コロナ禍の経済危機にあっても株価が高いカラクリ その“ツケ”を政権と日銀は払えるか

文=斎藤満
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Getty Imagesより

 100年前の「スペイン風邪」以来の世界的な脅威となっている新型コロナウイルス。世界で2000万人以上の感染者を出し、100万人近い死者を出しているパンデミック(世界的流行)となっているのですが、その中で米国株はS&P500やハイテク株の多いナスダック指数が史上最高値を更新する好調ぶりを見せました。

 米国ほどではありませんが、日本株も日経平均株価は2018年10月2日に付けたバブル後の高値(終値で2万4270円)をうかがうほど堅調で、コロナで傷んだ経済や失業リスクにおびえる労働者とは全く別世界の様相です。

 春に各国でロックダウン(都市封鎖)やこれに準ずる経済規制、移動規制を課したことで、主要国の経済は「大恐慌以来」という大幅なマイナス成長を記録しました。日本でも4-6月のGDP(国内総生産)は年率28%もの大幅マイナス成長を記録、企業収益も観光、旅行、飲食業などを中心に大幅な減益となり、多くの企業が赤字に転落しました。

 それでも世界の株価は3月に一時2桁の下落を見せるなど、調整を見せましたがこれも短期で終わり、3月後半からは急ピッチの反発を見せ、米国などではコロナ前の高値を超えました。主要国で大規模なコロナ対策が打たれたことも大きく影響しました。

政策の限界を打破したコロナ

 その点、世界の金融財政政策が行き詰まっていた状況の中で、コロナ・パンデミックがいわば「免罪符」となって、一段と大規模な経済支援策に誘導し、政策面での行き詰まりを打破した面があります。

 実際、コロナの恐怖は、すでに異次元の大規模緩和を行っていた主要中央銀行を動かしました。米国の中央銀行FRB(連邦準備制度理事会)は3月に緊急の会合を開き、政策金利を一気にゼロまで引き下げ、さらに社債からジャンクボンド(信用力の低い投資不適格の債券)まで買い入れ、企業の支援に乗り出しました。

 そして8月には新しいコロナ支援策として、インフレよりも雇用重視の姿勢を鮮明にし、インフレ率が2%を多少超えてもしばらくはゼロ金利を続けるとの姿勢を示しました。実際、16日の米国版金融政策決定会合では2023年までゼロ金利が続く予想を提示しました。コロナで傷んだ観光関連やレジャー関連の失職者が職に戻れるよう、「最大限の支援をする」と言い、債券の無制限買取まで示唆しています。

 米国の財政政策も、コロナで「タガ」が外れました。昨年10月から始まった2020年度の連邦政府財政は、8月までの11カ月で赤字が3兆ドルを超えました。これまでの年間最高赤字はリーマン危機にあった2009年度の1400億ドルですが、今年度はすでに11か月でこの最高赤字を2倍以上上回っています。しかもさらに追加のコロナ対策を打ち出そうとしています。

 この財政金融両面で完全にタガが外れた大規模支援策に出たことが、実体経済と乖離した株高をもたらしました。市場からすれば、コロナで悪化した経済や企業収益は「過去の話」で、大規模な経済支援策が「今後」の経済、収益を押し上げるとの期待を生みだし、これが株買いを呼んだことになります。投資家にすれば、世界中の国債利回りがゼロ近辺で魅力に欠けるため、投資対象は株か金しかないのです。

 日本でも同様で、日銀の異次元緩和はすでに限界まで来ていて、行き詰まり感が強まっていました。そこで財政面から2度にわたる「110兆円規模のコロナ対策」が打ち出され、さらに菅政権のもとで第3次補正予算の期待が高まっています。国債が増発されれば日銀の国債買い入れ額も増え、緩和が強化されるとの期待を呼びます。これが、空運や観光、飲食業などが青息吐息でも株価を高止まりさせる要因になっています。

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