障害者権利条約の締結後、後退した障害者の「参加」
いずれにしても、民主党政権の期間に障害者福祉に関する法や制度が検討された結果、国連障害者権利条約を締結するにあたっての国内法整備が完了した。そして2014年1月、安倍政権下の日本は、国連障害者権利条約を締結した。しかし、障害者の政策決定への参加は、安倍政権下において著しく後退した。精神障害者の参加は激減し、知的障害者は皆無となった。「狡兎死して走狗烹らる」ということであろうか。家族会の幹部の参加が認められることは珍しくないが、家族は当事者を代弁できる存在ではない。
過去も現在も、自民党政権下で政府委員会や検討会に参加を認められる極めて少数の当事者は、政府方針に概ね異を唱えない。
たとえば2016年から2017年にかけて開催された「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」に、30名の構成員のうち唯一の当事者として参加していた広田和子氏(精神医療サバイバー)は、そのような当事者活用の典型に近い。広田氏の存在は、精神保健福祉サービスや精神科医療や行政の立場に立つ構成員たちに、「当事者の声を聞いています」と主張できる裏付けを与えている。
菅内閣と田村厚生労働大臣のもと「骨格提言」は、さらに音高く踏み折られるのか
菅義偉首相は、自民党総裁選に出馬した段階から、厚生労働省の再編に意欲を示している。そして厚生労働大臣に就任したのは、第二次安倍内閣で最初に厚生労働大臣を務めた田村憲久氏だ。正直なところ、筆者は希望を持てない。民主党政権下で辛うじて結実した骨格提言を、最初に音高く踏み折り始めた厚生労働大臣の再来だ。
もともと、日本精神科病院協会(日精協)と自民党の関係は深い。日精協の傘下には「日本精神科病院協会政治連盟」という政治団体もある。2003年には、日精協が自民党議員に総額1億5千万円の献金を行っていたことが明らかになり、週刊誌で報道されて社会問題となった。日精協による「晋精会」という安倍首相(当時)の後援会も存在した。菅内閣と田村厚生労働大臣は、少なくとも、日精協が歓迎しない政策は実施しないだろう。なお、2011年に「骨格提言」が示し2014年に国連自由権規約委員会が日本政府に対して勧告した、政府と独立した人権監視機関を設置し国費で運営することについては、特に2018年以後、憂慮すべき激しい動きが表面化して現在に至っている。いずれ、本連載で詳細にレポートしたい。
第二次以後の安倍政権が日本のメンタルヘルスをめぐる状況を悪化させ、メンタルヘルス上の課題を持つ人々の人権を後退させたことは、もはや疑いようがない。この流れは、菅義偉内閣で加速されるしかないのだろうか?
筆者は、厚生労働省サイト内に「骨格提言」および障害者自立支援法違憲訴訟に関する「基本合意」が残されていることに、希望を見出したい。内閣府サイトは「なかったこと」にしているが、厚生労働省は同じ姿勢を取っていない。日本のメンタルヘルスと精神障害者たちにとって、このことは「最後の砦」の一つとも言える。しかし、いつまで守られるのだろうか。厚生労働省を再編するドサクサにまぎれて、担当する部署ごと消えてしまったりする可能性はないだろうか。
再任した田村憲久厚生労働大臣には、「安倍政権下でやり残したことを、徹底してやりたい」という思いがあるだろう。「安倍政権のスタート時に、あんなことをするのではなかった」という反省もあるだろう。日本のメンタルヘルスの今とこれから、精神疾患や精神障害を持つ人々の明日に、何が起こるのだろうか。過大な期待はせず、油断せず、是々非々で関心を向け続けたい。