HSCは5人に1人。コロナ禍でひっそり苦しむ、生まれつき繊細な子どもたち

文=玉居子泰子
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GettyImagesより

 新型コロナウイルスの影響で、夏休みが短縮された小中高も多かった2020年。感染拡大だけでなく猛暑を避け、旅行や外出を控えた家族もあっただろう。9月に入り、ほとんどの学校が二学期を再開している。

 「新しい日常」に慣れようとするのは子どもたちも同じだ。マスクを身につけ、ソーシャルディスタンスを取りながら、運動会や遠足なども縮小あるいは中止された“いつもとは違う“学校生活を受け入れようとしている。

 だが、変化に適応するのに時間がかかり、強い刺激に人より不安を強く感じる子もいる。HSC=Highly Sensitive Child(ハイリー・センシティブ・チャイルド=ひといちばい敏感な子)と呼ばれる子たちがそうだ。新型コロナウィルスによる状況下で、人知れず苦しみ、調子を崩している。

 敏感で繊細な子どもたちに、大人はどう接していけばいいのか。日本にHSCの概念を伝えた精神科医の明橋大二先生に話を聞いた。

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明橋大二(あけはし・だいじ)
心療内科医、専門は精神病理学、児童思春期精神医療。京都大学医学部を卒業し、現在、真生会富山病院心療内科部長。長年スクールカウンセラーとしても務める。著書に『子育てハッピーアドバイス」シリーズなど多数。近日刊行予定の訳書は『ひといちばい敏感なあなたが人を愛するときーHSP気質と恋愛』(エレイン・ N・アーロン著/青春出版社/2020年9月19日発売予定)

5人に1人がHSC。生まれつきの繊細さゆえに疲れてしまう

 HSCは、もともとアメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン氏が定義づけたHSP(Highly Sensitive Person=ひといちばい敏感な人)という概念から来ている。

 病気や発達障害ではなく、生まれつき音や光、匂いなどに敏感であったり、人の気持ちや環境の変化にいち早く気づく。ひといちばい感受性が強いがために、疲れやすく傷つきやすい一面も持っている。

 明橋先生は長年心療内科医やスクールカウンセラーとしての子どもたちに向き合う中で、HSCという定義を知る前から、生まれつき敏感な子どもたちが一定数いるということに気がついていたという。

「人からみれば些細なことで傷ついたり、人の気持ちを気遣うあまり、気苦労で疲れやすかったりする。そのため親が育てにくさを感じたり、本人が幼稚園や学校に行き渋ることが出てくるんです。

 HSCは親の育て方や脳の異常などではなく、生まれ持った性質です。敏感であることは決して悪いことではない。ただ、世の中の本質を理解して、いろんなことに気がつく優しい子であるがゆえに、疲れて心身にSOSが出る子がいるということです。

 私のところに相談に来る子の半分以上はHSCですし、実際小学校のクラスでも5人に1人はHSCと言われています。何に敏感さが出るかは人それぞれですが、特に日頃からばい菌やウイルスが苦手というHSCの子達の中には、コロナ禍で人よりも不安を強く感じて、体調を崩してしまっている子は確かにいます」

HSCに無理は禁物。体調不良は休めのサイン

 未知のウィルスによる感染者拡大、繰り返し死者数を伝えるニュース、物がなくなるスーパーマーケット、急な休校や分散登校など、大人でも不安になるほどの強い刺激に、こうした繊細さを持つ子が参るのは無理もないことに思える。

「特に、コロナが日本で感染拡大した3月〜4月などは、大人がパニックになっていましたよね。身近な大人が不安そうだと、その気持ちに同調してHSCの子が不調になるのは当然です。

 特に、志村けんさんなど有名人が亡くなられたことで、何度も同じニュースが流れました。一度知ればいいことを何度も見聞きさせられることで、まるで100人の方が一気に亡くなってしまったかのような気持ちになる。そうなると、自分の祖父母や親も亡くなるかもしれないと思ってつらくなるんです。中には『コロナ』という言葉を聞くのも怖いという子もいました」

 実は筆者の小学生の娘も、とても繊細で、この数カ月ニュースを見れば怖がり、外に出かけることや学校に通うことにも不安を募らせ、最近は頭痛や腹痛を訴えるようになった。「気をつけていれば大丈夫だよ」と伝えても、なかなかその不安を取り除いてあげることができないでいる。

「『大丈夫』と言われても、感染者数は増えていて、そもそも学校は始まっている。そうした矛盾をHSCの子たちは敏感に察知しています。本来、理解力は高い子たちなので、ただ闇雲に『大丈夫』というのではなく、大人が言葉を尽くして状況を説明することが大切。子どもの重症者や死者数は極めて少ないこと、マスクなどの感染予防に一定の効果が出ていることを、エビデンスに基づいて説明すれば、ある程度納得して恐怖心は薄れるはずです」

 ただ、それでも心配が消えず体調不良になっている場合、無理に行動させるのは禁物だと明橋先生は言う。新学期に登校するのがつらそうなら、しばらく家で休ませる方が子どもにとって良いこともある。

「不安や緊張で気疲れしていて元気がない場合は、休んで本当に安心すれば、体調も良くなり、自分から外へ行きたいと思うようになります。何事も、本人がいいと思う時期を待って、無理強いさせないというのがHSCの子育ての基本ですね」

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