AVはファンタジーだけど、AV女優は人間です/澁谷果歩『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』

文=三浦ゆえ
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 AV(アダルトビデオ)ーー男性にとってはいうまでもないが、多くの女性にとっても身近なものとなりつつある。パッケージを買わなくても視聴できるスタイルが主流になり、一気に垣根が低くなった。PCやスマホがあれば自宅にいながらにして、いつでも配信作品にアクセスできる(違法アップロードされたもので観るのはダメですよ!)。

 けれどAVが身近なものであることと、AVを作っている業界やそこで働く人のことをよく知っていることはイコールではない。むしろ知らないほうが楽しめると思われている節もある。近年はAVの“中の人”たちから、AVはファンタジーですよ、作りものなんですよ、演技なんですよという発信が増えているが、それを歓迎する人もいれば、無粋だと嘆く人もいる。

 2014~2018年にAV女優として活躍した澁谷果歩さんの新刊『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』(サイゾー)は、まさに“中の人”だった経歴と、元新聞記者ゆえの取材力がぞんぶんに発揮して書き下ろしたもので、AV女優になるまでの過程から、現場の様子、裏事情までがつぶさに記されている。

 「出演強要」「二次使用料」「作品販売等停止」……AV業界にとって“都合が悪い”のではないかということにも、澁谷さんは淡々と明らかにしていく。出演強要の問題が社会に認識されたのは2016年のこと、澁谷さんは現役で活動しており、業界が変わりゆく様を内側から見てきた。引退後、みずから二次使用料の請求、海外無料ダウンロードサイトにアップされている動画取り下げにチャレンジしたときの様子も、同書に詳しい。

AVのリアルすぎる映像、その功罪

 読み進めるうちに、AVを適切に楽しむには、観る側の「想像力」が強く求められるのではないかと思えてきた。

 AV出演強要問題の影響で、「本番禁止」になる可能性はいまでも指摘されている。

 本番とはセックスにおける挿入行為のことで、私たちが普通に生きているなかで他人のそれを目の当たりにする機会はめったにない。だからAVを観る。モザイク越しでも女性器に男性器が出入りしているところを目撃して興奮したい、という需要は確実にある。

 けれど、「本当に挿れてる!」という確信は、そこまで必要なものなのだろうか? 「本当に中出ししている!」「潮を吹いている!」という確信も、同様に。

 筆者は一時期、ピンク映画をよく観ていた。AVと違ってこちらには本番行為はなく、演技や演出で挿入しているように見せる。観客はそれぞれのイマジネーションを膨らませて「いま、ふたりは挿入行為で気持ちよくなっているんだ」と見る。あくまで個人的な感覚だが、本当にしているかどうかよりも、自分の想像をどれだけ刺激してくれるかどうかのほうが、興奮に大きく影響する。

 澁谷さんによると、AVで見せる性行為のほぼすべてが本番になったのはそう前のことではなく、現在もさまざまな事情から“疑似”と呼ばれる技法を取り入れることがたびたびある。そこで「本当に挿れてるんだ!」という夢を壊さないための努力がなされることになる。中出しの精液も女性器から噴き出す潮も、制作スタッフが知恵を絞り試行錯誤し、本物にしか見えない「疑似精液」「疑似潮」を作り出せる。その職人ワザによって、観る側は想像力で補完する作業をしなくてよくなる。

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