韓国で失踪する児童たち…韓国社会の闇に踏み込む映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』

文=くれい響
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『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』新宿武蔵野館ほか全国順次公開中! (c) 2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 アジア全土でブームを巻き起こしたほか、日本でも今やおなじみの“史劇(サグク=韓国時代劇ドラマ)”の先駆け的作品として人気を博し、その後、パチンコ台にもなったドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」(03年)。その主演を務め、かの金正日総書記も熱狂的ファンだったことで知られる国民的女優、イ・ヨンエ14年ぶりのスクリーン復帰作として、制作発表時から大きな話題を呼んでいたのが、『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』(19年。日本公開は20年9月18日)である。

 本作でヨンエが演じるのは、6年前に行方不明になった当時7歳の息子を捜し続ける母親・ジョンヨン。09年に実業家と電撃結婚し、芸能界引退を表明した彼女の前作『親切なクムジャさん』(05年)で演じた“復讐鬼と化す母”のインパクトが大きかっただけに、本作が長編デビュー作となったキム・スンウ監督には、ヨンエへのリスペクトも感じられる。しかも、彼女自身が11年に双子の母親になっており、あえて復帰作としてジョンヨン役を選んだことは、ただならぬ意志を感じ取ることができる。

 それにより、本作の冒頭で精魂尽き果てた表情で、海辺を彷徨い続けるジョンヨンの姿には、いろいろな想いを感じ取ることができる。『母なる証明』(09年)のダンスにも通じる謎めいた感は、チャングムのような聡明さやクムジャのようなチャーミングさ、そして「お嫁さんにしたい国民的女優」など、これまでのヨンエとは明らかに違う表情が浮かび上がる。

 情け容赦ない内容・展開で知られる韓国映画だけに、スンウ監督はその後もジョンヨンに“不幸のつるべ打ち”ともいえる過酷な試練を叩きつける。息子に関する悪戯にしか思えない怪情報に始まり、捜索中だった夫の突然の事故死、そして情報提供者を裏で操っていた義理の弟。そして、ジョンヨンがたどり着いた人里離れた釣り場を営む、謎の“ファミリー”との遭遇……。その予期せぬ展開は、『悪魔のいけにえ』(74年)にも通じる田舎ホラーとしての一面も覗かせていく。

 本作には、実在するモデルや事件は存在しないが、劇中ではビラ配りや横断幕の掲示、そして足を使った地道な捜索活動に、「行方不明家族 捜索の会」である人々との関わりなどがリアルに描かれている。

 実際、スンウ監督は「いつも通りかかる場所で、偶然見かけた横断幕を掲げた両親の姿に心を打たれて、本作の脚本を執筆した」と語っているが、これらは実在した幼児失踪事件を映画化した中国映画『最愛の子』(14年)との共通項も見ることができる。

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