
写真:ロイター/アフロ
今年5月、ミネソタ州にて黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官に殺害された事件によりBLM(ブラック・ライブス・マター)運動が全米規模で再燃し、米国社会は改めて人種問題と向き合わざるを得ない状況となっている。
9月21日、ケンタッキー州のルイヴィル警察が緊急事態宣言を発した。今週中にブリオナ・テイラー事件の大陪審(刑事事件として起訴を行うか否かを決定する)の結果が出る予定であり、不起訴となった場合は大規模なBLMデモが起こると想定してのことだ。
ブリオナ・テイラー事件は今年3月に起こっている。当時26歳の救急救命士だったブリオナさんは深夜、自宅で就寝中に踏み込んだ3人の警官によって射殺されている。警察はブリオナさんのかつての恋人が麻薬密売人であり、ブリオナさんの自宅が麻薬の隠し場所として使われているとする誤った情報により自宅を急襲したのだった。
当夜、ブリオナさんと共に就寝していた恋人(麻薬密売嫌疑の元恋人とは別人)は警官を侵入者と思い、合法所持の銃を発砲。警官が発砲し返し、弾丸を受けたブリオナさんは死亡、恋人は負傷を免れている。恋人は警官への殺人未遂で逮捕されたが後日、起訴は取り下げされている。
警官が取得していたブリオナさんの自宅を捜索する令状は「no-knock warrant」(ノックをせず、急襲してよい令状)であった。6月、ルイヴィル市はこの令状を禁ずる「ブリオナ・テイラー法」を成立させている。
3月に起こった際には大きく報道されなかった事件だが、5月のジョージ・フロイド事件に端を発するBLM再燃によって全米規模での報道がなされ、現在、ブリオナさんの肖像画はBLMのアイコンの一つとなっている。
9月20日に放映されたエミー賞授賞式では黒人女性俳優のレジーナ・キング、ウゾ・アドゥバがブリオナさんのTシャツを着て登場。キングはHBO『Watchmen』、アドゥバはFX/hulu『Mrs. America』と、共に黒人史に深く関わる作品によって受賞を果たしたのだった。
Regina King and Uzo Aduba paid tribute to Breonna Taylor during their #Emmys acceptance speeches, wearing t-shirts honoring the 26-year-old EMT who was fatally shot by police in March https://t.co/BKU1Rxc8Fh
— CNN (@CNN) September 21, 2020
Large mural of Breonna Taylor painted in Annapolis. #BreonnaTaylor pic.twitter.com/gDdk1TuLWh
— Hold Your Head Up 💎 (@HYHUTriangle) September 16, 2020
言葉としてのBLMの起源
「All Lives Matter(すべての命が大切)」というスローガンがある。黒人差別の存在を否定する人々がBLM運動に対抗するかたちで掲げたものだが、実はBLM賛同派の中にも「人種など関係ない、人間は皆、同じだ」と主張する人がいる。
正論だ。ただし、この主張は今のアメリカではまだ時期尚早なのである。
人種の概念は奴隷制や植民地制度を構築して富を得るために白人が作り出したものであり、マイノリティを管理するためのツールとしての人種差別が当時から今に至るまで 深く根付いている。それによって黒人が殺されることもある。この現状を変えようとするのがBLM運動だ。したがって「人種などない」もしくは「人種など(あったとしても)関係ない」と主張すれば人種差別の歴史も現状も、そしてBLMも存在し得ないこととなる。
そもそもBLM(Black Lives Matter)とは、2012年に自称自警団の男に17歳の黒人少年トレイヴォン・マーティンが射殺された事件に基づく。翌年の裁判で射殺犯が無罪となった際、後に人権団体としてのBLMを設立することになる3人の黒人女性のうちの1人、アリシア・ガルザ氏が身を切られる想いでフェイスブックに綴ったのが以下の言葉だ。
「black people. I love you. I love us. Our lives matter.」
「ブラック・ピープル。私はあなたたちを愛している。私は我々を愛している。私たちの命はかけがえがない」
この書き込みにガルザ氏と共にBLMを立ち上げることになるパトリース・カラーズ氏が返答し、そこに#blacklivesmatter とハッシュタグを付けた。これが当人も驚くほどに拡散され、やがてムーヴメントの名称となったのである。
人種差別によって黒人の命が奪われていく事態に、黒人自身が自らを黒人と規定して立ち上がったのだ。
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