『グッとラック!』が体現した映画『キム・ジヨン』そのままの世界 「痴漢冤罪で男も大変」「受け取り方の問題」「家事やる男と結婚すればいいだけ」

文=雪代すみれ
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知識と根拠に欠けるスタジオのコメント

 コメンテーターたちの発言のどこが問題なのか。まず西村氏の「女性が女性の足を引っ張っている」という話だ。そういう面があるとしても、だからと言って「女性の生きづらさ」に男性の言動が無関係なわけではない。また、西村氏は「男性は男性同士で擁護し合っている」とも言っていたが、男性間でも“男らしさの抑圧”があったり、ハラスメントが問題になっており、「男性は助け合っているけれど、女性は足を引っ張り合っている」という見方は主語が大きすぎるのではないか。

 ちなみに原作では、ジヨンがバスで不審な男に付きまとわれたときに助けてくれたのは、たまたまバスに乗り合わせた女性であった。さらに彼女は<世の中にはおかしな男の人がいっぱいいる。自分もいろいろ経験した。でも、おかしいのは彼らの方で、あなたは何も間違ったことはしていない(p62)>とジヨンを励ましている。

 次に上地氏の「男性も痴漢と間違われないようにしている」についてだが、男性が痴漢に間違われないよう気を付ける必要性が生じているのは、被害者の多数である女性のせいではなく、痴漢がいるからだ。ツイッター上でも指摘されていたとおり、痴漢という犯罪がなければ、痴漢冤罪も起きないだろう。同性間でも痴漢は発生し、男性が被害者になる場合もあるという点も忘れてはならない。

 また、父親がジヨンに言った言葉の「受け取り方の問題」発言については、そもそも被害者の落ち度を責める行為は二次被害(セカンドレイプ)にあたる。上地氏は番組内で<相手の立場になって言わないとね>とも言っていたが、その意識があるなら父親だけでなく、痴漢被害に遭った女性が責められたらどう感じるかも考えてほしい。

 そして、木嶋氏はスカートの短さと痴漢被害が関連していると言及したが、それは単なる“イメージ”であり実態は異なる。痴漢被害に遭った女性たちの話を聴けば、地味な格好でも被害に遭っているケースは少なくなく、スカートが短いかどうかは関係がない。

 「露出度が高く派手な人が痴漢されやすい」というイメージは世の中で共有されているが、痴漢加害者の臨床に携わる榎本クリニックの斉藤章佳さんの『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)では、次のように書かれている。

<彼らが狙う女性を端的にいうなら、「被害を訴え出そうにない」女性となります(p114)>

<若い女性にこだわる痴漢もいますが、それよりも優先されるのが「気が弱そう」「おとなしそう」といった特徴です。(中略)彼らの言を借りると、「何をしても逆らわない女性」「黙って自分達に支配されて欲望をかなえてくれる女性」となります。(中略)いずれにしろ、自分たちに対抗すべき力を持たないように見えることがポイントです(p117)>

 筆者にとっても自分、もしくは周りの女性が経験してきたようなことがたくさん書かれており、「自分だけじゃない(個人の感じ方の問題ではない)」と励まされた『82年生まれ、キム・ジヨン』がこのような形で紹介されたのは、非常に残念でならない。

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