安倍政権下で軽んじられてきた精神障害者の「命の値段」と、大きな進歩

文=みわよしこ
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・2017年8月~2018年10月(厚生労働大臣は加藤勝信氏)

2017年9月
 国会が解散されたため、精神保健福祉法改正案は廃案に。

2017年12月
 大阪府寝屋川市で、精神障害のある長女(当時33歳)を10年以上にわたって監禁し続け凍死させた50代の両親が逮捕された。

2018年4月
 兵庫県三田市で、精神障害を持つ40代の息子を20年以上にわたって自宅で檻に監禁していた70代の父親が逮捕された。

2018年5月
 日本精神科協会の機関誌『日本精神科病院協会雑誌』巻頭言内で、理事長の山崎学氏が、部下の発言の紹介という形で「精神科医にも拳銃を持たせてほしい」と述べ、激しい議論を呼んだ。

2018年6月
 兵庫県三田市で息子を監禁していた70代の父親に対し、懲役1年6カ月(執行猶予3年)の判決が言い渡された。判決文によれば、「社会全体が自覚に乏しかったことも一つの要因」であるとして情状が酌量された。

2018年7月
 松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚をはじめ、一連のオウム真理教事件で死刑が確定していた13人の死刑囚に対し、死刑が執行された。松本死刑囚の精神状態については、公判中より疑問が持たれていた。しかし、刑事訴訟法第479条「死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によって執行を停止する」の規定が該当したか否かを確認する手段はない。

 参院選で、「れいわ新選組」から出馬した重度障害者2名が当選。8月より、参議院議員としての活動を開始。

2018年8月
 法律家・研究者・精神障害分野の障害者運動家らが協力し、精神医療国連個人通報センターを設置した。

 設立直後より、2016年に東京でホテル住まいしていた60代女性を警察が措置入院(後に医療保護入院に変更)させ、強制入院が継続されていることについて、国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会に申し立て。精神障害を理由とした拘禁と強制医療について、同年中に数件の申し立てを行った。2019年6月以後、組織としては事実上の機能停止状態となっているが、メンバー各自による申し立ては継続して行われているものと見られる。

・2018年10月~2019年9月(厚生労働大臣は根本匠氏)

2018年11月
 石郷岡病院事件、控訴審判決。元看護スタッフの1名は地裁判決と同じく無罪。もう1名は公訴時効による免訴。

2019年1月
 国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会は、2016年に東京でホテル住まいしていた60代女性を警察が措置入院(後に医療保護入院に変更)させ、その後も強制入院を継続していることについて、恣意的かつ障害等を理由とする不当な自由の剥奪であると判断した。また、この状況を解消しようとしない日本政府に対し、世界人権宣言および国連人権規約(自由権)違反であるとした。

2019年3月
 2014年2月に開始された医療観察法国賠訴訟の東京地裁判決で、原告の男性が敗訴。東京高裁に控訴。

2019年5月
 川崎市登戸で、刃物を持った男性(当時51歳)が、私立小学校のスクールバスを待っていた児童・教職員・保護者を襲い、2名を死亡させ、18名を負傷させた。男性本人も自刎により死亡。男性は、長年にわたって引きこもり状態にあった。

2019年6月
 東京都練馬区で、元農水事務次官の父親(当時70代)が、引きこもっていた40代の息子を殺害した。登戸の事件を契機として、父親は、自分の息子が同様の事件を起こすのではないかと危惧したという。息子には精神疾患があった。

2019年7月
 京都アニメーション放火事件。容疑者の男性は精神障害者であった。全身の重い火傷の治療が必要だったため、直後には逮捕されなかった。

・2019年9月~2020年9月 (厚生労働大臣は加藤勝信氏)

2019年9月
 国連ジュネーブ本部において、国連障害者権利委員会が日本に対する初の審査を開始。予備審査では、日本政府に対し、優生手術および精神科の強制入院に重点を置いた質問を採択した(政府の回答を受け、2020年8月に本審査が行われる予定であったが、新型コロナの影響により延期され、2021年3月以後に行われる見通し)。

2019年10月
 2014年2月に開始され、2019年3月に東京地裁で原告の男性が敗訴となった医療観察法国賠訴訟の高裁判決で、原告の男性が敗訴、最高裁に上告。

2019年11月
 京都で単身生活を行っていたALS患者の女性(当時51歳)が安楽死を希望し、医師2名により幇助自殺を遂げた。女性は24時間介護を必要としており、介護を受けることは出来ていた。しかし女性のブログやツイートには、深刻な介護者不足を背景としたQOLの著しい低下や虐待の可能性、そしてメンタルヘルス状態の悪化が示されていた。

2019年12月
 引きこもりの息子を殺害した元農水事務次官の父親に対して、殺人罪で懲役6年の実刑判決。拘置されていた父親は保釈され、控訴。

2020年1月
 日本精神神経学会が、理事長からの新年挨拶を公開。「(なぜ身体拘束が)今に至ってもなくならないのか、それをなくすにはどのような精神医療が必要なのかを考える必要があるでしょうし、そもそも入院に至らないですむような、良質なメンタルヘルスサービスを拡大することも同時に進めて行く必要があるでしょう」という内容

 相模原障害者殺傷事件の公判が開始された。

2020年3月
 相模原障害者殺傷事件で死刑判決。被告は控訴せず、死刑が確定。

 神戸市内の精神科病院「神出(かんで)病院」で、看護師ら6名が、患者に対する虐待により、准強制わいせつや監禁等の容疑で逮捕された。

 精神科病院での新型コロナウイルス集団感染が明らかになり始めた。

2020年4月
 精神科病院での新型コロナ集団感染と治療対策が課題に(その後、精神科入院患者のみを対象とした治療施設の設置による対応が相次ぐ)。

2020年5月
 大阪府寝屋川市の監禁致死事件で、50代の両親に懲役13年の実刑判決が下された。罪名は、保護責任者遺棄致死および監禁。在宅起訴されていた両親は控訴。

 京都アニメーション放火事件の容疑者、逮捕され大阪拘置所へ(2020年9月現在、精神鑑定のため留置継続中)。

2020年7月
 2019年11月、京都市のALS患者に対する幇助殺人により、医師2名が逮捕され、多数の報道が行われた。逮捕された医師2名の異常性がクローズアップされる一方で、介護の課題が女性のQOLを低下させ、このことがメンタルヘルスを悪化させて安楽死への強い希望を抱かせた可能性は焦点化されなかった。

2020年9月28日
 神出病院の虐待事件において、起訴された6名のうち2名に懲役2年の実刑判決。他の4名のうち3名には執行猶予つき有罪判決。

 この他、優生手術に関する国賠訴訟とその結果も重要だ。優生保護法のもとでは、精神障害も優生手術の理由として認められていた。1996年に優生保護法が廃止されてから7年後の2003年、精神障害を持つ男性がパイプカットを条件として退院を認められた事例もある

 また、この期間は、改元と2020年東京五輪に関する準備や行事を多数含んでいる。歴史は、このような国家行事が精神障害者の収容や人権侵害の契機となってきたことを繰り返し示している。第二次以後の安倍政権下には、少なくとも「いまどき、そんなことは絶対にありません」と確信できる要因はなかった。2020年現在は、コロナ禍が精神科病院への訪問や面会による人権状況のチェックを困難にし、退院促進を阻害している。

 第二次以後の安倍政権下では、障害者に対する「福祉から就労へ」という政策が強く推進された。これと関連して、障害年金の地域間の不公平をなくすことを口実とした不支給や級切り下げも相次いだ。ある程度の就労促進の拡大は見られたものの、就労に関する障害者差別の告発も続いた。

 また2018年には、厚労省による官公庁の障害者雇用数の水増しが明るみになった。コロナ禍のもとで解雇される障害者たちに、健常者と同じ慎重さと配慮が向けられているとは考えにくい。そこに、コロナ禍によるストレスの増大が重なり、本来ならば経済面や生活面のサポートを含む本質的なメンタルヘルスの底上げが望まれているはずの状況下で、安倍政権は終了した。

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