映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、小説とは違ったアプローチで女性差別に満ちた社会の歪みを描く

文=菅原史稀
【この記事のキーワード】
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、小説とは違ったアプローチで女性差別に満ちた社会の歪みを描くの画像1

© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

 一方、映画版『82年生まれ、キム・ジヨン』において、キム・ジヨンが異変を自覚しカウンセリングを受けるのは、物語終盤だ。作中には抑えられた演出と劇伴、また自然光が意識される照明によりドキュメンタリックな視点で、主人公キム・ジヨンと周囲の人々の送る日常風景が実直に描かれる。そしてそこに映し出されるのは、日韓が共通して抱えるありのままの社会の歪みだ。

 原作小説では男性医師が担っていたストーリーテラーが映画版において不在となっている代わりに、観客自身が彼女の半生の目撃者となる。映像表現ならではのアプローチと言えるだろう。

 また映画版では原作には描かれていなかった、内省的なキム・ジヨンが遂に感情を爆発させるクライマックスシーンがある。

 物語終盤に描かれるこの場面では、原作小説の持つ読後感とはまた異なったインパクトが生み出されるとともに、それまでにキム・ジヨンの置かれていた理不尽な立場を目撃し追体験した観客が、スクリーンの中の彼女と心情を分かち合うような瞬間がもたらされるのだ。

 そしてその特別な瞬間は、キム・ジヨンと同じ境遇を辿ってこなかった者にも訪れる、普遍的なものであるように感じた。本作で長編デビューを飾ったキム・ドヨン監督は「女性だけでなく男性の目も開いて、このようなことがあったんだと感じていただける映画であれば嬉しいです」とコメントしているが、この想いは著者チョ・ナムジュが投げかけていたメッセージと通じているように思う。

 原作小説とはまた違ったアプローチから描かれる映画版のキム・ジヨンの半生を、ここ日本でもより多くの人々に目撃してほしい。

キム・ドヨン監督コメント参照:
https://news.livedoor.com/article/detail/17403824/

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、小説とは違ったアプローチで女性差別に満ちた社会の歪みを描くの画像2映画『82年生まれ、キム・ジヨン』
10月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

1 2

「映画『82年生まれ、キム・ジヨン』、小説とは違ったアプローチで女性差別に満ちた社会の歪みを描く」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。