カラーインクが流行っているのをご存知ですか。特に万年筆で使うタイプの瓶インクはその種類を加速度的に増やしており、ファンの間では「インク沼」と称して一度はまったら抜け出せない趣味として持て囃されています。
万年筆用インクのよさは、その種類の豊富さと発色の良さにあります。あくまで事務用品だった時代の万年筆インクは黒、青、ブルーブラックといった「書かれた文字が見やすい」ことが重視されていました。しかし万年筆が筆記具の主流ではなくなり、また手書きの書類が会社などで重要視されなくなった昨今、インクにも趣味性が強いものが続々と登場しています。
よりカラフルに、よりかわいく、より個性的に──インクは書かれる方の個性に繋がり、また現在ではメーカーの個性を超えてご当地インクなどの地方や販売店の個性にもつながっています。
ただ、インクに興味があり、様々なインクを使ってみたいと切望しても、そこには壁がありました。
インクを瓶で買うと高い、という現実です。
日常どれだけ万年筆で文字を書いても、販売されているインク瓶の中味を消費するのは至難の業です。そしてそれが数個、数十個になれば、いよいよ金額もかさみますし、場所も取ります。そもそも使われないインクがたくさん出てきたら、もったいないですよね。
瓶でインクを買う前に、お試しすることはできないのか。
店頭で試筆ができるインクもないわけではありません。でも、店頭で「これはいい色だ!」と思って買ってきても、いざ愛用の万年筆に入れてみたら自分のノートや手帳、さらには今の自分の気分には合わない──そんな理由で二度とコンバータで吸われることのない存在になってしまう。そういうインクもあると思います。
せめてコンバータ一回分あれば、使ってみて、この色を常用するかどうかが判断できるのに──そう思う方も多いのではないかと想像します。
かく言うわたしもその例のひとりです。結果として使われず、棚にしまわれてしまったインク瓶があります。けっこうあります。
そういうもったいない層に、画期的な製品が登場しました。それがセーラー万年筆の「四季織インクカートリッジ」です。
セーラー万年筆は特に多くのインクバリエーションを持つ万年筆メーカーで、インクブレンダー石丸治氏によるオリジナルインク作成はファンも多いイベントです(2020年現在イベントは自粛中)。定番で販売するインク製品群も群を抜く種類の多さで、中でも「四季織」ブランド20色は同社の主力製品です。
20ミリリットルの瓶インクが1本1,000円(税抜)、これをえいや! と買う前に、その色目をカートリッジで試すことができるようになったのです。
カートリッジは瓶インクと同じ色、同じ20色のラインアップで、3本入り350円(税抜)です。綺麗でかわいい紙ケースの中にさらにプラケースが入っており、そのまま持ち運びが可能です。
カートリッジは、その表面に色種がローマ字で印刷されています。これで取り出した後、色が判らなくなってしまうことも防げますよね。
このカートリッジでまずは色を試し、気に入ったら瓶インクを買う──そういう理想的な運用がこれで可能になりました。
また、そもそもカートリッジで万年筆を使っていたセーラーファンに取っても、このケースは画期的な存在です。予備のカートリッジを持ちあるく、というのは想像以上に難しいものです。ペンケースに裸で入れておくと底に回って存在が見えなくなりますし、ペンを差し込むようなペンケースではそもそも入れようがなかったり。このケースが登場したことにより、ペンケースに消しゴムを入れるスペースさえあれば、カートリッジを3本持ち運ぶことができます。
実用だけでなく、紙ケースの可愛らしさも特筆すべき点です。豆本のように並べて置くと、瓶インクとは異なるコレクター魂を揺さぶられます。20色セットも限定ながら用意されていますので、紙ケースの美しさを堪能したい方はそちらもどうぞ。
万年筆のインクは大別すると「カートリッジによる供給」と「コンバータによる瓶インクからの吸い上げ」に分けられます。カートリッジの使えないもの、コンバータの用意のないものもありますが、ここでは紙幅の関係で割愛させていただきます。
カートリッジ式は予備を持ち歩くことでインク切れに対応できますが、残念ながらメーカーは専用カートリッジを用意していることが多く、特に国内3社──セーラー、プラチナ、パイロットはすべて形状が異なります。
ですので、今回ご紹介した四季織カートリッジも、セーラー万年筆の万年筆専用となります。他社の万年筆には装着できません。またセーラー万年筆の製品でも、一部特殊構造のものには装着ができません。
四季織カートリッジはセーラー万年筆のファンのための新製品でしょう。でも、このカートリッジを使いたいからセーラーの万年筆を買う、という方を実際に目にしていますので、セーラー万年筆のファンを増やすことにも貢献しているようです。
万年筆は決して敷居の高い筆記具ではありません。筆圧いらず、インクの色はよりどりみどり。カートリッジ式ならインクの補充で手を汚すこともありません。インクに興味はあるけど瓶インクをたくさん買うことは出来ないと躊躇されていたあなたに、まずは四季織カートリッジとセーラー万年筆の組み合わせをお勧め致します。
(他故壁氏)