地下ライブは赤字、ストーカーはよくいる。フリー芸人の「実際の生活」と夢

文=清田隆之
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(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

【一般男性と呼ばれた男】

 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾けてきた清田隆之さんが、「一般男性」にインタビューをし、彼らが何を感じ、どんなことを考えながら生きているのか、彼らの声にじっくり耳を傾けていく「yomyom」の連載。

 今回お話をうかがったのは、自ら応募フォームに申し込んでくれた内田英行さん(仮名)。ウッチャンナンチャンに憧れて弟とコンビを組み、「芸人」をしている。はたしてお笑い芸人は一般男性なのか、どの程度売れたら「芸能人」になるのか、本人はどのような自己認識なのか? 「男らしさ」と結びつきの強い「笑い」、そして芸人の世界。前編に続き、内田さんの話を聞いた。

ウッチャンナンチャンに憧れて弟とコンビを組んだ芸人の、「普通」というコンプレックス

(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)【一般男性と呼ばれた男】 恋バナ収集ユニット「桃山商事」の一員としてこれまで120…

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地下ライブは赤字、ストーカーはよくいる。フリー芸人の「実際の生活」と夢の画像3 ウェジー 2020.08.29

ネタを作ってるなら浮気する時間なんて絶対ない

 コンビニのアルバイトを週5くらいやっていまして、朝は5時に起床し、6時にタイムカードを押して15時まで働いて、夕方以降はネタ作りかライブというのがコロナ以前の基本的な生活パターンでした。土日はお世話になっている事務所主催のライブがあり、規模の大小合わせて多いときで月に15本くらいライブに出ていました。

 僕は趣味と言える趣味がなくて、基本的にお笑いのことしか考えていません。そういう状況じゃないと落ち着かないってくらいですね。芸人は基本ネタで勝負してこそという考えなので。

 というのも、今ってネタ以外で勝負してる芸人が多いんですよね。わかりやすいのは『アメトーーク!』(テレビ朝日系)に代表される“プレゼン芸人”です。そこでは「○○に詳しい」とか「昔〇〇をやってた」っていう芸人がピックアップされますよね。自分が熱く語れるジャンルについてプレゼンする、みたいな。家電芸人とかアイドル芸人とか、熱中できる趣味があるのはいいことだとは思いますけど、それだったら別に芸人じゃなくて、その道のプロが説明するのでいいじゃないですか。ましてやプレゼン芸人になるために無理やり趣味を作るみたいなのもどうかと思います。それは僕のやりたい芸人像ではないなって。

 同世代の芸人にはYouTuberみたいな活動がメインになっちゃってる人も多いですね。料理動画とか食べ歩き動画とかばっかりアップしてて、もはや芸人なのかよくわからなくなっているくせに、再生回数が上がれば収益につながりやすいし、例えば『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系)みたいな番組に呼ばれたりもする。ネタで勝負しない芸人、舞台に立たない芸人が増えているような印象です。

 先日アンジャッシュの渡部さんが不倫問題で大炎上しましたけど、あれって芸人としてネタをやってないからというのも大きいと思うんですよね。というのも、ちゃんとネタを作ってる芸人って不倫してる時間なんてないんですよ。ナイツさんとかサンドウィッチマンさんとかハライチさんとか、ネタを作ってる人たちは浮気してる時間なんて絶対にないはず。

 渡部さんってグルメとか高校野球とかまさにプレゼン芸人みたいなお仕事ばかりされてたし、あれだけ食欲が旺盛だと性欲もすごいのかなっていろいろ合点がいった部分はあったにせよ、やっぱりネタをちゃんと作ってなかったことが大きかったんじゃないかな。狩野英孝さんとかもそうですよね。タレント化している芸人ほど浮気や不倫をするんじゃないかと個人的には感じています。

 僕は内村(光良)さんに憧れて喜劇役者を目指し、そこからお笑いに入ったというのがあったので、漫才のネタもちゃんと作り続けたいし、コントでもいろんなキャラを演じ分けて笑いを取れるようになりたいと思っています。バラエティ番組なら、それこそ内村さんがやられていた『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ系)の名物企画「ドーバー海峡横断部」みたいな、テレビでしかできないような壮大なロケとかやってみたいですね。あれを初めて見たときは「いつか自分もやるんだろうな!」ってワクワク感がありました。芸人というのは生き方のことでもあるので、自分の生き様が見えるような仕事がしたいなと思ってはいますね。

「辞めどきも大事」とは言われるけど

 お笑いのライブにはいろんな種類がありまして、一番わかりやすいのは事務所主催のライブかと思います。それこそ吉本なんかは自前の劇場を持っていて、日々いろんなところでライブをやっていますよね。他には劇場やライブハウスが主催するお笑いイベントもありますし、あと芸人が自前で開催するライブもある。これは僕らが自分で会場を借り、自分たちでキャスティングし、宣伝や運営も自分たちでやるという自主ライブです。事務所が主催するもの以外は「地下ライブ」なんて呼ばれてまして、僕らの主戦場はそこになります。

 地下ライブのお客さんは多いときで30人、少ないときで5人に満たないこともザラです。本当に1人も来なくて当日中止になったこともありました(笑)。そこは自分たちの実力不足なんですが、それでもネタを作り続けていかなきゃとは思っています。

 イケメンで華もあって、ファンがついて会場を満席にできちゃう芸人も中にはいるんですが、芸人の世界ってそれだけでは出世できないんですよね。ファンからの評価はもちろん大事ですが、それ以上に同業者や関係者からの評価のほうが仕事に直結していく。はんにゃさんとかフルーツポンチさんとか、初期のオリエンタルラジオさんとか「ラッスンゴレライ」でブレイクした8・6秒バズーカーとかがわかりやすい例ですが、最初にバーッと売れたとしても結局は長続きしないんですよね。

 地下ライブで活動する芸人はお客さんと距離が近すぎるからか、よくストーカー被害とかに遭うんですよね。僕も以前、何度かそういうことがありました。ライブで僕らを気に入ってくれ、毎回足を運んでくれるとやっぱり嬉しいんです。LINEの交換とかも応じることはあるんですけど、なんかエロめの写真とか送られてきたことがありました……。毎日、行く先々で偶然を装って待っている人もいましたね。だいぶ年上の方でした。しばらくそれが続いたので、さすがに怖くなって「やめてください」と言ったらライブにも来て貰えなくなりました。売れない芸人にとって数少ないファンは貴重ですし、気軽に会いに来ていただけるのはうれしいんですが……特に女性芸人は大変そうだなって感じます。おっさんのファンが無料のキャバクラ感覚で話しかけてくるし、そっけなくしたら逆上するし。でもまあ、女性芸人にとっては避けて通れない道なんだろうなって思います。

 僕が目指しているのは、ナイツさんやU字工事さんのような、子どもからお年寄りまでしっかり笑わせられるようなネタです。先日残念ながら亡くなられてしまった志村けんさんもそうでしたが、みなさんネタがちゃんとしていて、演技や言葉の力で観る者を魅了してしまう。僕もあんな風になりたいですね。

 ただ、知らない芸人をポンと見たときに笑えるかって問題があって、やっぱりお客さんが笑うかどうかって、要は「その人を知ってるか」って部分が大事だったりします。制作側が同じタレントばかり使うのもそういう理由からなんですね。だからお笑いの世界では大体、まずは同じ事務所の先輩が出演する番組にバーター(抱き合わせ)で出演させてもらって、現場で爪痕を残して次の仕事につなげていく……というのが出世への道だったりします。逆に言えば、ネタがつまらない芸人でも強い事務所に所属していればオーディションを通ってしまったりする。フリーの僕らはそれで何度も辛酸をなめてきました。

 M‐1グランプリの予選にはずっと参加していますが、毎年1〜2回戦止まりで、なかなか上に進めないでいます。芸人をやっていればスベったりウケなかったりするのには慣れっこで、お客さんや審査員のせいにすることは絶対にしません。例えばあっちのライブではウケたけど、こっちのライブでは全然だったということもザラにあります。ちょっと小難しいネタを作ってしまうと、お客さんが考えている内に笑えないまま終わってしまったりする。それはネタを理解できなかったお客さんではなく、そういう風に考えさせてしまった自分に非があるなと思うんですよね。であれば、僕らが出てきた瞬間に笑えるようなものを作るのが芸人の仕事だと思うので、自分が悪い、もっと伝えやすい表現にしないといけないなって。そういうことを四六時中考えちゃうんですよね。

 地下ライブは参加費を払って出るケースが多いので基本的に赤字です。ギャラが出るのは事務所のライブで1本1000円〜1500円、あとは「営業」といって居酒屋さんや老人ホームなんかで漫才をやらせていただく仕事がありまして、こちらはコンビで4000円〜5000円くらい。月収としてはいいときで5万円、本当にダメなときは1万円にも満たないんじゃないですかね。

 少し前まで1年くらい交際していた恋人がいたんですが、仕事が不安定という理由で別れることになりました。彼女も芸能の仕事を志していて、タレントとしては能力に乏しいんですけど、バイトの裏方仕事ではそれなりに稼いでいたんですね。僕も営業とかに行っているのでライブだけやってる芸人とは違うんですけど、将来が見えないと思われてしまったようで……。

 彼女とはダメになってしまいましたが、結婚するとなったらば、相手のことを考えて、芸人の進退を考えてしまうのかなと思ったりもします。家族を食べさせていかなきゃならないという責任もあるわけで。売れない芸人の先輩には家庭を持っている人もいるので、そういう方を参考にして、頑張れるところまでは頑張るかなと思います。

 とはいえ、実家暮らしで家族も応援してくれているというのもあり、今のところ生活に困るようなことは正直ありません。環境としては、ありがたいことに整ってるのかなとは思いますね。その中でウッチャンナンチャンさんになりたいという願望はずっと持ち続けています。友人からは「辞めどきも大事」なんて言われることがあるし、営業の仕事が入らないと落ち込んだりもしますが、僕らがときどき出演させてもらっている寄席には、80歳を超えても舞台に立ち、笑いも取っている師匠たちがたくさんいるんですよ。それはそれですごくかっこいいなと思うんです。続けることの大事さみたいな。ずーっと続けてやることも大事だなと気づかされるので、立たせていただける舞台がある以上はやっていきたいなと。それに、カズレーザーさんとかナイツ塙さんとか、すごい人たちを間近で見られて、直接話を聞けるというのは芸人ならではの特権ですよ。

(※本稿の初出は『yomyom vol.63』(新潮社)です)

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