『ハリー・ポッター』のJ.K.ローリングはなぜ炎上しているのか?

文=遠藤まめた
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 『ハリー・ポッター』シリーズの生みの親として知られるJ.K.ローリングがまた批判を浴びている。彼女がロバート・ガルブレイスの名義で書いている犯罪小説『私立探偵コーモラン・ストライク』シリーズ第5弾となる新作で女装した男性をシリアルキラー役に設定していることが背景にある。

  ローリングはこれまで、トランスジェンダーは女装した男性の犯罪者と見分けがつかないので、トランスの権利を認めることが女性に対する脅威になると主張してきた。今年6月には、生理のあるトランスジェンダー男性やノンバイナリーの人たちのアイデンティティを嘲笑うような発言をして批判も浴びた。

 しかし批判されてムキになっているのか、既存のジェンダー観を揺らがす人々に対する彼女のネガティブな言動は止まらない。このシリーズの第2弾でも、トランス女性が主人公を殺そうとするシーンがある。また、彼女のロバート・ガルブレイスというペンネームは奇しくも20世紀後半に同性愛者を電気ショックや薬物投与で異性愛者に矯正しようとした人物と同じ名前であることも波紋を呼びつつある。

 トランスジェンダーや「女装した男性」が作品の中で猟奇的な殺人者として描かれたり、物語のスパイスとして死んだりすることが多いことは、今年公開されたドキュメンタリー映画『Disclosureトランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』の中でよく描かれている〔Netflixでも観られるので、ぜひこの機会に多くの方に観てほしい)。この社会で暮らしている圧倒的多数の人にはトランスジェンダーの友人がいないので、よくわからない存在であるトランスジェンダーのことは創作物を通して認識する。だが、創作物の大半はトランスジェンダーではない人がトランスジェンダー ではない役者たちと作ったもので、人々の偏見や誤解をむしろ強化する方向へ作用してきた。

 『Disclosure』の中では、過去の名作とされてきた作品を含めて、トランスジェンダーについてどんな描写があったのかが丁寧に検証されていく。ある女性が実はトランスジェンダーであったことが分かると、彼女はパンツを脱がされ、ペニスを露出され、その場にいる人々は嘔吐する。「騙された」と人々は怒り、彼女は殴られる。出生時に男性だった人物が女性の装いをするのは犯罪が目的だったり、犯罪者としての異常性を盛り立てるためのスパイスだったりもする。トランスジェンダーの男性は、やっぱり裸に剥かれたりレイプされて殺されたりする。それが実話に基づく話だったとしても「他の物語」がないことは当事者にとっては残酷なことだ。

 私もトランス男性のひとりだが、10代の頃に観たトランス男性の映画は2つで、ひとつは主人公が性別を暴かれてレイプされて殺される『ボーイズ・ドント・クライ』で、もうひとつは主人公が差別によりガンの治療を断られて死ぬ『ロバート・イーズ』だった。

 2000年代当時、インターネット上では「トランス男性45歳寿命説」という都市伝説が広まっていて、私を含めた少なくない当事者は普通にそれを信じていた。50代以上の当事者の姿を観たことがなかったし、身近にあったのは悲劇的な物語だったからだ。小学生の頃には『忍たま乱太郎』が大好きで、青ヒゲで女装する山田先生を観て、なにも考えずに笑ったりもしていた。このテの笑いがいかに仲間を苦しめているかを知るのは、ずっと後になってからだった。『Disclosure』はけっして海外の話だけをしているわけではない。

 今回の炎上を受け、J.K.ローリングを擁護しようとするトランスヘイターの中には「別に彼女だけが悪いんじゃない」として、女装したシリアルキラーが登場する66作品ものリストをツイートした人もいた。しかし、J.K.ローリングが批判されているのは、まさにそのような作品が多すぎることが批判的に検証されはじめているからでもある。

 トランスジェンダーを悲しませ、偏見を助長するような作品の表現の自由を認めるとなれば、当然ながらトランスの別の物語を作ってくれ、好き勝手に消費しないでくれとの声を可視化するしかない。「心ある作家の人たちにはトランスジェンダーが殺されたり殺人犯になったりせず、ハッピーエンドでまわりからも愛されている物語を紡いでほしい」とつぶやいてみたら、1日で1600人を超える人たちがリツイートをしてくれた。そのような物語が圧倒的に足りていない、という認識をまずは共有してくれる人たちが増えるとうれしい。

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