性交痛のつらさ、男性パートナーに知っておいてほしいこと

文=日々晴雨
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 7月26日に性交時の痛みの不安解消に特化したWEBメディア「FuanFree/ふあんふりー」を開設した、うるおいヘルスケア株式会社代表の小林ひろみさん。自身も30年間性交時の痛みで悩んできた当事者だ。前編では性交痛とはどんなものか、なぜ「FuanFree/ふあんふりー」を立ち上げようと考えたのかを聞いた。

 性交痛と一口でいっても、更年期を迎えて痛みを感じるようになった人もいれば、初体験からずっと痛い人もいる。最初から痛い人の中でも、身体的な構造が理由のケースもあれば、こころの問題で痛みを感じる人もいて、相手のやり方や相性に問題がある場合もある。また、産後や婦人科系の手術の後から性交痛に悩まされているという人も。とにかく千差万別だ。

性行為が痛くてつらい。性交痛で悩むのは恥ずかしいことじゃない

性交痛当事者だから、わかることがある。 セイコウツウ――この言葉を聞いて脳内ですぐに漢字に変換できる人は、そう多くないかもしれない。セイコウツウは、…

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性交痛のつらさ、男性パートナーに知っておいてほしいことの画像3 ウェジー 2020.09.05

 そこで小林さんに、性交痛の実態と「そもそも性行為ってどういうもの?」という話を聞いていきたい。

「女医なら誰でも」「人目につかない婦人科へ」病院選びの基準がおかしい

――現在「FuanFree/ふあんふりー」には、<痛みのカテゴリー><ソリューション 治療・回避・工夫>のほかに、体位やカウンセリングのスペシャリストによるコラムや、<痛みの事例>として実際に性交痛で悩んだ人の体験談が書かれた記事などがアップされています。このカテゴリー分類は、どのようにして考えられたんでしょう。

小林「潤滑ゼリーを販売するようになり、女性の身体について学ぶ日々が続きました。そのうちに、周りに<性>や<女性の身体>について真剣に考え、情報を発信する友人・知人ができてきたんです。その発信を見たり聞いたりしているうちに『これってセックスを楽しむ人だけの情報にしておくのは、もったいないんじゃないかな』と思うようになりました。

 たとえば、体位やラブグッズなどは、主にセックスを楽しむ人に向けて発信されていたんですが、よく考えたら性交痛を抱える人こそこうした情報を活用すれば、悩みの解消につながることもあるはずだ、と」

――そうやって学びながら得た情報と、当事者であるご自身の体験が積み重り、性交痛に特化したサイトをオープンすることに進んでいったというわけなんですね。そういえば、ソリューションのカテゴリーの中の<病院の探し方>の項目、あれはたしかに「なるほど!」と目からうろこが落ちる思いでした。

小林「性交痛でどの病院に行けばいいのか、わからない人は多いし、実際私もそうだったんですね。とにかく体を診てもらおう……と、最初に選んだのは産婦人科でした。でもよくよく考えたら産婦人科のお医者さんは妊娠には詳しくても、性交痛については詳しくない人も多いんです。医師には専門があるので、当たり前のことなんですが、当時の私はそんなことさえもわからなかった。きっといま同じ思いをしている人も多いはずだから、そういうこともちゃんと知ってもらいたいなと思ったんです」

――婦人科へ行くことにすごく抵抗を感じる女性は多いですしね。私の周囲にも「婦人科は絶対に女医さんじゃないといやだ」と言い張る人はたくさんいます。専門とか関係なく、女医さんであればそれでいい、と。

小林「人目につかないように、あえて駅から遠く離れた不便な病院に行く。友人知人に会わないように、学校や職場から遠いところを選ぶ。もしくは、お産でお世話になったから、性交痛でも引き続き同じ先生でいいかな、と。婦人科に関してはなぜかそういう目線で選びがちですよね」

――でも医師選びの基準がそれでいいのか? ということですね。性交痛に悩んでいるのなら、それに詳しい病院を選ぶべきであると。

小林「そうです。性交痛に特化したサイトを立ち上げたいと考えたときに、『ああいう失敗もしたな』『こういう失敗もしたな』と、自分自身の過去の失敗を振り返ってみました。病院選びだけでなく、いろんな迷いや失敗を繰り返していたことを思い出し、それをまとめていったんです。

 同時に、学んで得た情報の中から、性交痛に有益なものをまとめるようにしました。『自分が悩んでいたときに、これを知りたかったな』という私の思いが、サイト作りに生かされています」

――「FuanFree/ふあんふりー」の編集に関わっている私が、こういうこと言うのもなんなのですが……。「FuanFree/ふあんふりー」は、かゆいところに手が届くサイトというか、読んでいくうちに性交痛に悩む人の不安が少しずつ消えていくようなサイトだなと思うんですよ。まさにサイト名通りで、ここを訪れることで不安から解き放たれる人も多いんじゃないかと。

小林「目指しているのはそういうところです。もちろんこのサイトに来てもらっただけで、痛みが消えてなくなるわけではありません。いろいろな情報を読んだうえで、まず自分の症状はどういうものなのかを、当てはめてみる。そこから病院なり、カウンセリングなり、パートナーと話し合うなりのアクションが必要です。でもサイトを先に読んで知識を持っていれば、前に進む勇気も出るのではないかと」

男性パートナーに知っておいてほしいこと

――<男性パートナーの皆さんへ>という項目がありますね。

小林「そうなんです! あれはぜひ男女揃って読んでいただきたい項目です。というのも、セックスにおける挿入タイミングのメカニズムを説明しているので、性交痛があるなしに関わらず、とくに男性の皆様には知っておいていただきたい情報です」

――詳しくはサイトで読んでいただきたいのですが、一部を抜粋しますね。

<セックスの時の人間の興奮やそれに伴う身体の反応は、興奮期→高原期→オーガズム期→消退期という4段階に分かれています。挿入に適しているのは高原期。セックスを開始して心身が高ぶり始めてすぐの段階(興奮期)ではまだ身体が挿入を受け入れる準備ができておらず、痛みを感じやすいものです>

――互いに愛撫しあって、それぞれが濡れたり屹立したりすればすぐに挿入して大丈夫かというと、そんなことはないということなんですね。ある程度の時間や手間をかけなければ、痛みにつながる可能性があると。これ、男女問わずほとんどの人が知らないと思われるので、これからは性教育で教えてほしいくらいです。せめて知識として知っておいたほうがいいですよね。

小林「女性は性的な興奮を何度も繰り返して、ようやく肉体的に男性器を受け入れる準備ができます。興奮を複数回繰り返さないと高原期に入らないからです。興奮を繰り返すことで骨盤内が充血し、いわゆる“濡れる”成分が分泌されるようになるんですね」

――肉体への雑な扱いを許容しないで、当たり前とされている性行為をアップデートする必要がありますね。

小林「必ずしも挿入したりオーガズムを感じたりしなければいけない、というものでもないですよね。AVだけではなく、ドラマや映画のラブシーンを観て『セックスとはこういうもの』『この通りにしなきゃいけないもの』と思い込んでいる人があまりに多いと思うんです。

 妊娠を望む場合は別ですが、それ以外ならなにも挿入・射精にこだわらなくってもいいはず。男性もいろんな事情で勃起や挿入、射精ができないとなると、がっくり落ち込みます。女性もそうで、痛くて挿入を受け入れられないと『私、女失格なんだ』と悲嘆にくれてしまう。でも、もっと自由なやり方をそれぞれ模索していいと思います」

挿入して射精することが「正しい性行為」なんて決まりはない

――100人いれば、100通りの性の楽しみ方があっていいというわけですよね。

小林「そうです。カップルが互いに協力して自分たちなりの心地よさ、気持ちよさを追求していくことが大切です。『挿入が痛いから何もできない』『触られるのも怖い』となってしまうことってあると思うのですが、発想を転換して楽しめることをどんどん探していけばいいと思うんですね。そのためにラブグッズを使ってもいいですし、工夫次第で充分楽しい性生活にきっとなりますよ」

――男女のカップルが多いので男と女の話になってしまいがちですが、男性同士、女性同士もそうですよね。

小林「はい、男女問わず、性交時の痛みを幅広く想定して取材を進めていくつもりです。『FuanFree/ふあんふりー』はジェンダーフリーなメディアを目指しているので、メインキャラクターの“ふりー”ちゃんも、男の子か女の子かはっきりとわからない造形を意識しました」

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“ふりー”ちゃん

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こんなポージングも可愛い

――男女問わず、性交痛に関して欲しい情報にたどり着けずに困っていた人たちが、検索などから「FuanFree/ふあんふりー」にたどり着いて、自分にとって役立つ情報を得られればいいですよね。

小林「性交痛を抱えている人口はそう多くはないかもしれませんが、痛みに苦しみ悩んでいるという人は存在しています。痛みに自分ひとりで耐えなくていい、ちゃんと人に伝えていいし、解決しようとしていい。その思いが伝わるように、今後もいろんな企業とコラボしたり、インフルエンサーの方と連携して、ふあんふりーを広めるために活動していくつもりです」

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