菅政権に期待する財政出動 安倍政権の「介護政策」を振り返る

文=結城康博
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深刻化する介護人材不足

 ここ数年の有効求人倍率を見ても、介護関係職種の雇用情勢の厳しさが窺える(表3)。

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 新型コロナ問題の影響もあって、季節調整済有効求人倍率(新規学卒者を除きパートタイムを含む)は2020年7月時点1.08倍であったが、介護関係職種は3.95倍と高い水準だ。介護現場の関係者に聞くと、非常勤介護職員等が感染を危惧して休職している者も多く、人材不足はさらに深刻であるという。

 当然のことながら新規採用は見込めない状況であることから、新型コロナ以前と比べても、少ないマンパワーで介護現場は業務がこなさなければならないのが現状なのだ。

21年介護報酬引き上げは最低でも3%以上

 これまでの介護報酬改定で最も高かったのが、リーマンショック直後の09年度改定はプラス3%であった。菅政権で行われる21年介護報酬改定は、少なくとも同等以上のプラス改定がなされなければ、介護現場が疲弊してしまう。

 実際、プラス3%で年間約3000億円、同5%で約5000億円の財源が必要となる。新型コロナ対策の一環で実施された介護職員への一律慰労金を含む「緊急包括支援交付金(介護分)の事業費」は4132億円となっており、決して非現実的な金額ではないと考える。非常事態の中、介護業界としても、しっかりと求めていくべきであろう。

介護を経済政策として据える

 経済用語で「乗数効果」という言葉がある。政府がある事業に投資を行ったとする。それによって国民の所得が増え、消費も増加する。そのことでさらに国民所得が増えて……と、投資の効果が乗数的に増えていくことを指すものだ。

 そもそも、伝統的に政府が公共事業への投資を実施する目的は、この「乗数効果」をねらったものである。しかし、昨今、公共事業による「乗数効果」はそれほど期待できず、GDPを増やすどころが、かえって国債発行を増大させ金利を挙げてしまう危険性も指摘される。その結果、民間投資を減少させてしまい景気回復には効果がないと評されることもある。

 そこで、もし財政出動をするのであれば、介護部門へ集中的に「投資」してサービスを充実させることを提案したい。公共事業の中には、社会的なニーズのないものが少なからずある。一方、介護サービスを充実することで、現役世代が親の介護に心配をしなくてすむ社会の実現へ近づけることができ、さらに福祉従事者の雇用増大と賃金引き上げによって内需経済を活性化させて景気浮揚につなげることもできるだろう。今後の政権は、いわゆる「福祉循環型社会システム」を目指した政策を打ってもらいたい。

 慢性的な介護士不足が深刻化している昨今、介護・医療現場では現状のサービス維持すら危ぶまれ患者や要介護者の生活が不安定となっている。特に、新型コロナ下においては、さらに介護人材が集まらず深刻な事態を招いている。

 つまり、介護を「負担」といった視点ではなく、経済政策の一環として景気回復のためのツールとして据えることである。安倍政権も「介護離職ゼロ」という政策は、このような論理が背景にあったに違いない。新政権では、現在の方向性をさらに推し進め介護サービスの充実を通して景気回復のプロセスを踏んでいってもらいたい。

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