菅政権に期待する財政出動 安倍政権の「介護政策」を振り返る

文=結城康博
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画期的な「介護離職ゼロ」

 具体的な政策はどのように評価できるだろうか。

 通称「アベノミクス」とよばれ、安倍政権における経済政策の基軸となる考え方が「成長と分配の好循環」といったメカニズムであり、その中の1つに「介護離職ゼロ」が目指された。政府の政策の大きな柱の1つに「介護」関連の項目が盛り込まれたこと自体は、これまで20年間の介護保険の歴史を鑑みても画期的なことであり評価したい。

 もっとも、その背景には、「アベノミクスの成果を活用し、子育てや社会保障の基盤を強化する。新たな第二・第三の矢により、子育てや介護をしながら仕事を続けることができるようにすることで労働参加を拡大し、潜在成長率の底上げを図る」(閣議決定『ニッポン一億総活躍プラン』平成28年6月2日4頁)とあるように、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少と「介護」を理由とした離職によって、さらなる労働力不足に陥らないよう防止を図ることが念頭に置かれている。

 具体的には『介護離職ゼロ』の実現に向けて、政府は介護の受け皿を38 万人から50 万人へ拡大することなどが、政策の柱に盛り込まれていた(閣議決定『ニッポン一億総活躍プラン』平成28年6月2日15頁)。

70歳までの雇用機会

 また、日本社会において労働力不足が問題視されているため、「定年延長制の導入」といった雇用形態が常態化していくことが予測される。そのため、全世代型社会保障検討会議においては、「70歳までの就業機会の確保を円滑に進める観点から、法制を二段階に分けた上で、まず、第一段階の法制の整備を図る」(内閣官房「全世代型社会保障検討会議中間報告」令和元年12月19日7頁)とされた。

 そして、「国民一人一人が老後の生活設計を考えながら年金受給のタイミングを自分で選択できる範囲を拡大するため、60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始時期について、その上限を75歳に引き上げる」(内閣官房全世代型社会保障検討会議中間報告」令和元年12月19日5頁)といった、年金制度の繰り下げ支給の拡充も実施された。

 これらを安定して実践させるためには、どうしても「介護離職」防止施策が不可欠となる。誰もが安心して70歳まで働くためには、親の介護のために仕事を辞めなければならない「介護離職」を防止する必要があるのだ。

 しかし、未だに約10万人が「介護離職」として存在し、施策が動いても抜本的な改善はなされていない(表2)。

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 毎年、要介護者は増えているため、介護離職者数が横ばいであることは、一定の効果がないわけではない。しかし、政府が重要施策の1つとして掲げながらも、横ばいというデータから評価すれば成功とは言いがたいのではないだろうか。

厳しい2015年4月からの介護保険改正

 なお、安倍政権時に厳しい評価となったのが、2014年に要支援者向けの予防給付を見直す法改正が行われたことだ(2015年4月から実施されている)。

 具体的には、要支援者に対する「訪問介護」「通所介護」の2サービスの一部が、地域支援事業の枠組みで、「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」として実施された。これまで国が決めていた介護報酬の内容を、「訪問介護」「通所介護」については市町村がある程度裁量を持って決められるようになるという政策だ。

 このことで、一部、総合事業に移行したサービス体系は、報酬単価も低く設定され有償ボランティアなどのヘルパーが担う方向性となり、逆に担い手が集まらないといった事象が生じてしまった。「総合事業」は、法定給付とは違って住民互助やボランティア団体などの「社会資源」を当てにした事業であるため、サービスの担い手が確保できず、結果、これら新サービス体型が構築できないといった問題が生じている。

 また、特別養護老人ホームの入所要件の厳格化ということで、原則、要介護3以上からとなった点も忘れてはならない。要介護1もしくは2といった軽度者であっても地域差はあるが、認知症が深刻で在宅生活が困難な場合などの症状があれば、必ずしも要介護3以上でなくとも入所のニーズが高いケースがある。つまり、軽度者であっても特養に入所できない高齢者が生じてしまった。

 しかも2015年改正は、介護報酬がマイナス2.27%と極めて厳しい結果となった。安倍政権による介護政策は、介護人不足対策では一定の対応がなされたものの、介護事業所の運営において厳しい財源措置となったことは評価できないものであったといえる。

新政権へ望むこと

 冒頭でも述べた通り、安倍政権は新型コロナ禍における介護施策として、「令和2年度第二次補正予算」において介護従事者に対して「慰労金」として一律5万円を給付した。しかも、新型コロナウイルス感染症が発生又は濃厚接触者に対応した施設・事業所においては20万円の給付であった。

 特に、介護職員のみではなく、これら以外の専門職と事務職員まで幅広く介護現場で働く全ての者がチームとして評価され、かつ正規職員及び非正規職員(対象期間10日勤務した者)が対象となったことは大きい(厚労省「介護・障害分野の慰労金について」)。

 しかも、これらに使途された財源は全額国庫負担で約4132億円であった。財源規模としては、介護保険の20年の歴史から鑑みても、かなりの額となり高い評価のできる対応であった。

 約8年にわたる安倍政権における介護政策は、2015年のマイナス改定や要支援者向けの予防給付の改定といった後退はみられるものの、介護に対して財政出動が行われるなど、全体としては前進であったと筆者は考えている。新政権においても、このような財源確保を継続し介護分野への財政出動に期待したい。

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