ウッチャンナンチャンに憧れて弟とコンビを組んだ芸人の、「普通」というコンプレックス

文=清田隆之
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GettyImagesより

(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた清田隆之さんが、「一般男性」にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく「yomyom」の連載。

 今回お話をうかがったのは、自ら応募フォームに申し込んでくれた内田英行さん(仮名)だ。

面白い人になりたい! 顔もキャラも「普通」だけど

 現在32歳の内田さんは週5でコンビニのバイトをする傍ら、フリーのお笑い芸人として活動している。芸歴7年、年の近い弟とコンビを組み、M‐1グランプリの予選にも毎年参加している。お笑いライブでは、ぺこぱ、メイプル超合金、ナイツ、トム・ブラウンなど、名だたる芸人たちとも共演経験がある。

 応募者リストの中に「お笑い芸人」という肩書きを見かけたとき、少し意外な感じがあった。当連載は男性の職業に特別な制限を設けているわけではないが、タイトルにある「一般男性」とは「主に特に変わった、特別な部分の無い一般的な男性の事。また、マスメディアで活動しておらず、プライバシーに配慮して名指しを避けられる(具体的には、芸能人・アイドル・歌手・スポーツ選手などでは無い)男性という意味でも使われる」(ピクシブ百科事典)と説明される言葉だ。はたしてお笑い芸人は一般男性なのか、どの程度売れたら「芸能人」になるのか、本人はどのような自己認識なのか──そんな興味を抱いた。

 笑いというのは「男らしさ」の問題と結びつきの強い要素だと感じる。“おもしろいやつ”はクラスやコミュニティで特権的なポジションを与えられ、男同士の間では「どっちがおもしろいか競争」みたいなレースが頻繁に繰り広げられている。プロの芸人ともなれば競争の激しさはなおさらだろう。

 内田さんはなぜ、一般男性の身の上話をうかがうこの企画に応募してくれたのか。お笑い芸人というアイデンティティは、内田さんの男性性とどう関係しているのか。これまで当連載に登場してくれた山本さんと進藤さんは内面をだだ漏れで語る男性たちだったが、内田さんはまた異なるタイプに感じられた。しかし、心の柔らかい部分がなかなか見えづらいその空気感に男性的な何かが宿っているような気もする。

 東京生まれ東京育ち。ウッチャンナンチャンに憧れて笑いの道を志し、実家でともに暮らす弟と兄弟コンビを結成。芸人としては「普通すぎる」というコンプレックスを抱えつつ、精力的にライブ出演を重ねながらブレイクを目指す内田さんのお話。

芸人と名乗れる基準や資格が欲しい

 フリーの芸人として活動していますが、東京の老舗芸能事務所に「準所属」のような形で関わらせてもらっていまして、そこが主催する定期ライブに出演したり、事務所経由で営業のお仕事をいただいたりもしています。お笑い芸人がどれだけいるのか実数はわかりませんが、毎年M‐1グランプリにはアマチュアも含めて5000組ほどがエントリーするので、相当な数がいるんだと思います。アマチュアの人たちは自由でいいんですよ。おもしろいネタがパッと出ればいいわけで、そこから人気が出ることもあるわけです。でもプロの芸人になった以上は常におもしろくあることを期待されてしまう。

 僕自身はもちろん職業を聞かれれば「お笑い芸人」と答えますけど、自ら進んでは言いたくないですね。自信満々だと思われるのも嫌なので、「お笑いやってます……」って、控えめにボリュームを落とし、消え入るような声で言ってます(笑)。僕らのような売れてない芸人は「お笑い芸人」という位置づけにしないで欲しいなというのが正直なところです。芸人と名乗れるレベルの基準や資格みたいなものがあったら楽かなとは思いますね。

 今回「一般男性とよばれた男」という企画に応募してみようと思ったきっかけは、正直に言うとPRのためです。コロナの影響でライブができなくなり、何か別の形でやれる仕事や自己表現の場はないかと探していたときにたまたまSNSでこの連載の存在を知りました。とりわけ気になったのは「普通の人を募集している」って部分で、実は僕自身、ずっと一般男性という扱いを受けてきた人生と言いますか、お笑いの世界において中途半端な位置でくすぶっている自分にもどかしさを感じているんですね。この連載はプライバシーの観点から匿名が条件ということをあとから知り、実質的にはPRの場にならないのですが……それでも自分を知って欲しいという気持ちが強くあり、僕自身についてお話しさせていただけたらと思います。

 僕は1987年生まれで、小中学生のときはウッチャンナンチャンさんたちがやっていた『笑う犬』(フジテレビ系)というコント番組が人気を博していました。それを見て僕は「おもしろい人になりたい!」という思いを抱いたんですけど、当時はまだ芸人になろうとまでは考えていませんでした。

 最初に目指したのは喜劇役者で、大学生のときに俳優の専門学校に入って演技の勉強を始めました。でも役者を目指す人たちとどうにも話が合わないし、根本的に演技が下手だったのもあって、これは役者じゃないなって考え直しまして。結果、お笑いが好きなんだからストレートに芸人を目指したらいいんじゃないかとなり、専門学校を辞め、大学も休学し、芸能事務所が運営するお笑い養成所に通い始めました。そこでピン芸人として活動したり、いろんな同期とコンビを組んでみたりしたんですけど、どれもダメで、最終的に芸人としての特徴を出すため弟を誘って兄弟コンビを結成するに至りました。弟は最初あまり乗り気じゃなかったんですが、当時テレビの制作会社を辞めてフリーターをしていたときで、母親から「試しにやってみたら?」と後押しもあって渋々オッケーしてくれました(笑)。

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