ここまでは全て男性アイドルの話だが、女性アイドルで「自作」までを標榜しているケースはまだ非常に少ないようだ。
ソロではIUやBoAのようにデビュー初期は「ソロアイドル」のような受容のされ方だったのが徐々にセルフプロデュースも含めて「ソロ歌手」という認識に変わっていったケースや、グループではEXIDのLE、(G)I−DLEのソヨンといったやはり練習生以前からラッパーを志していたメンバーが多い。
2NE1や少女時代、Wonder Girlsなどキャリアと共に作詞作曲に関わるようになっていったケースが多い中で、(G)I−DLEの場合はデビュー曲からメンバー自身が作詞作曲に関わっているという点で、同じくデビューアルバムからメンバーが全曲の作詞作曲いずれかに参加していたPRISTINが解体した現在では、今後のロールモデルになりうる存在かもしれない。
「自作ドル」の様々な形
ジャンル的リアリティの土台、あるいはアイドルとしての「スペック」の一種として定着していった「自作ドル」だが、そのスタイルは様々だ。
個人のケースではおおまかに言えば、
1.デビュー前からラッパーやトラックメイカーとしての経験上自作経験があったケース
2. 元々ギターやピアノなどの楽器演奏が出来、その延長上で作曲経験があったケース
3. アイドルとしてのキャリアを積む中で作詞作曲を取得していったケース
このような3パターンに分けられると思うが、実際の楽曲制作については各事務所ごとに特色が出る部分でもあるため、事務所ごとに見ていきたい。
・YGエンターテイメント
現在の「自作ドル」定着の源とも言えるYGエンターテイメントのスタイルは、男子グループであるBIGBANG・WINNER・iKONいずれも作曲が出来るメンバーがメインでサブとしてYGの社内作曲家(TEDDY・CHOICE73・FUTURE BOUNCEなど)が入るパターンが多い。時折外部作曲家が共同作曲家として入るパターンもあるが、作詞は概ねメンバーのみでアルバムのメインであるタイトル曲の制作にもメンバーがメインで関わっているケースが多い。
今年デビューしたばかりのTREASUREは初めて「自作」を前面に標榜していないが、それでも日本人メンバーを含むラップ担当メンバーはリリックを自作している。
・PLEDISエンターテイメント
SEVENTEENが所属するPLEDISエンターテイメントの場合、グループごとに少し経緯が異なるようだ。SEVENTEENは『SEVENTEEN PROJECT』(MBC Music)という脱落メンバーなしのミッション型デビュープログラムを経てデビューした経緯があるが、そこでのミッションですでに作詞作曲や振付をメンバー主体で力を合わせて作っていくというスタイルが確立していた。
SEVENTEENの作曲に関しては、ボーカルチームのリーダーであるウジと、同じ事務所所属のアーティスト兼プロデューサーであるBUMZUとの二人三脚で行われるパターンが多いが、近年はアルバム収録曲で振付に参加しているパフォーマンスチームリーダー・ホシや他のメンバーが作曲に参加するなどバリエーションが増えている。
NU‘ESTはBUMZUがプロデュースに関わるようになってからメンバーが制作に参加する割合が増え、近年のタイトル曲はBUMZUとメンバー・ベクホの共同制作が多くなっている。
・Big Hitエンターテイメント
BTSの場合、アルバムのメインであるタイトル曲においてはBig Hit所属の作曲家であるPdogg・Slow Rabbit・Supreme boi・ADORAなどがメインで入り、メンバーを含め共同で制作する「チームBTS」とも呼ぶべきスタイルが定着しているようだ。
メンバーが他のアーティストに楽曲提供する場合も、Big Hit所属のプロデューサーが一緒に参加している。一方でソロ曲やミックステープに関しては各メンバーがやりたい事や目指すものをサポートする役割として、サブで所属作曲家が入るというケースが多いようだ。
ソスミュージック所属のGFRIENDがBig Hitの傘下になってからはメンバーが作詞作曲に参加するようになってきており、「メンバーも含めたスタッフみんなで作る」というのがBig Hitのスタイルになりつつあるのかもしれない。
・JYPエンターテイメント
2PMやTWICE、GOT7が所属するJYPは元来「自作」のイメージは強くなく、バンドスタイルのDAY6以外はキャリアを重ねる中でメンバー自身がスキルを身につけて作詞作曲に参加するようになるケースが多かった。
しかし、2018年にデビューしたStray Kidsは異なる。Stray Kidsは練習生経験の長かったリーダーのバンチャンが、自ら集めた練習生メンバーで構成されている。デビューサバイバルだった『Stray Kids』(Mnet)はリーダー自らが集めたメンバー全員でデビューする事が目標であり、いわばメンバー集めの段階からのプロデュース能力が試されるプログラムだった。
デビュー前から作詞作曲担当メンバーであるバンチャン・チャンビン・ハンが3RACHAというユニットでSound Cloudで楽曲発表をしており、デビュー後の楽曲も編曲も含めてほぼ3人のメンバーで製作されている。
振付にも参加していたり、J.Y. Parkに新曲について自らプレゼンする動画などもあり、メンバー自身の意思や意向が強く反映されている事こそが特徴という位のまさに「ザ・自作ドル」というケースである。
・SMエンターテイメント
「自作ドル」のイメージがあまりないSMエンターテイメント中でも、独立レーベルに所属しているSUPER JUNIORはメンバーのドンへが作詞作曲に参加していたり、振付師や作曲家を自分たちで選んだりとキャリアと共にDIYの部分が増えていった。近年ではコンサート内のVTR撮影やコンサート演出自体をメンバーが手がけている。
全体的には、どちらかといえば、SHINeeのジョンヒョンのようにソロ活動をきっかけに作詞作曲に力を入れるようになったりチャレンジしてみるケースが多いように見受けられる。
楽曲のベースジャンルにヒップホップ要素の多いNCTに関してはラップ担当のテヨンとマークはデビュー曲からリリックメイキングに参加しており、近年では作曲にも参加し始めている。
・CUBEエンターテイメント
前述の(G)I−DLEが所属するCUBEエンターテイメントも「自作ドル」が多い事務所だ。HIGHLIGHTとして独立する前のBEASTも途中からメンバーが自作するようになったが、BTOBも近年はメンバーのヒョンシク・イルフンがメインで楽曲制作をしている。
PENTAGONも現在は『PRODUCE 101』(Mnet)シーズン2での人気曲「Never」、Wanna Oneのデビュー曲「Energetic」などで「作曲ドル」としての知名度を上げたメンバーのフイがメインで作曲しており、最近ではJO1に楽曲提供した事が知られている。