菅政権が迫られる厳しい舵取り 複雑な要素が絡み合う米中対立、日本はどう動くか

文=斎藤満
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 こうしたトランプ政権の攻勢に対しては「勝ち目のない無謀なもの」との批判もあります。米国経済はすでに中国の情報通信などを取り入れ、中国経済抜きでは成り立たないとして交渉面では中国優位を説いています。しかし、中国には如何ともしがたい弱点が2つあり、まともに米国とは張り合えない面があります。

 1つは中国共産党幹部の多くが自国通貨である人民元や、中国の体制を信用しておらず、9割がパスポートを所持して、いずれ海外に移住を考え、すでに資産の多くを米ドルなど海外に移しているといわれます。その額は3兆ドルから10兆ドルといわれます。彼らにしてみれば、中国政府が米国と衝突して彼らの海外資産が凍結されることを最も恐れています。その力が中国政府の対米交渉力を削ぐ形になっています。

 もう1つは、ドル決済が中国経済の命綱になっていることです。米国政府が中国へのドル資金供給をストップしたり、あるいは中国の銀行を米ドル決済システムから排除すれば、中国経済はその瞬間に心臓発作を起こしてしまいます。

 中国経済がいくら大きくなっても、人民元は依然としてローカル通貨に過ぎず、ドル決済が経済の大前提となっています。その命綱を握っているのが米国のトランプ政権で、これを切られるような喧嘩はできません。

 トランプ大統領が再選に失敗し、バイデン政権になることを中国、特に江沢民派は期待していると見られますが、米国は今や与野党を超えて反中国に変わっています。仮にバイデン政権になっても、もはや親中路線には戻れなくなっています。

 それを察知してか、習近平国家主席は自ら菅首相との電話会談(9月25日)を申し込んできました。中国側からの申し出は異例のこと。それだけ中国としては日本に米中の間を取り持ってもらいたいとの危機感があると見られます。さらには日米の分断を図る意図も見え隠れします。

 ところが、時差の問題がない北京と東京での電話会談が、なぜか東京の夜9時から行われました。これはワシントンの朝8時になります。日中首脳会談はしっかり米国にチェックされていた可能性があり、従ってこの会談でも、立ち入った議論には至らず、両国の良好な関係を維持し、今後も密に連絡を取り合う、とのレベルにとどまりました。日中をはじめ、菅外交には米中の複雑な関係が大きな手かせ足かせになっていくでしょう。

(斎藤満)

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