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8月28日に、安倍首相が健康問題により辞任を表明しました。安倍政権は「すべての女性が輝く社会づくり」を掲げていた政権です。数ある政策分野の中でもジェンダーを大きな課題として、解決しようとしていました。実際に、経団連に女性役員の要望を出したり、女性活躍推進法を定めて一定以上の規模の会社に対して女性の雇用に関する情報を公開させたりするなど、ジェンダー問題解決のために数々の施策も打ち出しました。
また、対外的にも、去年の国連総会で途上国の女子教育問題に取り組むことを安倍首相は表明しました。大半の途上国で、既に小学校に通う子供の男女比率はイーブンのところまで来ており、途上国の教育問題に携わる同業者の中でもこの表明に対して「いまさら女子教育?」と疑問の声が上がりました。
しかし、男女比率がイーブンになったのは「女子が学校に行くことを条件に現金を与える」といった、根本的な問題に取り組まない小手先の施策に拠るところが大きかったので、案の定、新型コロナを機に女子の妊娠が増えるなどの要因により、学校再開後に女子を中心に退学者が続出することが予想される、筆者からすれば「そらみたことか」という状況に陥っています。このことから、私は安倍首相の意思表明は正しいものだったと評価しています。
このように、国内的にも、対外的にも女性が輝く社会づくりを7年8カ月の長期にわたって推進してきた安倍政権ですが、この推進は日本が抱えるジェンダー問題解決にちゃんと結びついたのでしょうか?これまでwezzyで繰り返し述べてきたように、日本は女子教育の問題とジェンダー問題が鶏と卵の関係になっており、女子教育の問題が解決に向かっていなかったのであればジェンダー問題が解決の方向には向かっていなかった可能性が高いですし、女子教育の問題が解決されない限りジェンダー問題も解決されません。
日本は他の先進国と比べたとき、大学・大学院での女子学生比率が低い、理系での女子学生比率が低い、トップスクールでの女子学生比率が低い、という三重苦の女子教育問題を抱えています。7年8カ月という長期政権となったため、第二次安倍政権が樹立したときに中学生だった女子は既に大学生に、高校生だった女子は大学院生へと到達する年齢となっています。今回は、2012年と2020年のデータを比較することで、安倍政権の女子教育、ひいてはジェンダー問題への取り組みがどうだったのか検証してみましょう。
安倍政権は大学・大学院の女子学生比率の問題を解決できたのか?
さっそく大学・大学院の在籍データを見ていきましょう。
第二次安倍政権が樹立したのは平成24年です。文部科学省の学校基本調査を見ると、この年の大学・大学院における女子学生比率はそれぞれ、43.0%と30.6%でした。そして、令和二年のこの値はそれぞれ、44.4%と32.6%となっています。7年8カ月の年月をかけて、それぞれ1.4%ポイント、2%ポイント向上させられました。
この歩みがどの程度なのかを考えるために、世界銀行のWorld Development Indicatorsを見てみましょう。大学・修士課程における女子学生比率のOECD諸国の平均は2012年の時点で既に50%を上回り、博士課程においてすら2019年には女子学生比率が47.8%にまで到達しています。
また、OECD諸国の高等教育における女子教育の問題と言えば、日韓が常に熾烈な最下位争いを繰り広げてきましたが、韓国は修士課程における女子学生比率は50%を超え、博士課程でも39.4%と、高度な知識・技能を持つ女性の輩出という点では日本のはるか先に行ってしまいました。これからますます経済構造が高度化していくことを考えれば、この7年8カ月の歩みをもって大学・大学院の女子学生比率の問題を解決できたとは言えません。