AV女優を人と見なさない人たち
ファンタジーを提供していながら、観る側に想像力を一切働かせないというのは、リスクにつながりかねない。
同書の第5章に「一般男性から不快なあつかいを受ける」「さわって当たり前だと思われる」という項目がある。AV女優にセクハラするのは、業界の人間や現場ではなく、むしろ一般男性であることが多いのだという。
AV女優は意思ある一個人だという想像力が働かず、同意なく触れたり一方的な性的願望を押し付けたしていい相手だとみなす。女性の友人や会社の同僚には決してしないことを、平気でする。「AV女優は俺たちの欲望のすべてを受け入れてくれる存在」「だってエッチが大好きなんだから」という、認知の歪みが感じられる。
最近はSNSで現役AV女優からの「AV女優だからってエロいこと言ってもいいと思わないで」「DMで性器の写真を送ってこないで」といった発信を見る機会が増えたように思う。
澁谷さんは現役のあいだ、プロ意識をもって取り組んできた。本書を読めば、望んでデビューしたわけでないことはわかるし、キャリアの前半は「アマチュア期間」だったともいうが、それでもプロダクションやメーカーにいわれるまま、ただ流されて仕事をしてきたわけではなく、主体性をもって取り組んできたことがわかる。そこにはセルフプロデュースがあり、キャリアアップのためのチャレンジがあった。
「女子が知っておくべき」ことは何か
AVにかぎらず、性産業に携わる女性は「搾取」の二文字とともに語られることが多い。いま現在、搾取されている女性は確実に存在するし、今後もきっといつづける。それは業界の構造が変わりつつあるとはいえまだその機能をしっかり温存しているからだということは、同書を読めば十分に理解できる。
ただ、だからといって「全員が搾取されている」ということにはならない。ここでもAV女優とはひとりひとり違う背景、意思、想いをもった一個人なのだから、一緒くたにして搾取と結びつけるのもまた、想像力の欠如ではないか。
もしみずからこの業界で働くことを選択し、主体的に取り組もうという強い意思を持っていたとしても、知識がなければどうしても既存の構造に取り込まれやすい。だから澁谷さんは「女子が知っておくべき」こととして1冊の本にまとめたのだろう。
そして、セクハラされるのも、女性という性ゆえに搾取されやすいのも、AV業界だけの話ではない。読者が想像力を発揮すれば、特異ではあるけれど、自分たちと地続きの世界の話として、自身の生活にもフィードバックできる1冊である。
(三浦ゆえ)
9月20日19時〜 オンライントークイベント:澁谷果歩×三浦ゆえ「AVについて女子が知っておくべきすべてのこと」開催
澁谷果歩さんの『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』刊行を記念して、女性(を自認する方)限定でトークイベントを開催します。聞き手は本稿を執筆してくれた編集者の三浦ゆえさんです。
時間 _ 9月20日19:00~21:00
場所 _ オンライン配信
入場料 _ ■【配信参加】1,650円(税込) ■【配信参加+サイン本】 1650円+『AVについて女子が知っておくべきすべてのこと』1650円(ともに税込)※イベント後発送
▼詳細はこちらへ
本屋B&B
▼チケットはこちらから
Peatix
1 2