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新型コロナによる外出自粛の影響で、妊娠不安を抱える若者が増えている——性教育講演や、性の健康に関する啓発活動を行っているNPO法人「ピルコン」には、学校の一律休校のあった3月以降、10代からの妊娠相談が多く寄せられています。
「性行為中にコンドームが破れてしまった」「パートナーがコンドームをつけてくれなかった」——そんなときの緊急的な対応に、「緊急避妊薬(アフターピル)」があります。
緊急避妊薬は避妊なしの性行為・避妊に失敗した可能性のある性行為から72時間以内、かつなるべく早く飲むことで、100%ではないものの、緊急的に妊娠を防ぐものです。制限時間のある薬のため、必要なときに迅速に入手できなければ意味がありません。
ところが日本では、緊急避妊薬のアクセスへの環境が整っておらず、迅速な入手が困難といわれています。
7月21日、「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト(以下、緊急避妊薬を薬局でプロジェクト)が「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ緊急避妊薬へのアクセス改善を求める要望書」、及び約67,000筆のオンライン署名を厚生労働省へ提出しました。
緊急避妊薬の入手について日本にはどのような問題があり、どうしたら緊急避妊薬へのアクセス改善をしていけるのか。「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」の共同代表であり、NPO法人「ピルコン」の理事長である染矢明日香さんにお話を伺いました。

染矢 明日香(そめや あすか)
NPO法人ピルコン理事長。石川県金沢市出身。慶應義塾大学環境情報学部卒。 自身の経験から日本の思いがけない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、大学在学中より学生団体ピルコンを立ち上げ、性の健康の啓発活動を始める。その後民間企業でのマーケティング職を経て、2013年にNPO法人ピルコンを設立。自分事として性の健康を伝える若者ボランティアの育成をしながら、中学校、高校、大学等で200回以上、3万名以上の対象者に性教育講演を実施。イベントや啓発資材の企画、動画コンテンツの製作・発信、政策提言を行い、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に貢献している。 保護者や教育関係者向けの性教育講座も定評があり、自治体からも多く要請を受けている。現在は海外の性教育動画Amazeの日本語翻訳プロジェクトの統括も行う。
「72時間以内の服用」が有効なのに入手しにくい“緊急”避妊薬
——まず、日本での緊急避妊薬に関する問題はどのようなものがあるのでしょうか。
染矢明日香さん(以下、染矢):緊急避妊薬を必要としている人が、薬にアクセスできていないことです。アクセスが困難な理由は2つ挙げられます。
1つは、病院、特に産婦人科受診のハードルの高さがあります。地域によっては近くに産婦人科がなく、簡単に受診できないという地理的な問題がありますし、「産婦人科では何を調べられるのだろうか」「避妊の失敗や性暴力被害をどのように伝えたらいいのだろう」「お医者さんに叱られるかもしれない」といった不安があり、産婦人科に行きづらいと考えている人も少なくありません。
緊急避妊薬は、妊娠の可能性のある性行為から72時間以内の服用が必要ですが、なるべく早く服用した方が避妊効果を期待できるといわれています。ただ、夜間や休日診療を行っていない医療機関も多く、これまでピルコンに来たメール相談の中でも、タイムリミットに間に合わなかったケースが散見されます。
2つめは価格の問題です。緊急避妊薬は安くても6,000円、高ければ2万円ほどで、若年層が困ったときに気軽に購入できる金額ではありません。高校生向けに性教育の講演を行うときに、緊急避妊薬の話もするのですが、金額の話になると「避妊に失敗しても実際に手に入れるのは無理ではないか」といった空気で会場がざわつきます。
性暴力被害にあった場合は、ワンストップ支援センターや警察に届け出れば公費負担となりますが、そのようなことを大人も知らないことが多いです。コンドームを使用していても、年間避妊失敗率は2~18%といわれています。途中で外れる・破れるなど、避妊の失敗は誰にでも起こり得ることなので、全ての人が手に届く環境や価格が整えられないと、“緊急”避妊薬の意味がないと思います。
——海外では薬局で気軽に購入できる国もありますよね。
染矢:ドイツ・イギリス等の76カ国では、処方箋不要で薬局で薬剤師から説明を受けた上で購入でき、アメリカやフランス等の19カ国では、薬局などで直接購入できます(2020年9月現在、ICEC調べより)。海外では多くの国で薬局にて緊急避妊薬を購入できるので、来日された方で、薬局で買えずに困ったというケースも聞いたことがあります。
——新型コロナ感染対策の学校休校や外出自粛により、若年層の妊娠相談が増えているという報道がありました。ピルコンのメール相談でもそのような傾向はありますか。
染矢:はい、10代からの妊娠不安のメール相談件数が増えています。「生理が遅れて妊娠したのではないか不安」という声が非常に多く、「生理の遅れの原因が、性行為によるものか、コロナのストレスによるものかわからない」という状況の子います。
理由としては、学校の休校の影響で、性交渉の機会が増えたという声もありますし、元々災害などの非常時には、性暴力やDV のリスクが増えるといわれており、ピルコンへの相談でも、家庭内での暴力や性暴力と思われるケースが増えており気になっています。
また新型コロナの影響で、性教育講演が中止になっており、僅かながらも性教育の機会が減少していることも原因としてあると思っています。
今までも性教育が不十分であることや、若い人たちが気軽に性について相談できる機関がないという指摘はされてきましたが、そのような問題が新型コロナをきっかけに浮かび上がり、当事者にそのしわ寄せがいっているように感じています。
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