は一人ひとり違う”
頭ではわかっていても、女性同士だからこそ
ついつい自分にあてはめて考えてしまうのが、
リアルだったりする。
けれど、その違いを 受け入れ合うことができれば。
違いを“個性”ととらえることができれば。
今まで見えなかったことに気がつけたり、
そっとフォローしあえたり、
私たちはもっと気持ちよく 助け合えるはずだから。
ロリエは、“kosei-ful”プロジェクトを はじめます。>

 ホームページ上では、花王の女性社員72人にとったアンケート結果を「私と彼女の生理の個性展」として掲載。内容は「生理痛がひどいとき、休む? 休まない?」「『生理痛がしんどいので休みます』と後輩からのメール あなたはどう思う?」など。他にも生理に関する8つの質問に答えると、自分だけの生理のカタチを表現できる“kosei-ful gem”を作成するツールもあります。

 同プロジェクトのYouTube動画には、花王ロリエのCMに出演する俳優の清野菜名さんが登場。動画では、<私の生理と彼女の生理 人が違えば見方も考え方も付き合い方も違う、とロリエは思います。お互いの違いを個性として受け入れられれば、私たちは今までよりももっと気持ちよく助け合えるはずだから>という清野さんのナレーションも流れます。

 この企画に対し、ツイッター上では「生理痛が辛いなら病院に行ったほうがいいのに、“個性”で済ませるのは、病気を見逃す原因になってしまうのでは?」「“女性同士で理解し合えば生きやすくなる”という企画の作り方は、“女の敵は女”という考えが背景に見えて不快」「他の体調不良なら“個性”なんて言われないのに……」など否定的な意見が多数見られ、炎上しています。

 「生理を“個性”ととらえる」とはどういう意味なのか——プロジェクトの趣旨や企画の背景について、花王広報部に取材を行いました。

①「“kosei-ful”プロジェクト」ついて、ネット上でさまざまな否定的な意見が見られています。今回の炎上を企業として把握されていますか。

はい。今回のロリエのキャンペーンには様々なご意見をいただいており、貴重なお声として拝聴しております。

②「生理を“個性”ととらえること」について詳しくお伺いします。

「生理」は個人差がとても大きいもので、人により症状も捉え方も様々です。
また、女性同士でも話題にのぼることは少なく、生理時の悩みやストレスを自分ひとりで抱え込みがちです。
そこで、生理の症状や捉え方が一人ひとり違うということを“生理の個性”という言葉で表現し、広告やWEBコンテンツを制作いたしました。

③生理が辛くても休めないことにはどんな理由があるとお考えでしょうか。

さまざまな背景が考えられますが、今回、ロリエでは、女性が、生理時の悩みやストレスを自分ひとりで抱え込みがちなことに注目し、まずは、女性同士がお互いの生理の違いを理解し、受け入れ合うきっかけをつくれたら、と考えました。

④日常生活に支障があるような生理痛は、”個性”ではなく、病気のサインである場合もあると思います。そのことは、企画の段階で認識されていましたか?

はい。生理をはじめ、女性ならではの病気やトラブルなどについては、医師監修のもと情報をまとめ、「からだの情報」として、同じくロリエのブランドサイトに掲載しております。

⑤ホームページに掲載されている社内アンケートでは「後輩に薬を渡して断られたらどう思うか」との質問もありましたが、アレルギーや他の薬との飲み合わせで、飲めない場合もあると思います。どういった意図でこの設問を入れたのでしょうか。

生理をめぐる気持ちや症状のくい違いが感じられた経験談の一例として、アンケートに含めました。

この設問にもご意見をいただいているのは把握しており、いただきましたご意見を真摯に受け止めております。企画段階でもアレルギーや飲み合わせの問題等の理解はしておりました。薬の服用はあくまで、かかりつけ医や薬剤師の指示に従うのが前提と考えております。

「生理痛を体調管理不足と判断された」男性にも正しい知識が必要

 この企画の「生理には一人ひとり違いがあること」「一人ひとり生理痛の重さも辛さも違うため、女性同士でも理解されないこともある」という部分には筆者も同意します。しかし、男性も一緒に関わっている企画でありながら、「男性も生理を理解する視点」が出てこなかったことには疑問を抱きました。

 厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」によると、管理職に占める女性の割合は、部長相当職では 6.9%、課長相当職では 10.9%、係長相当職では 17.1%。現状、管理職の多くは男性です。

 また女性同士で生理についての話をしていると、「機嫌が悪いと『生理なの?w』と男性から揶揄される」「上司が日頃からセクハラ発言をしているので、生理の体調不良の相談をする気になれない」「正直に話したら『社会人なんだから体調管理をきちんとしてほしい』と言われた」といった悩みも出ます。男性の理解も同時に進めていかなくては「生理が辛くても言えない・休みたいと言いづらい問題」は解消されないのではないでしょうか。

 この疑問についても、花王広報部から以下のとおり回答をいただきました。

企画当初は、女性だけでなく、男性への生理理解を促進することも検討しましたが、プロジェクトの女性メンバーで話し合いを重ねる中で、女性同士でも生理が話題にのぼることは少なく、生理時の悩みやストレスを自分一人で抱え込みがちになることという意見が多くありました。

そこで、まずは女性同士が生理の違いに目を向け、受け入れ合うことが、心身ともに生活しやすい社会への一歩になると考え、「女性同士の生理の多様性理解」というテーマにしました。
今後は、「男性の生理理解」を促進するなど社会全体に働きかけていくことも考えています。

 今回の企画から「企業として問題意識を持っていて、現状を変えたいと思っている」ことは伝わってきますし、その方向性は応援したいと思います。しかし、「女性同士で生理を理解し合えば、もっと生きやすくなる」と表現され、男性も理解する視点が一緒に出てこなかったことは、「女の敵は女」と言いたいかのように捉えられ、炎上もやむを得なかったという印象を抱きました。

 花王は<今後も、皆様から寄せられたお声に耳を傾けながら、生理の多様性を理解し、受け入れ合うことで、心身ともに生活しやすい社会を作ることに努力して参ります>とのこと。企業として炎上した原因が分析され、次回は消費者の多くが共感できる企画が作られることを願います。

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