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アメリカ・ウィスコンシン州で黒人男性が背後から警察官に発砲された事件に抗議するため、現在出場しているエスタン・アンド・サザン・オープンの準決勝を棄権していた大坂なおみだったが、大会側が準決勝を8月28日に延期し、出場することとなった。
大坂なおみは26日、準々決勝に勝利した後、棄権を表明。その心境について自身のツイッターで「私はアスリートである前に、一人の黒人の女性です。私のテニスを見てもらうよりも、今は気を付けなければいけない重要な問題があります」と説明し、「私がプレーしないことで何かが起きるとは思いませんが、白人が多い競技で議論を始めることができれば、正しい道への一歩になると思います」と綴った。
大会側は大坂の意志を尊重し、27日に開催予定だった試合を全て1日延期。これを受け、大坂は英紙ガーディアン(電子版)で「(女子テニスのツアーを統括する協会)WTAなどの要請を受け、協議して決めた」と声明を出し、参加の意向を固めたようだ。
しかし残念なことに日本では、大坂の勇気ある言動に対し、「今まで応援してたけど興味なくなった」「彼女のスポンサー企業の商品はもう買わない 」とSNS上に批判的な声が相次いでいる。大坂の真意を全く汲み取っていないのは個人だけでなく、メディアも例外ではない。
NHKは大坂の大会出場が決まったことを、「大坂なおみ 大会側の対応受けボイコットを撤回」というタイトルで報道。記事には「出場中だったツアー大会をボイコットすると表明しましたが、一転して、28日に行われる準決勝に出場することが分かりました」とある。
だが大坂が棄権を撤回したのではなく、大会側が大坂を出場させずに大会を続行することを諦め 、WTAが大坂の翻意を受けて連帯を表明し、大坂が大会出場を決断したという流れだ。「撤回」や「一転」という表現を使用すると、大坂がわがままを言っているだけのように受け取られるリスクもあり、適切ではない。
日刊スポーツの記事は特にひどかった。“テニス担当おじさん記者”を名乗るライターは、「はっきりと自分の意思を伝える。そうしないと、外国では理解してもらえない」と大坂の決断に理解を示しつつも、「直前の準々決勝で敗れたコンタベイトはどう感じるだろうか」「日本人のように『忖度(そんたく)』しろとは思わないが、この棄権という直接的な行動の陰で、大坂を支えるために走り回っている人がいるのも確かだ」と遠回しに“日本人らしさ”を押し付けるものだった。
大坂が棄権するに至った経緯や心境を考慮すれば、その行動が彼女のわがままではなく、彼女のサポートで走り回るスタッフの理解を得られるものであろうことも自ずとわかる。そもそも人種差別や社会的な不公平に抗議することが、「わがまま」であるはずはない。にもかかわらず、黒人差別に声を上げる彼女に「もう応援しない」という日本語のリプライが少なからず飛ぶ状況は残念なことだ。