扶養の範囲に抑えたはずなのに…「○○の壁」の思わぬ罠

文=川部紀子
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フリーランスの経費は?収入?所得?

 しかし昨年の所得が確定する6月、夫の職場より「扶養の範囲をいろいろ超えています」との連絡がありました。

 まず、会社にとって最も重要な配偶者手当です。実は、経費を引いてくれるという基準は間違いで、経費を含め月85,000円以内に抑えなければいけなかったのです。年間売上が102万円までのところ、A子さんは200万円を売り上げたのでアウトです。月に85,000円を超えた月に支給された配偶者手当は返納することとなりました。

 次に会社が手続きをした社会保険(国民年金と健康保険)です。夫の健康保険組合は、多少の経費は認められるものの、A子さんが差し引いて考えた青色申告特別控除65万は税金の話なので社会保険の制度では認められません。また、確定申告で記入したあらゆる経費40万円もすべては認められませんでした。

 もっとも負担感が大きい130万円の壁もNGとなりました。過去に遡って国民年金保険料と国民年金保険料を納付することになりました。

 夫が配偶者控除を受けられるボーダーラインとなる、有名な「103万円の壁」があります。これは配偶者が年収を103万円以内に抑えることで、自分の住民税や所得税が下がる(配偶者控除を受けられる)というものです。

 この103万円は、給与所得者の「年収」を指しています。収入と所得は別モノです。年収から所得に言葉を置き換えると、年収103万円はイコール所得38万円となります。会社員の場合、収入から給与所得控除額を差し引いたものを所得といいます。給与所得控除額とは、会社員の経費のようなもので、計算式が決まっています。フリーランスであれば売上から経費等を引いたものです。

 A子さんの所得は約95万円なので大幅にオーバーしています。夫は配偶者控除を受けられなくなり、A子さんにも税金が発生することになりました。

 A子さんは昨年分に関しては、過去に遡って①から⑤のすべてのお得を失うことになってしまったのです。返納や遡っての支払いが発生したため、家計は想定外の支出を負ったA子さんは、「これからはフルタイムで働こう」という結論を導き、この秋よりフルタイムで働き始めたとのことです。

まとめ

  扶養の範囲で働く場合、税金と社会保険の制度の違い、フリーランスであれば収入と所得の違いなどに注意が必要です。

 扶養の範囲を目指すためにセーブをしながらもフリーランスで約200万円の売上をあげることができたA子さんは、このご時世でもすぐにフルタイムで就職を決めることができました。非常に能力の高い方といえるでしょう。

 そんな方がであっても、「扶養の範囲」というお得過ぎる税金、社会保険料、手当のために仕事を抑え、能力を抑えていたわけです。これは非常に悩ましい問題だと思います。「扶養の範囲」は、病気やさまざまな事情でがっちり働くことが難しい配偶者のために活用されれば素晴らしい制度ですが、税金などのお得を手に入れるために、能力を発揮できない制度になってしまいかねません。本人にとってもこの国にとっても損失ではないでしょうか。

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