コロナの影響で「離婚が減った」は本当か カギを握る雇用情勢

文=加谷珪一
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 新型コロナウイルスの世界的な蔓延による影響で離婚が増えることが危惧されたが、日本における今年前半の離婚件数は前年同期比で大幅に減少した。一方、東京圏から他の地域に転居する人が増加し、今の統計がスタートした2013年以来、東京は初めての転出超過となっている。

 一見すると、コロナ離婚は発生しておらず、東京から地方への分散が始まっていると解釈できるが、本当にそうだろうか。現時点での動きはあくまで短期的なものなので注意が必要だ。

コロナで離婚は大幅に減ったが…

 厚生労働省の人口動態統計速報によると、2020年1〜6月の間に離婚した夫婦は10万122組となり、前年同期比で9.8%という大幅な減少となった。1〜6月は新型コロナウイルスによる影響が本格化した時期だが、明確に離婚の数が減ったことが分かる。

 コロナ危機では多くの企業がリモートワークにシフトし、家族が共に家にいる時間が増えた。経済的に厳しい環境に置かれた人も多く、生活環境の変化から離婚が増えるのではないかとの指摘があったが、実際はまったく逆であった。

 しかしながら、この結果をもって離婚が減ったと考えるのは早計だろう。その理由は、ライフスタイルの変化というのは短期的なものと長期的なものの2種類が存在するからである。

 一部の夫婦は何かのトラブルをきっかけにスピード離婚するだろうが、たいていの夫婦は離婚を決断してから実際に離婚するまでに1年程度の時間をかけている。いざ離婚となると、財産の分与や養育費の問題、場合によっては慰謝料など法的な手続きが必要となり、すぐに話がまとまるとは限らない。裁判という形になればなおさらである。

 1〜6月までの間に離婚が減ったのは、これまで離婚の準備を進めていたものの、コロナ危機で多くの手続きがストップし、離婚をしたくてもできなくなったことが大きく影響している。もちろん、その間に夫婦で話し会う機会が増え、結果的に離婚を回避できたケースも含まれるだろう。だが、件数が大幅に減ったのは、あくまでも手続き上の理由である可能性が高い。

 離婚を決めてから1年程度の時間が必要ということになると、いわゆるコロナ離婚はこれから本格化する可能性も否定できないが、カギを握るのはやはり雇用情勢だろう。身も蓋もない話だが、離婚とお金を切り離して考えることはできない。経済的に苦しくなったことが離婚のきっかけになるケースは多いし、共働きではない夫婦の場合、次の仕事が見つからないと離婚を進められないこともある。

コロナをきっかけにした緩やかな人員整理

 日本は良くも悪くも雇用の流動性が低いので、今のところ失業者が急増している状況ではないが、ジワジワと仕事を失う人が増えている。2020年3月の失業率は2.5%だったが、6月には2.8%に上昇し、現在197万人が仕事をなくしている。加えて、約220万人が休業状態にあり、この一部は失業につながる可能性がある。

 これからの日本で懸念されるのは、米国で発生しているような大量失業ではなく、コロナをきっかけに徐々に人員整理が進むことである。日本では会社に所属していながら実質的に仕事がないという、いわゆる社内失業者が400万人も存在しており、これが企業の人件費負担を重くしている。

 政府は年金財政の悪化から70歳までの雇用を求めており、人件費総額の増大は不可避となっている。経団連が日本型雇用との決別を打ち出すなど、企業はコロナをきっかけとして、人員整理を加速させる可能性が高い。結果として各企業で希望退職が増え、じわじわと雇用が脅かされていくことになる。

 この動きはゆっくりとしたものだが、長期にわたって継続する可能性が高く、当然のことながら、離婚の件数にも影響を与えるだろう。場合によっては長期的に離婚が増える可能性は十分にある。

 短期的な変化と長期的な変化の違いという点では、人の移動についても同じことが言える。

 総務省が発表した7月の人口移動報告によると、東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)から他の道府県への転出は、転入を上回っており、人口流出に当たる「転出超過」となった。転出超過は、今の統計がスタートした2013年7月以来、初めてのことである。

 東京が転出超過となったことについてはリモートワークによる影響を指摘する声が多い。オフィスに出社する必要がなければ、都心に近い所に住む必要がなくなる。実際、SNSではリモートワークをきっかけに郊外や田舎に転居した、あるいは転居したいという話がたくさん飛び交っている。

コロナで仕事がなくなり実家に避難した?

 だが、直近の人口動態がリモートワークを反映させたものなのか現時点では何ともいえない。その理由は、コロナ危機によって外食産業を中心に休業を余儀なくされた人が多数、存在しており、一部は企業から給料が支払われていないからである。

 労働法制上、企業は従業員を休業させた場合でも一定割合の賃金を支払う必要があるが、零細企業の場合、こうした措置が実施できなかったケースは多いと考えられる。非正規社員の中には、いきなり雇い止めとなり、保証がないまま待機を命じられた人もいるはずだ。

 地方から上京し、1人暮らしをしている場合、こうした状況に陥ってしまうと、その月の家賃や食費にも事欠いてしまう。一部の人は緊急避難的に家を引き払い、実家に帰ったと考えられ、これが転出を増やした可能性がある。

 確かに一部のビジネスパーソンはリモートワークをきっかけに郊外に転居したかもしれないが、長期的に見た場合、本格的に地方や郊外への移住が進むとは限らない。実際、外出自粛が解除され、経済活動が本格的に再開した6月以降、都心回帰の動きが顕著になっている。

 当初、コロナ危機によって首都圏のマンション販売は壊滅状態になると予想されたが、現実は逆であった。6月以降、首都圏のマンション販売は急激に回復しており、価格も大幅に上昇しているほか、都心からほど近いエリアの狭小戸建住宅も飛ぶように売れている。

 今後の長期的な景気低迷を意識し、住宅ローンが組める今のうちに住宅を確保しておこうという消費者が増えていると考えられるが、彼等はなぜ郊外ではなく、都心や都心近くの住宅を買うのだろうか。それは将来の雇用情勢をリアルに見据えているからである。

高齢になってから現場仕事に従事する可能性もある

 先ほど、今後、雇用はさらに厳しくなるという話をしたが、年金財政も悪化している今、一般的なサラリーマンで定年後にリタイアできるのは、公務員や超優良企業の社員などごくわずかな人たちだけである。ほとんどの人が、定年後も再雇用という形で同じ会社で仕事を続けるか、別な会社で仕事を見つけない限り、老後の生活を維持できない。

 そうなってくると、再雇用後に同じ職場環境や雇用条件が維持される保障はまったくない。引き続きテレワークができればよいが、場合によってはグループ内にある派遣会社に異動となり、現場仕事を余儀なくされる可能性も十分にある。転職であれば、それこそ職場はどこになるか分からない。

 また、夫婦のどちらかが正社員、片方が派遣社員という世帯も多いが、夫婦のどちらかがテレワークではない場合、遠くに転居するという選択肢自体があり得ない。コロナをきっかけに田舎暮らしにシフトできるのは、高齢になってもテレワークで十分な稼ぎを得られる高スキルな人たちに限られるだろう。

 都心から離れた場所に家を買ってしまうと、将来、移動を余儀なくされた場合の負担が大きくなる。こうした状況から一部の世帯は、テレワークが増えているにもかかわらず、利便性の高い場所で家を探しているのだ。

 加えて言うと、リモートワークの進展で今後、オフィス需要は確実に減るので、多くの小規模ビルが廃業となる可能性が高い。その跡地にはかなりの確率でマンションが建設されるので、今後、都心部のマンション供給は増える。短期的には転出超過でも、近い将来、東京(あるいは都市部)への転入が急増する可能性も否定できない。

 こうした変化は数年単位にならないと分からないものである。現時点で判断するのは危険なので、転居を考えている人は少し様子を見た方がよいだろう。

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