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2020年7月1日より、レジ袋の有料化が始まった。小売店で商品を買うと、ほとんどの場合「レジ袋は要りますか?」と店員さんに聞かれる。これも一つの“新しい日常”だ。しかし、一体なぜレジ袋が有料になったのか?
この取り組みの旗振りは経済産業省。プラスチック製のレジ袋の有料化で、マイバッグの持参などを促して消費者の環境への意識を高めるとことが目的になっている。
名目としては、海洋プラスチックゴミの問題や地球温暖化などの環境問題解決に向けた第一歩であること。だがあくまでも「意識を高める」ことが目的であり、小泉進次郎環境相も「大して(プラスチックゴミの)削減には繋がらない」と発言してSNSで話題になった。
実際のところ最近は、5mm以下のマイクロプラスチックによる海洋汚染もしばしばニュースになっており、海ゴミへの関心も高まっている。2015年国連本部にて採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では「つくる責任つかう責任」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」が掲げられており、ゴミの削減に力を入れることが約束された。昨年大阪で開催されたG20サミットでも首脳宣言にて「2050年までに海洋プラスチックゴミによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す」という目標を掲げている。
しかし海洋汚染を食い止めるなら、レジ袋削減よりも工場排水や産業ゴミを減らすことや、リサイクルの徹底を各国で努力する方が確実ではないのだろうか。レジ袋の有料化に、どれだけの意味があるのだろう?
こうした疑問について、東京大学教授で海洋プラスチックゴミ問題の研究や対策に取り組んでいる道田豊氏に話を伺った。

道田豊(みちだ・ゆたか)
東京大学教授。東京大学大気海洋研究所国際連携研究センター長。専門は海洋物理学。日本ユネスコ国内委員会政府間海洋学委員会(IOC)分科会主査(2018-)。
適切に処理しなければ、ゴミは海にたどり着く
――そもそも、海に直接ゴミを捨てたことなどないという消費者が大半だと思います。「海ゴミ」は、どこからくるのでしょうか。
【道田】身近な例で言えば、街中に落ちているゴミは、川を経由して海に流れ出て行きます。たとえば、たばこのフィルターはプラスチックです。吸い殻をポイ捨てすると、雨や風に流され側溝に入ります。それは下水に行き、川に流れ出て海にたどり着く。こうしたことは、もう少し周知したほうがいいような気はします。
――道端のゴミも放置し、適切に処理しなければ、やがて海へたどり着いてしまうのですね。
【道田】海のゴミの一番問題は、出てしまうと回収ができないことです。陸上のゴミ回収も手間がかかりますが、やろうと思えばできます。が、外洋に出たゴミを集めに行くとなると、船がそこに行くだけで数週間はかかるでしょう。そこを往復するのにどれだけ石油を使うのかという問題もあります。ですから海の中に出てしまったものは事実上回収できず、増える一方になる。これが一番問題です。
我々はそういう状況に手をこまねいているのではなく、積極的にゴミの全体量を減らすーーリデュース、リユース、リサイクルーーいわゆる3Rを進める必要があります。
――しかしレジ袋を有料にすることは、ゴミの全体量を減らすにあたってどんな効果があるのでしょうか。
【道田】全体のプラスチックゴミの中でレジ袋が占める割合は、実は大した量ではないんです。しかしレジ袋は使い捨てプラスチック製品の代表的な物で、かつ断片化しやすい。日本の街は綺麗なほうですが、レジ袋が風に舞ってヒラヒラしている光景をよく見かけると思います。プラスチックゴミ削減という全体目標の中で、最初のターゲットがレジ袋でいいのかという議論はありますが、まずはできるところからやろうという趣旨でしょう。
プラスチックはどんどん細かくなり、回収不可能になる
――海岸でゴミ拾いをしたことがあります。目についたのは漁業の網やブイ、そしてペットボトルのキャップがどんどん細かくなって小さくなっていることでした。砂と同じような大きさで、到底拾いきれないものがたくさんありました。
【道田】環境中に出たプラスチックは、基本的には小さくなる一方です。いったん小さくなったものがまた集まって大きくなったりはしません。
例えばずっと使っている洗濯バサミがボロボロになりますよね。プラスチックは紫外線や熱、そして海だと波によって岩に当たって壊れることもある。そうやってどんどん細かくなり、マイクロプラスチックになっていきます。
マイクロプラスチックについてはまだ研究途中ですが、問題の一つに、魚がそれを食べてしまうことがあります。プランクトンと一緒に口に入ってしまう。それが悪さをしなければいいですが、まだよくわかっていません。
――生態系にも影響を及ぼす可能性はあるのですよね。
【道田】北太平洋のミッドウェー島は人間がほとんど入らないところなので、アホウドリの営巣地になっています。そこに日本のライターや、漁業用の小さい浮きなどがたくさん流れ着いているのですが、ひなのお腹の中にたくさんのプラスチック片があるという報告がありました。それが要因で死んだのではないかと疑われる個体も見つかっています。ですので、マイクロプラスチックの影響はもう出ていると言っていいでしょう。
人間の体に影響が出ているかはまだ、わからないです。すでに影響があるということを強く主張される研究者もいますが、もうちょっと慎重に議論しましょうという意見も有力です。ただ、影響する可能性があることは誰も否定していません。
――海ゴミがマイクロプラスチックほど細かくなってしまうと、どの程度それが広がっているのかを把握するのも困難そうです。
【道田】海洋ゴミの実態把握は私の専門である海洋物理学が役に立つと思っています。実は、小さくなったプラスチックがどこに行っているか、詳しくわかっていません。大きなものが細かくなっていくのですから、小さいものほど数が多くないといけないのですが、必ずしもそのようになってはいません。
理由としては、小さすぎて測りきれていないのか、もしくは我々がプラスチックを使い始めて数十年ぐらいなので、まだ小さくなりきっていないのか。
最も有力なのは、小さいプラスチックは海底に沈むスピードが速いのではないかという可能性です。そのメカニズムは我々の物理の出番なので、マイクロプラスチックの行方の解明をしないといけない。私の研究分野としても、課題として取り組んでいます。
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